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[ショートショート] アミノ酸星人現る

  ここはとあるアパートの一室。そこでは、若いOLが一人鏡を見ながら唸っていた。
「最近、なんかお肌の調子が悪いなぁ……抜け毛もひどいし。やっぱり今使ってる化粧水がわるいのかな」
 彼女がため息をついたその時、こんな声がした。
「ちょっと待った!」
 なんの脈絡もなくした声にOLが振り向くと、みょうちきりんな格好の人物が立っていた。
「あんた、誰?」
 全身タイツのように見える銀色のマスク付きスーツ-顔にあたる部分には"アミノ酸"と書いてあった-をまとったそいつは、スーパーヒーローよろしくこう自己紹介した。
「ぼくは、アミノ星人。アミノ星から来たんだ」
「あ……アミノ星人?」
 ほうけた顔でそうおうむ返しする彼女に、アミノ星人はこう言った。
「お嬢さん、さっそくだけどタンパク質取ってる?」
「え……」
 会っていきなりそう言われたら、ポカンとするしかなかった。
「タンパク質?」
「タンパク質は綺麗な肌や髪を作るんだ」
 それを聞いた彼女は、先程悩んでいたことを思い出した。
「あ……もしかして最近肌が荒れてるのって……」
 そんな彼女を見たアミノ星人は、相手に向かって指を向けた。
「お嬢さん、最近の食事を振り返ってみて」
「えーと……」 
 彼女は、ここ最近食べていたものを思い出した。
「最近は、ずっとコンビニ弁当とか、菓子パンとか、あとカップ麺しか食べてない気がするなあ」
 すると、アミノ星人が額がくっつきかねない距離まで顔を近づけてきた。
「お嬢さん、それはいかーん!」
「仕方ないじゃない。忙しいんだもん」
 彼女がそう口を尖らせると、アミノ星人はさらに顔を近づけた。
「いやいや。お嬢さん、忙しい人ほどタンパク質は必須だよ」
「え?」
「タンパク質は、髪や肌だけではなく、思考力や集中力、さらに免疫力も高めるんだ。だからいい事づくめだ」
「そうなんだ。で、どうとればいいの?」
 彼女がそう言うと、アミノ星人はさらに続けた。
「豚肉など肉類や魚、あと卵とかを積極的にバランスよくとればいいぞ」
「なるほど……」
 彼女は頬杖をついた。
「でも毎日するには面倒なのよねー」
「そんな時には、鍋料理がおすすめだ」
 アミノ星人はそう言うと、立ち上がった。「ちょっと台所をお借りするよ」
 そいつはそう言うと、どこからともなく土鍋と材料を出すと、よどみない手つきで料理を作った。
「できたぞ。ゴマ豆乳鍋だ!」
 彼女の前に、香ばしい匂いの湯気がたった。
「おいしそう……いただきます」
 彼女は、それを一口食べた。
「んー、これだと私でもできそう」
 その横で、アミノ星人が言う。
「でしょ?鍋料理だとぱぱっとできるから忙しい人にピッタリなんだ」
 その口元は、モゴモゴと動いている。
「って、なんであんたも食べてるのよ」
「だって、一人より二人で食べたほうが楽しいだろう」
「……そうね」
 この後二人は、ゴマ豆乳鍋を心ゆくまで味わった。 

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