見出し画像

《閑話》とあるアザミの情報過多(オーバーフロー)【交流創作企画#ガーデン・ドール】


ワンズの森で1週間のサバイバル生活から帰ってきたアザミさん。その1週間のうちに、ガーデンでは様々なことがあったようで……?




つい書きたくなった話。

とっても閑話‪(   ॑꒳ ॑   )のんびりしよ


B.M.1424、3月30日。

その日の夜、LDKに二人の影があった。
「久しぶりに料理を作りたい」と言ったククツミがキッチンで具材を切り、その横でククツミについてきたレオが、ところどころにひき肉を飛ばしながらも真剣に捏ねている。
二人は時々会話をしながら、笑いあって楽しそうに料理をしていた。

その様子を入口で覗く影が一人。

アザミ「えぇ……知らない人いるんですけど……誰ェ………」

片目に眼帯を付けた紫の髪のドール、アザミだった。
ククツミは同じ同期としてもちろん知っている。知らないわけがない。
ただ、問題はその隣のドールだ。
あの髪色はどこかで見たことがあるような気もしなくもないが、知っている情報と行動がどうにも違いすぎる。
ただ、さすがにサバイバル帰りで鳴り止まないこのお腹の虫はどうにかしないと、色々と辛い物があり。
そろそろ…、と中に入ろうとしたところで

シャロン「あれ?アザミさん、こんなところでどうしたんだい?」
アザミ「ひっ! お化けェ!?」
お化け「どうしてだい!?」

お化け、もといシャロンに後ろから声をかけられてアザミは情けない悲鳴をあげた。サバイバル生活中に森で出会い、そしてふとどこかに消えたシャロンを、アザミは『シャロンに化けた何か』だと思っていたのだから仕方がない。

シャロン「あ、いや……もしかして森の……」
アザミ「はい、え?本当にあれシャロさんだったんですか!?」
シャロン「あれは本当にすまない!!アザミさんが奥まで行けないのボクすっかり……」
アザミ「あの後大変だったんですよ! あまり道の特徴見てなかったから丸一日さまよってたんですから!」

先日、ワンズの森で起きたことの弁解や説明をふたりでしばらくしていたが、ひと段落してからシャロンが尋ねる。

シャロン「ところで、中に入らないのかい?」
アザミ「あ、いえ、まぁ入るんですけど……」

そうして大人しく中に入る二人。

一方キッチンでは初めてと言える料理に苦戦しているレオをククツミが笑いながら見守り、着々と工程を進めていた。
足音を聞き、ふたりは入ってきたアザミとシャロンに気付く。

シャロン「やあククツミ、さん……と、リラさん、じゃない、よね……?」
アザミ「こ、コンバンハ〜………」
ククツミ「あら、シャロンさんとアザミさん、こんばんは」
レオ「………」

ククツミは作業から顔を上げて、声のする方へ顔を向ける。
レオはちらりと見はするが、また手元に視線を向けてひき肉と格闘をはじめた。
アザミとシャロンはその様子を見て困惑する。

シャロン「えぇと………?」
アザミ「…やはりどことなく、リラさんに似た雰囲気なような…?」
ククツミ「……えぇと、この方はですね、レ」
レオ「ククツミ、この後どうすればいい」
ククツミ「え、あぁその、次はですね……」

ククツミの紹介を遮るように次の作業の確認をするレオ。
その様子にアザミとシャロンはますます顔を見合わせた。

シャロン「通知で新入生が入ったとはあったけど…」
アザミ「誰なんですか、あの子」
シャロン「名前は確か………レオくん、だったかな?」
アザミ「なるほど」

人見知りなんですかね? とアザミは首を傾げる。
自身も、とあるきっかけがないままであればずっと部屋に引きこもっていたであろう。
新入生もそういうタイプであると思えば不思議ではない。
そしてククツミとすでに仲が良さそうであるということも、ククツミが天然タラシなのだろうと思えばなんら不思議ではない。
同期をなんだと思っているんだアザミは。

レオの様子に苦笑いをしながら、シャロンはククツミの隣に寄って話しかける。

シャロン「ククツミさん、昨日は一人にしてしまったけど大丈夫だったかい…?」
ククツミ「昨日ですか?その……不思議な縁はありましたけれど……すてきな1日でしたよ」

シャロン「あー……えっと……さっきから気になってはいたけれど……ククツミちゃん、でいいのかい?」
ククツミ「……ええ。私は、もう、大丈夫です。……全てが大丈夫、ではないですけれど……これは大丈夫、ですね」
シャロン「それなら……うん、わかった。……よかった」

その会話を聞きつつ、アザミはククツミを改めて観察する。

アザミ「………血のにおい」

サバイバル生活により感覚の研ぎ澄まされたアザミにとって、それはとても感知しやすいものである。
しかしそれを聞いたククツミの反応はアザミにとって予想外のものあった。

ビクッと、怯えた顔で肩をこわばらせるククツミと、途端に目を釣りあげてアザミを睨むレオ、険しい顔になるシャロン。

アザミ「え?え???」

ククツミと決闘をしたことがあり、戦闘能力が高いことを知っているアザミからすれば「また決闘をしたのだろうか」と思ったが故の発言であった。
というのに当のククツミから怯えという反応が返ってくるとは思いもよらず、そして他2名の臨戦体制にもアザミは目を丸くする。

アザミ「なん……え? 何か選択を間違えましたか私……?」
シャロン「アザミさん、ごめん……今それ以上は……」
アザミ「わ、わかりました……」
グロウ「こんばんは、皆さん。夕飯でしょうか?」

ふたりが言葉を続ける前に、LDKの出入り口でカツンと音がする。
教育実習生であり生徒のメンタルケアを担当するカウンセラー、グロウがそこに立っていた。

シャロン「あ、グロウさん……こんばんは」
アザミ「コンバンハ、そうですね、夕飯を……あ、あはは」
ククツミ「あ、今その……久しぶりにハンバーガーでも、と思っていまして……」
レオ「……」

グロウ「ハンバーガーですか!……いえすみません、以前いただいたものが美味しかったので、つい……」

グロウは他者の感情を見て覚える。
来てすぐは乏しかった感情も、今は多少は表情豊かに表現するようになっていた。

パーティの準備中に、ククツミがグロウにハンバーガーを振る舞ったのは1月のことだったか。
初めて大きな口を開けて、とても美味しそうに食べていたことをククツミは覚えていた。
そしてハンバーガーという言葉に、アザミもそわそわと反応を示す。

アザミ「お昼も食べましたけれどやはり火の通った肉……味のあるもの……あぁ、考えただけでもお腹が……」
ククツミ「……その、皆さんの分もお作りしますので、よければお待ちくださいね?」

ククツミのお人よしが発動すると、隣のレオは呆れた顔をする。
ありがとうございます!という返事が複数返ってきたことでククツミは笑い、レオと共にまたキッチンで作業を再開した。

シャロン、アザミ、グロウはダイニングのテーブルに座り、料理を待ちながら歓談に花を咲かせる。

グロウ「そういえばアザミさん。アザミさんからお勧めされた本、読みました。その……心がつらくなる話でした……」
アザミ「そこが、良いんじゃないですか! 前半の緩やかさから後半の苛烈な心情描写の格差がたまらないんです! 愛するものを呑み込んで満足しながらも何か失われたような虚しい気持ちになるドラゴン! 愛してたけど腹の中でとかされていく少女の虚しさやそれでも愛そうとする心、そして抗えない痛みと苦しみへの悲鳴! 愛とはまさにひとつに溶け合うことだと言わんばかりに!」

一方はつらさに顔をしょんぼりとさせているというのに、もう一方は恍惚の笑みで鼻息荒く語っている。
歓談とは一体何なのか。
そこにまた新しく人影が増える。

リラ「あら、みなさんお集まりのようですね?」
ヤクノジ「ん、みんないっぱいいるねー」

ハンバーグの焼けた香りが漂う頃、LDKに現れたのはリラとヤクノジだった。

ヤクノジ「こんばんは。グロウ先生に……シャロンちゃん、アザミちゃん、ククツミちゃんに……あっちにいるのがレオくん?」
リラ「ふふ、料理してるなんて珍しいですね」

奥でククツミと作業をしているレオはまだこちらに気付いていないらしい。
至って普通に作業の手を進めている。
が、他のドールたちはやはり気になってしまうのだろう。
ヤクノジの喋り方も変わり、呼び方も変化している。
柔らかな笑みも、今までのものとは全く違うとすぐに分かってしまうもの。

シャロン「ヤクノジ……くん?」
グロウ「ヤクノジさん、何だかいつもと雰囲気が……?」
アザミ「……もしかして、やりました?」
リラ「私が思っているものと一緒なら、答えははい、ですね!」
ヤクノジ「他の誰かに渡したくなかったからね」
リラ「ふふ、どんなヤクノジさんでも大好きですよ」
グロウ「???」
どことなく甘い雰囲気が漂う中、グロウはよく分かっていなかったが、生徒同士で話が通じているようだったので今は深入りしないでおいた。

ヤクノジ「別に、後悔することでもないからなあ……ねえ?」
リラ「ふたりの誓い、ですからね!」
アザミ「どこまでいっても甘い2人なんですから……まさかあの行為を『愛の誓い』のように扱うなんて……」

すこしうんざりしたようにリラとヤクノジを見て肩をすくめているアザミ。
正直、次に何が来てももう驚かなくなりそうになってきている。

グロウ「リラさんとヤクノジさんって仲良しなんですね?」

状況を理解してないグロウはヤクノジとリラの様子を見ながら首を傾げた。
シャロンは何とも言えない表情になる。

シャロン「仲良しというか……」
アザミ「デキてるんですよあれは」
グロウ「デキてる?何がですか?」

アザミはなげやり気味に答えるが、グロウは言葉の意味が分かっていないようだ。
ヤクノジは微笑みながら単刀直入に告げた。

ヤクノジ「僕達、恋人同士なんですよグロウ先生」
グロウ「恋人…………えっ!?」

ヤクノジとリラは目を合わせて幸せそうに微笑み合う。グロウは驚いて目を瞬かせている。
そんな様子にからころと笑いながら、ククツミが料理の完成を知らせにきた。

ククツミ「みなさんお待たせいたしました、ハンバーガーが出来ましたよ。リラさんとヤクノジさんもこんばんは」
ククツミとレオがキッチンからいくつかのハンバーガーを持ってダイニングに現れる。
ヤクノジの変化については事前に知っていたため、驚いた様子は無い。

リラ「こんばんは!ハンバーガーですか、良いですね。みなさんと一緒にいただきたいです」
ヤクノジ「良い香り。僕も食べていい?」
レオ「……ククツミに感謝しろ」

何個になるのか数えるのが大変な量を持って、ダイニングのテーブルに並べる。
全員分のハンバーガーを並べ終えて、はやる気持ちを抑えながら、みんなで。

「「「いただきます!!!」」」

それは歓声にも近い掛け声。

アザミ「やっぱり美味しい……最高……」
リラ「そういえばアザミさんのことも数日見ていなかった気がしますけど……どこかに行っていたんです?」
アザミ「あ、ちょっとその……森に……」
グロウ「森……ですか?」
アザミ「はい、1週間サバイバルしてました」
「「サバイバル?!」」

みながみな驚きの反応をあげているのを見ながら、当の本人は大きくかぶりついたハンバーガーを口いっぱいに頬張り、落ち着いたところで話し始める。

アザミ「シキさんってば酷いんですよ!? なんかまるで森にやばい捕食者がいるみたいな匂わせしておいて、小動物しかいなかったんですから! おかげでドッと疲れましたよホント……まぁ、得られるものもあったんですけどネ……」

ククツミ「……私、森に入ったことはないのですけれど……危ない動物って居ないのですか?ワニやライオンなど、てっきり居るのかと……」
シャロン「瞑奏魔機構獣が呼び出していた動物もいたけど、あれは野生じゃなかったみたいだからね」
ククツミ「そうなのですか……何はともあれ、アザミさんが無事でなによりです。小動物しかいないなんて、可愛らしいではないですか」

ヤクノジ「小動物、可愛いよね。僕もワンズの森って行ったことなかったし、明日行こうと思うんだ。モルモットとかいないかなあ、探してみようかなあ」
アザミ「モルモット! 私も好きですよ。ウサギもとてもおいしかったです!」
ヤクノジ「?」
アザミ「???」
ヤクノジ「えっ……?ウサギやモルモットを食べ……?」
アザミ「空腹で死ぬわけにはいきませんから」
ヤクノジ「そ、そりゃあそうだけど……」
リラ「ア ザ ミ さ ん ?」
アザミ「ひっ……な、なんかスミマセン……」

冷や汗をかいているアザミとしょんぼりしたヤクノジ、その横でリラが圧のある笑顔でアザミの方を見ている。
生き残るための術とはいえ、アザミは随分と生々しいサバイバル生活をしていたようであった。

ククツミ「……水分補給はどうしていたのです?ブルーの水泡魔法でしょうか?」

ヤクノジ「ああ、水泡魔法?……ブルーの魔法って、生活がちょっと便利になる程度だからね……」
そんな何気ない風に言いながら、ヤクノジは手のひらに水泡をひとつふたつと生成していく。
そしてそのまま水泡を凍らせ、手のひらの上でころころと遊ぶ。
それを見て、リラがその凍った水泡に反射魔法をかけて、指先から発光魔法で照らしはじめる。
キラキラと光を反射して輝くそれは、ミラーボールのようで、途端に踊りだしたくなりそうな雰囲気だ。

グロウ「わあ!素敵ですね!」
それを見たグロウは目をきらきらと輝かせている。

ククツミ「今のは水泡魔法と……前にアザミさんに見せていただいた放散魔術でしょうか?……ふふ、反射も発光も綺麗ですね」
見せていただいた、というより実際に服を凍らされた経験があるのだが、ククツミは懐かしそうに返事をする。

アザミ「おしゃれな使い方しますね……そんな使い方をする発想はありませんでした」
ヤクノジ「えっ、これくらいしか使い道ないなあって思ってた」
リラ「魔法って言っても、クラス魔法についてはあんまり使う機会ないですよねぇ」

アザミ「以前ククツミさんにお見せしたのは、液化魔法と放散魔術の合わせ技です。液化はある程度体積が減っても体に影響は出ません。だから凍らせやすいように水分を服に含ませて、凍らせたというわけです」

ククツミ「あら、そうだったのですね?てっきりあれでアザミさんの身長が縮んだのかと」
アザミ「そんなデメリットがあったら使えませんよ?え?縮んでます?え???」

ククツミ「ふふ、冗談です」

アザミ「冗談に聞こえないんですよ貴方のは……。基本的にブルークラスの魔法・魔術の燃費はあまり良くありません。 樹氷魔術なんて、花蕾級の私が1メートルの氷柱4本作るだけで魔力切れです。だから射出するような使い方は、正直なところあまり向いてませんね……勿体無い」

ククツミ「そうなのですね……。あ、ポテトフライとチキンナゲットもありますけど、みなさん食べますか?」

アザミ「食べます」
グロウ「食べたいです」
レオ「俺も食う」

魔法談義に花を咲かせつつ、食い意地の張った三名がしっかりと手を上げる。
各々満足したドールから皿を持って洗い場へ行く。
食後はゆっくりとお茶を飲みながら、また談笑へと戻って行った。

「ご馳走様でした!!!」

それぞれしっかり食べ終わり、最後の皿が洗い場へ到着する。
皿に付いたケチャップやソースを見て、とあることを思いついたのか

ククツミ「疎水魔法を手にかけたらお皿洗いが楽になるのでは……?」

と発言するや否や

ヤクノジ&アザミ「むしろ皿にかけると、こう」
2人が洗い終わった皿に疎水魔法をかけると、いとも簡単に皿が乾いていく。
乾燥の待ち時間なく食器棚に皿を戻せるというのは、料理好きのククツミにとって画期的なものであった。

ククツミ「便利ですね……!」
ヤクノジ「こういうことなら、すごく便利なんだよね」

いろんな情報が一度に押し寄せた日ではあったが、久しぶりの団欒を楽しんだ面々。
そして、生活に一番役立つのはブルークラスの魔法だ、という意外な一面を知った日でもあった。

このまま、日常に戻れる。
と思いたかった。



#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品

【企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん