残された者たちと、これからの記憶は。【交流創作企画#ガーデン・ドール】
B.M.1424、4月5日。
レオがククツミとバンクを抱えて向かった先は、学園から出て少し先にある仕立て屋だった。ようやく下ろしてもらえたククツミは、数回しか来たことがなかった仕立て屋の前で首を傾げる。
「服、ですか……そういえばあまり考えたことがありませんでしたね……?」
「……イベントの時のカニとか、あっただろ」
「あ、そうでしたね。……ふふ。あれはその、どうやったら赤ずきんとカニを合わせたものができるかなと思って案を練ってたら……楽しくなってしまって……」
仕立て屋の中に入ると様々な色や柄の布や糸、そして仮縫いの服を着せられたトルソーなど、服飾に必要なものはなんでもあるようだった。
壁際にはポールに掛けられたいくつもの服があり、シンプルなTシャツからいつ着るのか到底想定できないドレス、それに併せるためだろうアクセサリーや靴まで幅広く取り揃えられている。
レオは物珍しそうに店内を見回しているククツミを仕立て屋の店員であるアライグマの前に連れて行き、
「……俺はよく分からないから、こいつに合うのを頼む」
そう言ってククツミの背中を軽く押す。
「え、あの……?」
仕立て屋の店員はまかせろ!とでも言うように力強く指を立て、頭にはてなを浮かべたククツミを連れていく。そうしてククツミのファッションショーが始まった。
まずひとつめは白地に所々赤や桃色などで花の刺繍の入ったオーバーサイズのパーカーに、短いジーンズ生地のパンツを併せて大胆に足を出した見た目だった。
足元は黒のニーハイで肌を隠しつつ、スニーカーで全体的にゆったりとした印象を与えながらも動きやすさを重視したスタイルである。カジュアルながらも品の良い色合いがククツミの物腰の柔らかさを想起させた。
「……短く、ありませんか……?」
しかしククツミはボトムスとソックスの間にできた、太ももの素肌が露出した部分を見て恥ずかしげな表情を浮かべる。仕立て屋の店員はそれが良いのだと言わんばかりに親指をグッと立てるが、レオはその頭を軽くはたいた。
仕立て屋の店員はしぶしぶといったように次のコーデをククツミと共に試着室に詰め込む。チラリと布地を見ただけでもかなりの質量があるように思えたが大丈夫だろうかとレオは首を傾けた。
多少着替えに時間がかかったものの、次に試着室から出てきたのはとても可愛らしい姿のククツミだった。全体のカラーを白で纏められたロリータ調であり、首から足元までふんだんにフリルが使われている。
少し動くだけでふわふわと揺れるスカートは中に仕込まれたパニエで膨らみ、見た目に反して軽そうな印象を与える。着けられたドレッサーも白いが、それ故に肌自身の白さも際立っていた。
先ほどとは打って変わった、白く幼いお姫様のような格好にレオがほうと息をついたのも束の間。
「おも……い……」
着込んでいるため重みがあり、それは久しぶりに外出したククツミにとっては多少息苦しいものであった。
「……もう少し、普段から着やすいものにしてくれないか?」
レオの提案に仕立て屋の店員は悩むように頭を傾げ、また店内を走り回る。
次の服装は、先日出会ったリラの服装と似たようなものであった。
薄い水色のブラウスの首元はいくつかボタンが開いており、ゆったりと鎖骨を覗かせている。その上から亜麻色のジャケットを羽織り、同じ色のスラックスがすらりと伸びた足を包んでセットアップになっている。
先のまるいラウンド型のトゥシューズにはレース地が使われており、ワンポイントに小ぶりなリボンが付いている。
「この前会ったリラさんも、こちらの色違いのような装いをしておりましたね……?」
「そうだったな」
ククツミは気に入ったようであるが、レオはリラに既視感を覚えることが少し引っかかるようである。
「……なぁ、あれ試着できないか?」
レオが指差したのは、壁側に並べられているトルソーにかけられた服のひとつだった。少しだけ悩んでから名案が浮かんだかのようにハッとした仕立て屋の店員は、そのトルソーからワンピースと、他の場所からもいくつか取り出してククツミに全て預けた。
「えぇと……着てみますね?」
首を傾げたククツミが更衣室に入って数分後。着替えて出てきたククツミを見て、レオはその場で固まった。
肩ひもは細く、下に行くにつれて薄緑色にグラデーションがかったマキシ丈のワンピース。そのウエスト辺りからは、落ち着いた淡黄蘗色(うすきはだいろ)のシフォン生地がゆったりと広がって優しく仕上げている。
上には淡紅色(たんこうしょく)のカーディガンをふわりと纏って春のような暖かさを感じさせており、ククツミの柔らかい印象をさらに引き立てるように魅せていた。
「……これ、好きかも……しれません……」
後ろ髪をまとめるポンポン付きの髪ゴムに触れながら、ククツミは恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑う。
自分でなにかを決める、そのことに対してひどく不安を抱えていたククツミであったが、以前の礼節の花を模した印も含め、自分が好きだと思えると口に出せるようになったことは大きな進歩であった。
「……。」
「レオさん……?」
しかし、ククツミを動かした当の存在は口を少し開いた状態のまま動かない。ククツミがかなりの距離まで近づいて首を傾げたところで、レオはようやく我に帰ったようだった。
「いや………、…うん、良いな」
「この際だ、俺も着替えるか」
そのままレオは店内をぐるりと見回して、適当な物を手に取り更衣室に入る。
ものの数分で出てきた時には既に制服ではなく、ククツミの物より色の強い金糸雀色(かなりあいろ)のグラデーションが入ったパーカーに黒に近い灰色のパンツと上着を着て立っていた。
「とても素敵ですね……!」
「……ん、これで準備はいいな」
そうククツミに告げつつ、二人して新しい服の感触を楽しむ。その様子を見ていたバンクに、仕立て屋の店員はククツミの瞳と同じ紅色のちいさなスカーフを差し出した。
どうやら仕立て屋の店員が気を利かせて用意してくれたらしいそれをバンクは首に巻いてもらい、ご機嫌にククツミのもとへ寄って行く。
「あら、バンクさんも。……ふふ、とても素敵で可愛らしいですね」
バンクを肩に乗せたククツミは嬉しそうに頬を擦り寄せる。身なりを多少変えただけというのに、こうも気分が上がるのは何故だろうか。
「……よし。歩けるか?」
「大丈夫です、けれどこんなにおめかしをして……これからどこかに行くのですか?」
「あぁ。まぁ、その、な……」
「……?」
「……とりあえず、嫌な記憶にはならない……し、させないはずだ」
レオは不敵に笑みを浮かべて告げるが、その様子を見て未だにククツミは首を傾げている。
これからどこに行くのか。
着慣れていない服のせいもあってそわそわと落ち着かない気持ちを、スカートの裾を触って誤魔化した。
そして、また手を引かれて外に出る。仕立て屋の店員はふたりと1匹を出口まで見送り、それに軽く手を振って何処かへ向かう。
不安よりも楽しい気持ちが、ククツミの髪をふわふわと揺らしたような気がした。
到着したそこはククツミもレオも初めて見る景色であり、観覧車やメリーゴーランドなど、様々な遊具が魔力によって動いている遊園地であった。
カラフルな色使いで飾り付けられたそこは、仕立て屋とはまた違う楽しさを教えてくれる。
ククツミから思わず感嘆の声が上がった。
「遊園地……私、初めて来ました……!」
「あんまりはしゃぎすぎないようにな」
きょろきょろと首が取れるんじゃないかと思うほどあれこれ見回しながら、その頬は心なしか紅潮していた。
その様子を見て頬を緩めつつ、好きではなかったらどうしようかと内心不安を感じていたらしいレオは気付かれない様に小さく息をつく。
そんな二人に、ふたつの大きな影が近付いてきた。遊園地のマスコットキャラクター、リッキーくんとリニアちゃんである。
「でか………」
身の丈がドールの1.5倍はありそうな着ぐるみもといリッキーくんとリニアちゃんは無言でレオとククツミの側でポーズを決めた。可愛らしいポーズではあるが、いかんせん大きい。
「……近くで見ると……威圧感がありますね……」
ククツミとレオが圧倒されていると、リッキーくんがククツミの肩に乗っているバンクを見て慌てるように手をバタバタとさせた。
リニアちゃんがジェットコースターを指差し、バンクを指差し、申し訳なさそうに両腕でバッテンのマークを作る。
「……もしかして、バンクさんがあれらの遊具に乗るのは危険だと伝えてくださっているのでしょうか?」
コクコクと頭を縦に振るふたりだが、頭が高い位置にあるためレオとククツミから見れば何かを頭上から振り下ろされそうになっているようにしか見えない。少しだけ後退りをしながら、ふたりはどうしようかと首を捻った。
「バンクさんが乗れないなら、どうしましょうね……」
ククツミが両手の上でしょんぼりとしているバンクに声をかけると、リッキーくんがその手の近くに手のひらを寄せた。バンクに乗れと言っているのだろうか。
何か策があるのだろうかとバンクがその手に飛び乗ると、リッキーくんはそのままバンクを連れて遊園地の入り口近くに帰ろうとする。
「ま、待ってくださいまし?!」
慌ててククツミとレオが駆け寄ると、そこにはスタンプラリー景品交換所と書かれている看板が立っていた。
「……遊び終わったら返す、ってことか?」
レオが確認のため声をかけると、またもやリニアちゃんの首が縦に揺れる。
「その……ごめんなさいね、バンクさん……」
「悪い、その……次はお前も遊べるところを選ぶから、な?」
ぷっくー、と膨れっ面なバンクをたくさん宥めてから、ふたりはスタンプラリーの用紙を一枚ずつもらって遊園地を回ることになった。
バンクと交換のように入場特典として渡されたリッキーくんの耳が付いたカチューシャを、レオは付けずに持って歩く。ククツミは羞恥心なども特にないようで、リニアちゃんの耳のカチューシャをすんなりと頭につけていた。
「レオさんはつけないのですか?」
「いや、俺は……」
リニアちゃんの耳がついたククツミがこてんと首を傾げれば、それは小動物のような可愛らしさを彷彿させる。自分がつけるのもどうかと思っていたレオだったが、ククツミの視線に観念したかのように手を挙げた。
「……分かった、つける」
「ふふ、お揃いですね」
お揃いのカチューシャをつけたふたりは、遊園地の真ん中で大きく音を立ててメインを張っている、メリーゴーランドと呼ばれている遊具に足を向けた。
テントのような屋根と円形状の回転する床から上下する棒が出ており、その間に馬や馬車などを模した座席が付いている。それらに乗りながら曲に合わせてゆっくりと回って楽しむ、といったものであった。
「これ、どうやって動いているのでしょう……魔法……?」
「魔力で動いている、らしい」
ククツミが動力について気になるように周りに目を向けていると、入場口近くにある看板から答えを得たレオが呟いた。
「こんなに大きなものも、魔力で動かせるのですね……」
「乗ってみるか?」
「はい、ぜひ!」
ククツミは白い馬に跨ろうとして、自身がスカートであったことを思い出す。横向きに腰掛けるサイドサドルのスタイルに落ち着き、レオはその後ろの黒い馬に乗る。ゆったりと流れる音楽と共にぐるりと2周ほど回った。
「あれが空中ブランコ、ジェットコースター、観覧車、コーヒーカップ、お化け屋敷……ふふ、次はどこから見ていきましょうか」
ガーデンや魔機構獣対策本部とは全く違う建物の装いは、自身が絵本の世界に迷い込んだように感じられる。それがとても楽しく、そして自己の認識があやふやになるような感覚も多少あった。
まるで、お伽話のようで。
まるで、夢みたいで。まるで……。
「……転ぶなよ」
それを繋ぎ止める手が、どれほど暖かいと思ったか。
「つ、次は、あれに乗りましょう?」
ククツミが指を刺した遊具は先ほどのメリーゴーランドと似た円形上の装置ではあるが、今度は馬ではなく特大コーヒーカップが並んでいた。
「この大きさのカップに紅茶を入れたら、紅茶のお風呂ができますね」
「……紅茶の香りが取れなくなりそうだな」
「ふふ、そうですね」
カップのひとつに2人で腰掛けると、床が回るのとは別にコーヒーカップ自体も回る。真ん中のテーブルのような物を回すと、それはさらに加速した。
「すごいスピードでしたね……!」
降りてから先ほどの様子を思い出してククツミはからころと笑うが、レオは少々酔ったようで少し青い顔をしていた。
「………次来るまでに、これは、慣れが必要だ……」
「……もしかして、酔いました?」
ククツミが首を傾げて近くのベンチに座り、ふたりはしばしの休憩時間を得る。
「……ククツミは、大丈夫か?」
「えぇ。アイススケートで回るのは慣れておりますから」
「……それも、今度見てみたいな」
ふ、と微笑みを向けられ、少し気恥ずかしい感覚がククツミの頬を撫でる。どうにか気を紛らわそうと周りに目を向けるが、この遊園地には自分たち以外の客は見当たらなかった。
「貸切状態、というものでしょうか……」
この世界に、ふたりだけ。
そんな感覚は、不思議と。
嫌ではない、と思った心は内に秘め。
「……次は、なにがいい」
「そうですね……お化け屋敷、はいかがでしょうか?」
お化け屋敷の入り口にはいかにもと言えるような様相をした看板があり、暗闇注意や驚かし要素あり、などこと細かに書かれている。
「お化け……七不思議はコッペさんでしたね……?」
「……不明は……不明だったな」
互いにお化けの思い出を振り返りながら、ククツミはお化け屋敷に入る前にレオへおずおずと手を伸ばす。
「その……手を繋いでいてもらえませんか?」
「構わないが……怖いなら入らなくてもいいぞ」
その手を取りながら、レオは心配そうにククツミの瞳を覗き込む。紫と金の瞳が目の前で煌めいた。
「えぇと……お化けに対しての怖さは怖さでありますけれど……その、驚いて咄嗟に手を出しそうで……」
「あぁ……」
ククツミの懸念の種を理解したレオは、多少気が抜けた様子で笑う。手を握り返したククツミは、今日幾度目かの暖かさに頬を緩ませた。
「ふふ、これなら安心して怖がれますね」
「……変な楽しみ方だな……」
その後ふたりは小さなライトを手にお化け屋敷の中を歩き回り、ひゃあ!という声が屋敷に何度も響き渡ったのだとか。
「あとはジェットコースターと空中ブランコ、観覧車か」
「前ふたつは……少し、体力的に厳しいかもしれませんね……?」
レオがスタンプラリーの用紙を見ながら残りの遊具を列挙するが、ククツミは少し困った表情を向けた。如何にドールとはいえども数日の昏睡から明けてすぐの外出であり、絶叫系の遊具は負担が大きいように思えたからである。
「……急に連れてきて、悪かったな」
「いいえ、そんなことはありませんよ!……その……あのまま部屋に居たら、ずっと……傷を、見ていただけでしょうし……」
俯くククツミの顔を翳りが見えて、レオは思わずククツミの顔を自分の方へ、つまり多少上向きになるように頬に手を寄せた。
紫と金の瞳が、赤と金の瞳を捉える。
綺麗、なんて。
どちらが思ったのだろう。
「……気分転換に、なってるか」
「えぇ。それは、もちろん」
「……それならいい」
最後に手を引かれて乗ったのは観覧車であった。夕焼けでオレンジ色に染まる箱庭を、箱庭で1番高い場所から見下ろす。そこには今まで見たことのない景色が広がっていた。
「レオさん、夏エリアの花畑が見えますよ!あんなに広かったのですね、すごい……」
「……そういや、まだガーデン以外のエリアは行ったことないな……」
「私もあまり……シャロンさんを探した時は、景色を見る余裕もありませんでしたから……」
あの時を懐かしむように、ククツミは笑う。眼下には映画館の屋根があり、その向こうにスワロベリーのせいで地面が多少抉れている春エリア、少し離れた場所に美術館、そして太陽の花が広がる夏エリアが見えた。
「あ、でも今度アイススケートのために冬エリアに行こうとは考えていましたね」
「……良かったら、また案内してくれ」
「はい、もちろん。……そういえば夏エリアはフルーツビーストが出ていたのでした。先にどうにかしませんと……ここから行動を観察できないでしょうか……」
ククツミは遠くをよく見ようと透明なガラス窓に手をつけて、じっと外を見つめる。
「あ、ガーデンの正門も遠く見えますね……!あんなに小さく……」
食い入るように外を見つめるククツミと、そのククツミをじっと見つめるレオ。ふたりは、ひとつの箱の中で同じ時間を過ごしていた。
「……レオさん?」
「……いや、なんでもない」
視線に気づいたククツミがレオの方を向き直って首を傾げるが、レオはフッと笑って誤魔化す。レオの胸の内は、レオにしか分からなかった。
「バンクさん、ただいま戻りました」
景品交換所にレオとククツミが戻ると、バンクが膨れっ面のままふたりを出迎えた。影がすっかり伸びる頃まで1匹で過ごしていたのだから、その表情をするのも仕方がないことだろう。
ククツミは手のひらの上でバンクを何度も撫でながら、景品交換の一覧を見る。
「スタンプは4つで……クッキー缶が交換できるようですね?」
「じゃあそれにするか」
「バンクさんも、あとで一緒にクッキーを食べましょう?」
クッキーのひとことにぴくりとバンクが反応し、ククツミの手をぺちぺちと叩く。それだけじゃ靡かないけどクッキーは食べる!と言っているようで、ククツミもレオもそれを微笑ましく見守った。
景品交換所には、幾つもの景品が並んでいた。風船、キーホルダー、クッキー缶、ショルダーケース、そして遊具6種全てに乗ることで交換できる、抱えるほど大きなリッキーくんまたはリニアちゃんのぬいぐるみ。
「……スタンプカードは当日限り有効……持ち越しはできないのですね……」
ククツミがスタンプカードの裏面に記載されている注意事項のひとつを口にする。ぬいぐるみのほうをチラリと見ていたことを、レオは見逃さなかった。
「……次は6種類制覇だな」
その言葉に、ククツミは驚いてレオの方を振り返る。レオは何か問題でもあるか?と言わんばかりに目を合わせた。
「……次も、一緒に来ていただけるのですか……?」
「当たり前だ」
レオの力強い肯定に、ククツミは笑う。
次があるのだと。
次を選ぶことができるのだと。
それを選ぶ未来を、楽しいと思える自分がいるのだと。
「……どうした?」
「いえ、その……私、今……変な顔をしていそうで……」
「いつも通り……だと思うけどな」
遊園地の出入り口を抜けると、ククツミたちにとって見慣れた白い箱庭の景色が待っていた。
本当に一瞬だけの、夢のような体験。けれど少し重たいクッキー缶が、その暖かい手のひらが、これが夢ではないと伝えている。
「レオさん、その……今日は……今日も……ありがとうございます、そばにいてくださって……」
「……俺が隣に居たいから、そうした。それだけだ」
おろしたてのジャケットと、ワンピースを揺らしながら。ふたりと1匹は、今までの記憶が詰まった学園へと帰っていく。
「消えない傷があっても……これからの記憶を、楽しく過ごしちゃいけないわけじゃない」
レオがポツリと呟いた言葉に、ククツミは手を握り返すことで返事をした。
「それと……これからも離れる気は無いぞ、俺は」
「せいぜい、覚悟するんだな?」
レオはククツミの方を向き、ニヤリと今からいたずらをするような表情で告げる。
「……ふふ。覚悟しておきますね?」
ふわり、ふわり。
からころ、からころ。
私が。
この先に続く記憶を楽しみに思う、だなんて。
誰かの手が、私の背中を押したような、気がしました。
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