【小話】支店業務の販売風景

支店にて手作りアクセサリーを販売する生き物のお話。特に事前知識なく、10分弱で読める短編です。よければどうぞ。
#とある草庵の記録紙

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穏やかな天気の昼下がり、とある街中。

道に隣接した家の駐車場に、折り畳みテーブルを広げる人影がひとつ。

並べる物は、値札の付いた小さなアクセサリー。ビーズ編みのストラップ、レジン細工のネックレス、かぎ針のマフラーその他諸々。均一に、そして所狭しとたくさん並べるだけでも壮観である。

おつり用の小銭と、膝掛けブランケットと、暇を潰すための本を用意して。一息ついてから、その人物は折り畳み椅子に腰をかけた。

週に2か3程度の頻度で、適当な時間に現れる小さな露店。知人宅の駐車場を借りているおかげでお役所の許可も必要なしという贅沢な立地。

それが「しらさやツミハ」と呼ばれる生き物の副業であった。ただし収益はほとんど無く、ただの趣味である。

人が全く来ないのかといえばそうでもなく、その特異な露店を興味本位で見に来る客も多い。噂というものは風に乗って広範囲に広がる物らしく、一種の都市伝説のようなものになっているそうだ。

曰く、ただ悪意を持ってひやかしに行こうとした者はたどり着くことすら出来ないだとか。写真を撮っても全部ぼやけてしまうのだとか、盗もうとすると手足が動かなくなるのだとか。そんな尾びれも生えているらしい。どういうことだ。

今日は日曜だからか人通りが多く、ちらほらと視線をもらっている。じろじろと見られるのはあまり好きではないが、人の目を惹きつけ、買いまで行き着いてもらえるのなら万々歳。

……まぁ十中八九、肩の上でスヤスヤと寝ている子うさぎが気になるのだろう。

自分だって気になる。なんだろうね、この生き物。

普段は草庵でお留守番している子うさぎは、今朝は何故か肩に乗ってきて、ここに来たものの特段なにもせずに眠っている。フードに潜り込み、肩に前足を乗っけてぐっすりと。随分と居心地が良いらしい。

「あの……」

声をかけられる。高校生くらいの女の子が二人。一緒に買い物でもしていたのだろうか。

「どうぞ、好きなだけ見てって下さいな」

見るだけならタダだから安心して、なんて続ければ、2人は緊張が解けたようにクスッと笑う。2人で好きな色のアクセサリーを探し始めたので、こちらは視線を本に戻した。

基本は口を出さず、意識も向けず。これはなに?と聞かれたら答える程度。接客業をしている人から見れば怠慢でしかない。収益を出すことに全く執着していないというのは人間としてどうなのだろうとは自分でも思うが。本業の安月給でも適度に過ごせるくらいの質素で平凡な生活には、特に支障がないのであった。

数分後、二人の女子高生は、お互いの好きな色のレジンアクセを買って交換するらしい。なんとも微笑ましいことで。どうかこのアクセが、二人の縁を守る力になりますように。

二人を見送ってから、アクセサリーの並びを整える。もう少し配置を変えようかと思案したところで、ふと視線を感じた。

「……ん?」

忌避するように見る目、蔑むような目というのは視線だけでも大体分かるが。今回の視線は随分と、興味津々という類いである。

「……見るだけならタダだから、近くで見てみない?」

どうか、その時間だけでも、有意義な時間になりますように。

いつもの世界は、限りなく平凡で。

最高に、幸せな日常風景だ。



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【あとがき】

この生き物の支店業務である「手作りアクセサリーの販売」を読み物として書き上げました。

以前Twitterにあげたものをブラッシュアップしております。本店業務(本職)とは別に、のんびりと副業を楽しんでおりますね。

チマチマとアクセを作っている最中ですが、今後は実際に手作りレジンアクセサリーのネット販売も行う予定です。よければそちらの方も、楽しみに待っていただければと思います。

露店販売、という発想はお友達のトロメニカさん(Twitterアカウント@toromenika)より。すてきなB…異世界生物調査員のお方ですよ。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。よければフォローやスキ、感想コメントをいただけますと、こちらの今後の励みになります。

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イラスト: ミミシーム・キシン(みみすけ)さん@mikischine 

しらさやツミハ(@shira_tsumiha)
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