見出し画像

平成生まれITエンジニアが読む90年代銀行ドロドロ物語「銀行渉外担当 竹中治夫」

先日「銀行渉外担当  竹中治夫」のシリーズが完結した。原作の知識はなく単行本を買いながら途中からは正直なあなあで読んでいたが、完結を機に改めて初めから読み直すとついイッキ読みしてしまった。

そこまで昔のことではないはずにも関わらず、今の自分が生活している環境や社会とは違う世界を見ているようであった。

どんな本か

バブル崩壊後の日本の金融業界を中心に、実際に起きた出来事とリンクさせながら物語が進行する漫画である。作品に登場する会社などの名称も現実のものをもじった名称が多い。

主人公である竹中治夫は大手銀行に務める銀行員であり、そこそこの出世コースとそれなりに幸せな家庭を持つ。そんな彼が銀行の渉外担当になることから話は始まる。

銀行の渉外担当とは90年代当時、株主総会を荒らす総会屋と呼ばれる人たち(バックには反社会組織があるらしい)の相手をすることである。ちなみに渉外担当だったのは序盤だけであるが、異動後でも同じようにひたすら危なそうな橋を渡っている。

そしてこの漫画の見どころは、当時の銀行とはどのような体制だったのか、また社会どのような文化や風潮だったのか絵やストーリーで伝えてくれることだと思った。それらがどの程度リアリティのある話なのかデフォルメされている話なのかはわからない。はっきり言って自分にとっては共感できない内容ばかりでギャップを感じる一方で勉強にもなった。例えば明治期の文学作品から当時の世俗を知るような感覚に近いかもしれない。

実際に起きた事件が漫画内でも起きる

主人公の職場である協立銀行のモデルは、おそらく現・三菱UFJ銀行である。過剰な融資を続けてきたバブルが崩壊して、銀行は多くの不良債権の回収に追われている。銀行にとってバブル前はいかに融資できたかが重要であったが、バブル後ではいかに回収できたかが重要となっている。
Wikipediaの「メガバンク」の一節がこの作品の内容紹介なのではと思うほどだ。

日本ではバブル景気が崩壊した1990年代以降、日本の銀行(邦銀)はいずれも過剰融資による不良債権で急速に体力を失っていった。また同時に、総会屋に対する利益供与事件が明らかになったり、その不透明な融資体制、護送船団方式により喪失した国際競争力などもあり、こうした問題の解決に迫られた。
参照: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%AF

物語の背後では史実に沿った事件が起きる。阪神淡路大震災、都銀上層部が逮捕、四代証券が倒産、アライアンスによるメガバンクが誕生などである。どの事件も間接的に話に影響していて、メガバンク誕生に関しては第三部のメインテーマである。

90年代の世界観

自分は平成生まれで現在IT企業に務めるエンジニアである。90年代の社会のことはほとんど記憶がない。そんな自分からするとありえないと思うようなことが多い。

職場では煙草がすぱすぱと吸われ、セクハラやパワハラのハラスメントが横行している。東大卒以外は基本的にボードメンバーになれず、離婚すれば出世コースから外れるという。反社会組織ともつながり、異常なまでの接待が行われる。そして何か上層部の意向にそぐわないことが起きれば、出向という片道切符を渡されることになる。

家庭では妻が夫の出世街道を周りに自慢し、マイカーやマイホームが安定と幸せの象徴であるようだ。

令和の若い銀行員にとってはこの漫画の内容はどのように捉えられるのか聞いてみたい。

現代と比べて

すでに述べたように話の内容や描写について自分は共感できない。しかし、たかだか2, 30年前の話である。

時代は流れて転職は当たり前になった。煙草はどこもかしこも禁煙になった。車や家を所有せずに共有しながら使いたいときだけ使う人が増えた。コンプライアンスの意識が高まっている。誰もが発信できる時代になった。日本は世界の主要産業から取り残されつつある。

これから20年後には今の価値観がありえないというふうになっても不思議ではない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?