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豚を飼いはじめた話

豚を迎え入れる

(2007年当時)今年5月上旬から、練馬区立八坂中学校1年生の農業体験授業の一環で豚を飼いはじめた。
兼ねてより給食の食材として野菜を納入してきた学校である。高畠校長はじめ、飯島栄養士さん、学年主任の先生らと事前打ち合わせのすえ一日の計画をたてた。

収穫したほうれん草をすぐさま学校に届け、給食の材料として使うなど野菜収穫体験のあと、豚を迎え入れる「入豚式」なる儀式を行った。

カゴに入れられた20㎏ほどの子豚が生徒たちの前にやってくると、女子生徒たちから「かわいい」と歓声があがった。代わる代わる頭をなでてみる。背中やしっぽにふれてみる。
生徒たちの発案で体験農園「大泉風のがっこう」にちなんで「風花(ふうか)」という名前をつけた。つづけて、八王子で養豚を営む澤井さんから話しを聞いた。そして、豚は何れ精肉となり給食に提供されることが伝えられ、この日の体験授業は終わった。

なぜ、豚を飼いはじめたのか

昭和40年代ころまでは東京都23区内でも養豚が行われていたが、都市化の波ですっかりなくなってしまった。ではなぜ、いまさら豚を飼いはじめたのか。

以前、東京23区内に唯一残る酪農家小泉牧場で、地元小学校による体験学習の取り組みを見学する機会があった。搾乳や糞の処理ばかりか、出産に立ち会った子どもたちもいた。後に行われた体験発表会では、牛と接する子どもたちのキラキラした眼差しと好奇心に驚かされた。
植物を育てる体験もさることながら、牛や豚といった家畜との関係は子どもたちによりいっそうのインパクトをもって与えられるものがあると感じたのである。

そのことを前出の学校長、栄養士さんに相談したところ、「教育者の立場としては、生徒たちには大切な体験となるだろうが、刺激が大きいあまり豚肉が食べられなるなどトラウマになってしまう心配がある。教育に役立てるための段階が必要」と、生徒たちが事前に学習をしてから体験授業をおこなうこととなった。

ペットと家畜は異なる者

私にも豚とのつきあいは興味深いものがあった。
養豚農家や畜産農家の方には笑われてしまうかも知れないが、毎日世話をしていると、まるでペットのような気になってくる。声をかけると人なつこい目で寄ってくる。犬と猫のあいだぐらいの親しみ安さかなと感じた。

そんななかで、澤井さんの話を思い出した。

ペットと家畜は異なる者です。

ペットは人とともに苦楽をともにし、子どものようにかわいがるひともいます。

しかし家畜は違います。
人に食べられるために生まれ、死んでいく。

長い間、家畜と人はそうやってつきあってきました。食べてあげることで命を全うするのです。

人間も肉食獣のように肉を食らう動物だ。
ただ、他の動物と明らかに違う点は、その命に感謝する心をもっていることだろう。

入豚式から5ヶ月、体重は120㎏あまりに成長した。10月上旬には八坂中学校の給食にハンバーグとして提供される。子どもたちは何を感じてくれるだろうか。風花の命に合掌。 

(日本農業新聞「論点」2007年10月)

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