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『愛の不時着』が身近な世界を変えてしまった

「寝ても覚めても韓国ドラマ」「韓国ドラマなしでは夜も日も空けない」家族と一緒に何年間も生活を共にし、テレビには四六時中、何かしらの韓国ドラマ作品がずーーっと流れていた。
そんな日常風景に韓国ドラマがある日々を送っていたにも関わらず、「韓国ドラマ=家族が好きなもの」程度の認識しか持っておらず、自分が韓国ドラマに興味を持つ機会はなかった。

しかし、4月からのステイホーム期間の影響で家で過ごす時間が増え、TVでNetflixが見れる様になった事もあり(Fire TV Stickを購入)、家族と一緒に韓国ドラマを見る機会が自然と増えて行った。
普段は日本やアメリカ製作のドラマばかり観てしまうのだが、韓国ドラマを1話1話じっくり見ていると、「俳優さん達の演技力が高い」「演出面においても、登場人物の人物像の描写が深い」「テンポがいい」「エピソードの端々に、いろんな格言が散りばめられている」などなど、その様々な魅力に気付き、続けていろんな作品を見てしまった。

そんな面白い作品群の中でも、話題の『愛の不時着』は昔ながらの《THE・王道》の要素が盛り沢山でいながら、上記の韓国ドラマの魅力もぎゅーっと詰まっていて、数ある韓国ドラマ作品の中でも、私自身この作品に一番ずっぽりどっぷりとハマってしまった。

そこで、『愛の不時着』の世界が心にすーっと染み込んできた、この浸透力の高さは一体何だったのか、まとめてみた。

まず、物語の骨組みは【ロミオとジュリエット】。
主役二人も、北朝鮮の将校&韓国の財閥令嬢という特殊な立場の人物ではあるものの、「正義感が強く真面目な性格だが、ピュアな心の持ち主で、悲しい過去を持つ男性」と「容姿端麗で社会的な成功も収め、強気なところもあるけど、心に寂しさを抱えた女性」という、これまでの王道恋愛作品でもお馴染みのキャラ設定を受け継いでいる印象で「これはなかなか、直球のときめき要素が満載…!」と、序盤のつかみはバッチリだった。

さらに、主役のリ・ジョンヒョクを演じるヒョンビンの見せ場には、20年ほど前のトム・クルーズやキアヌ・リーヴスの映画で見たことある様な、カッコよくて、なんだか懐かしさも感じさせるスタントシーンもあり、《王道ラブロマンス×王道アクションシーン》に彩られたこの『愛の不時着』の世界観に、大人達がこぞって惹き込まれてしまうのもとってもよく分かる…と感じた。(王道少女漫画を読んで育った世代には、ヒョンビンの素敵な軍服姿も眼福…)

けれど、この『愛の不時着』がただの「懐かしドラマ」にならず、幅広い世代に人気となった理由は、《恋愛×アクション×サスペンス》という様々なジャンルが、巧みにハイブリッドされている点だろう。
先日の百想芸術大賞で大賞を獲った『椿の花咲く頃』でも《恋愛×サスペンス》が上手に融合されていたけれど、多くの韓国ドラマが全16話(1話1時間超え…)と長丁場にも関わらず、視聴者が「次の展開が気になって視聴をやめられない!!」となってしまうのは、現在の韓国ドラマの「演出と脚本のバランス力」によるもの。
様々な出来事が交錯し、視聴者の関心を途絶えさせないその手腕、すごいなぁ…と改めて感心した。

そんな、王道的世界観と現在の韓国ドラマの面白さが一度に味わえる『愛の不時着』だが、この作品の魅力を語る上で外せないのが、俳優さん達の芝居の巧さ。
特に主演のふたり、ソン・イェジンとヒョンビンが見せる、「大人の男女が、健気にお互いを想い合う姿」には、10代の若者同士の純愛を描いた作品とはまた一味違う、「紆余曲折の人生を歩んできた大人同士だからこそ滲み出る、純愛の尊さ」があり、自立した大人の男女が、相手の事を想ってまるで小さな子供の様にぽろぽろ涙を流す姿に、「幸せになっておくれ…(泣)」とこちらも感情移入せずにいられなかった。

さらにそんな二人の関係を描く上で、現代の理想が反映されてていいなと思ったのが、ヒロインのセリがどんな状況下にあっても「自分の居場所」を見失わず、ジョンヒョクもその意志を尊重しているように見えるところ。
セリは財閥令嬢であると同時に、一族のグループ企業である「セリズチョイス」というアパレルブランドのCEOで、女性起業家として受賞経験もあり、父親から後継者にも指名される、敏腕ビジネスウーマンである。(この時点では、彼女の経営者としての人使いの荒さには難有りなのだけれど…)
そんなキャリアウーマンのセリにとって「自分の会社=自分の生き様」であり、北朝鮮に不時着した後も「自分の居場所に帰らなくては…」と、北朝鮮で出会った将校ジョンヒョクに、韓国への帰還の協力を頼み続ける(二人が出会ったばかりの頃は、セリの人使いの荒さジョンヒョクにも向けられる様子が、面白おかしく描かれている笑)。
そして、このセリの「“自分の生き様”がある居場所」は、二人の間に恋愛感情が芽生えた後も、ずっと尊重されて描かれていたように思う。
なので、このロミオとジュリエットの二人は「自分の人生の全てを捨てて、一緒になろう」とは決してしないし、ジョンヒョクはセリを愛し、ユン・セリというひとりの人間の生き方を尊重しているように見える。
慈愛の人、リ・ジョンヒョク演ずるヒョンビン人気に火が付くのも言うまでもない。(私もまんまとヒョンビンにハートを射抜かれてしまった)
そしてセリもまた、ジョンヒョクの優しさに触れる事で、周囲の人々への接し方が変わってゆく。
愛とは、相手を理解しようと努めることだ、というこの作品のテーマを随所に感じた。

ドラマならではの「偶然の出来事の連続」など、あまり現実的ではない展開も正直あったりはするけれど、俳優さんの達の真に迫る演技とテンポの良さにリードされ、ワクワク・ドキドキ・ハラハラしながら、合計20時間を超える『愛の不時着』を駆け抜ける様に見てしまった。

この春からずっと、人に会いに行く事を自粛せざるを得ない環境が続く中、『愛の不時着』を通じて、《人との繋がりの中にドラマは生まれる》という、人生における人間関係の面白さを実感する事もでき、『愛の不時着』だけでなくどの作品の製作陣もみんな、「視聴者の心に届くいい作品を作って残したい」という熱意を込めて作品作りに臨んでいるんだろうなと思う。

今までは家のTVで韓国ドラマが流れていても、通勤電車の車窓から見えるただ流れる景色のように気にも留めていなかったが、今では「次はあれを見よう、これも面白そう」と、今まで見えていなかった「新しい世界」に触れた好奇心でいっぱいだ。

そしてこれをきっかけに、他の韓国ドラマや映画など、同じアジアの隣の国に生きる人達の文化をもっと知っていきたいし、また世界を旅することが出来るようになったら、ぜひとも韓国も訪れてみたい。


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