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ゴジゲン『ポポリンピック』

1月18日(土)13:00〜@こまばアゴラ劇場
なんか勝手に駅前劇場だと思って下北沢に向かっていたらアゴラだった。こまばアゴラ劇場は舞台までが近い。ゴジゲンのような劇団をこの規模の劇場で見れることがとても嬉しい。

※まだ上演が残っていますがネタバレ有りなのでご注意下さい

選ばれなかった人の物語

今更言うまでもなく、今年はオリンピックイヤー。そんな年にゴジゲンが送り出しのが『ポポリンピック』という作品だ。
<東京オリンピックに選ばれなかったボーリング競技の選手たちが、オリンピックに選ばれなかった種目を集めたスポーツの祭典「ポポリンピック」を開こうとする>という物語。

「好きな人に選ばれなかった男たち」、「スポーツのスタメンになれなかった男たち」、など、「選ばれなかった人々」を描き続け来たゴジゲンらしい設定だと思った。

目次立樹さん演じるポポは「神社の奥のモンちゃん」を彷彿とさせる純粋無垢な人物。

目次さんが演じる元天才ボーリング少年・ポポの純粋さが<選ばれなかった側>の哀しみと滑稽さを加速させる。

そう言う意味で実にゴジゲンらしい作品だったのだけど、ただの冴えない男達のルサンチマンで終わらないちょっと不気味なところもあったりして、その辺りについて書いておきたい。

現代における《公》と《私》

今の時代っていうのは《公》と《私》の境目がとても曖昧になっていると思う。

例えばテクノロジーの発展に伴いYoutuberという概念が生まれて、限りなく私的な家庭や友だち同士での生活が全世界に発信される。
例えばTwitterでは政府や自治体が運営するアカウントが情報発信を行い、ユーザーは友だちに返事するようなノリでそれに反応する。

本作では、ポポをはじめとする花菱ボールの人々の「オリンピックに出場してボーリングに脚光を浴びせたい」という想いが物語の推進力になる。
もっといえば、ポポと友達である則夫の友情という超超ドメスティックな《私》的動機が彼らの行動原理になるのだ。

しかし、本作で面白かったのはそんな彼らの《私》的な感情が、やがて《公》的なイデオロギーに飲み込まれていくところだ。

《公》的なイデオロギー

・ボーリングに脚光を浴びせたい
・ボーリングを正式種目にするための署名を集めオリンピック委員会に抗議
・相手にされない
・オリンピックに対抗してポポリンピックを開催する

内発的な動機から始まった花菱ボールの人々の行動は一貫している。しかし、彼らの行動はやがて大衆のイデオロギーに飲み込まれていく。

ポポリンピックというイベントは、アンチオリンピックを標榜する人々の支持を得るようになるのだ。途端に花菱ボールの人々の行動は政治性を帯びる。と、同時に孤独な戦いをしていた彼らに大勢の味方がつく。

イデオロギーに飲み込まれた花菱ボールの人々は、ゆるやかに当初の目的から逸脱を始める。この逸脱は、ポポの行動原理の発端であった則夫との友情の破綻という結末でピークを迎える。

ポポが大勢の記者の前で「則夫に指を折られた」と嘘をつき大衆を焚きつけるシーン。ポポは花菱ボールの人々によって担ぎ上げられる演出が入る。
安直かもしれないけど、やっぱりグレタ・トゥーベリンさんのことなどが脳裏に浮かぶ。

《私》的な物語が、《公》的なイデオロギーに飲み込まれ尽くした瞬間を描いた超かっこいいシーンだったと思う。

あっけない最後

終わり方に呆気なさを感じた人も多いんじゃないか。
東京オリンピックの開会式が行われる中、今まさにそこに乱入しようとする花菱ボールの人々。
うねりをあげる喧騒の中で突如、抽象的なシーンに変化する。音はやみ、静かな空間の中、彼らは自分自身の心臓の音や、鳥の声に耳を澄ませる。

大衆の声に翻弄されてきた彼らが、ここに来て自分の内的な声や自然の音に耳を傾けるシーンだ。

照明効果も美しく、スピード感のある動的な展開から一転した「静」に思わず見惚れてしまう。
情報が少ないからこそ、色々なことを思考してしまう、彼らがなぜここにいるのかに考えを巡らせてしまう。

そのままゆっくりと芝居は閉幕を迎える。

ゴジゲン役者の戯れ

ゴジゲンはここ数年はほぼ同じメンバーで芝居を打っているし、その多くは10年前から出続けている人たちだ。
これってすごい事だと思うし、かっこいい!

舞台上で集団芸を繰り広げる彼らの戯れは、笑えるし、胸にくる。

僕が初めて見たゴジゲンは『アメリカン家族』という劇で、そこには今作にも出ている多くの人が出演していた。
そこから今日までコアメンバーを同じくして演劇を続けて来た彼らは、花菱ボールの面々とも重なってしまう。

きっと自分の外側からやってる来る様々な事柄に翻弄されながら、時に立ち止まって自分たちの内側に耳を傾けたりして、劇中の彼ら以上にめちゃくちゃドメスティックな関係性ができあったのかもしれない、と思う。

やっぱりゴジゲンは眩しかった!

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