2205D志乃【それが恋だと氷も騒ぐ】

一つのグラスにストロー二本だなんて、どう使うんだ。
 ……そう、思っていた時期が、自分にもあった。
 今目の前にはジャム瓶みたいなグラスが一つ。たっぷりの氷と、くし切りのレモンと、それから赤と緑のストローが一本ずつ。夜だというのに茹りそうなほど暑い空気の中で、グラスはテーブルに池を作りそうなほど汗をかき、ついでにレモンの果汁を滴らせている。
 テラコッタオレンジの中身は溶け始めた氷に薄まりそうで、たかがジュース一杯にしてはえらく高価かったことを思うと、さっさと飲んでしまわなかったのが惜しくてならない。ゆらゆらと濃度の違う液体が混ざり合っていく様を眺めながら、グラスよろしく大汗をかいて相手の顔を窺う。
 さて、どうする、とばかりに相手もこちらを窺っていたものだから、ええいままよとグラスに手を伸ばした。途端、噛み合っていた氷が崩れて、カランッと音を立てる。
 二人してビクリと震え、それから互いの顔を見合わせ、笑った。

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