2205B志乃【半沈廃墟】

湿地帯の上に茂る、扁平でぬるついた緑の上を歩く。一歩ごとに足を飲み込もうとする泥濘に比べれば、この植物はいくらか、ほんのわずかながら踏みしめやすかった。
 ふわふわと風に揺れる巨大な柔らかい糸のかたまり、水気を含んだ土とも繊維質な板ともつかない薄い構造物。巨大な壁のすぐ下にあるせいで日差しの弱い薄暗い世界だ。起伏と湿度に満ちた足元は、とてもハイキングなどで気軽に訪れるような場所ではない。
 それでも、僕がここに来たかった理由がある。
 万年日が差さない深い渓谷の底めいてじとじとと湿った片峠の切先に立てば、鏡のような透明の湖が眼下に広がった。そして、その湖に縮尺を間違えておかれた桟橋のように、傾いて身を浸す大きな遺跡。足元に茂る扁平の緑より、どこかやわらかそうで湿り気の少ない植物に覆われた、灰色の四角い建築物だ。分厚く四角い板に、同じ大きさの洞穴が三つ並んで、深い闇を抱え込んでいる。
 泥と水に埋まりかけ、端々を風化に侵されて崩れつつあるそれは、古い学者の本によればこの世界を覆う壁と非常によく似た組成の材質でできているらしい。
 この世界の壁を、どうすれば越えらえるのか。その手掛かりを探すために、僕はここへ来たのだ。

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