2202A志乃【雪玉砂利】

 足を下ろすことがためらわれる、静かな庭だ。流水紋さえかき消すように薄曇りの光を吸って発光する、新雪のような真っ白の玉砂利が敷き詰められている。
 緑を帯びた屋根、鎖の雨樋、石と木と紙で構築された寺を、まるで足下から照らすような庭園だった。黒い岩の島、深い緑に沈む木陰、それらとまるで別世界のようにきっぱりと境界を引いて平らかに広がる玉砂利の海。木の葉一枚浮かべない、静を具現化したような海が、水の一滴も無しに存在している。
 話し声はおろか、自分の足が外廊下の木板を踏むわずかな軋みさえうるさいと感じる空間で、そっと息を止めた。息と一緒に時さえ止まったような静けさの中、ほんのわずかな葉擦れとともに聞こえた心拍が、やっと生を自覚させる。
 人の手で造られた庭だということは承知していても、この空間に人は馴染まない、と思った。これは、神仏のための箱庭だ。俗から抜け出すこともできない身では、花手水に投げ込まれた泥芋のような異物にしかならない。ここに落ち着くには、雑念に染まりすぎている。
 いつまでいる気か、と追い立てられているような気になって、私はそそくさと庭から逃げ出した。

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