2204F志乃【遠路】

 思えば遠くに来たものだ、と月並みなことを思う。
 なにせ、眺めているのは自分がたった今降りた電車が辿ってきた線路だ。月並みと言う他ない感想だった。
 どこへ行ったって、自分は自分にしかなれない。線路の端まで来ても、レールを外れても、その時目の前にあったものを見て、なにかを思うのは自分でしかない。
 自分を変えようともしなかった。終点で線路を振り返ってみたところで、出てくる言葉になんのひねりもないままなのは、当然のことだ。
 もう、日が暮れる。快速も止まらない田舎駅と違って、ここでは太陽はビル街の向こうへ沈むものらしい。高さもまちまちな雑居ビルの隙間、茜色から琥珀色のグラデーションが空を染めて、静かに人の足を急かす。
 おとなしく折り返しの電車に乗って家に帰るか、ここから乗り継いでもっと都会へ、違う世界へ行くのか。
 ゆらゆらと色の境界線が沈んでいく。
 家ででも自分を変える努力はできるはずで、外に出たからと言って自動的に価値観がアップデートされるわけではなくて。
 たっぷり一時間、街の光が星をかき消すというのが本当のことだとわかるまで、未練がましく線路を眺めて。それから、改札口を探してホームの明かりを見上げた。

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