くじらのほね
古傷だらけのくじらがあった。
くじらはあるとき力尽き、海の底へと沈んでいった。
仲間のだれも届かない、ふかいふかい海の底。
仲間の声も届かない、しずかなしずかな海の底。
沈んだくじらを、追う者がいた。
するどい牙が、傷あと連なるくじらのかわをはぎ取った。
大きなあぎとが、くじらのにくをむしった。
かわも、にくも、はらわたも、いつしかすっかりたべつくされた。
沈んだくじらに、棲む者がいた。
ちいさな、たくさんの口が、少しずつ。
くじらのほねをけずっていく。
けずれたほねは、崩れて、折れて、小さく砂を巻き上げた。
やがて、くじらはすがたを消した。
だれも沈んだくじらをしらない。
くじらは静かに、そこにいた。
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