2206B志乃【雲菓子】

夏の空にもくもくと、ご機嫌に浮かんで流れる雲のひとかけを、無造作に引きちぎって持ってきた。砂糖を練り込んで、大空に比べれば小さな小さなタルトに詰めて、予熱したオーブンに焼き色がつくまで閉じ込めて……。
 雲さんはどこから来るの、と僕を叩き起こした子供たちが泣き叫びそうなことを考えながら、泡立て器を振るう。ピンとツノが立つまで念入りに泡立てて、メレンゲ作りはひと段落だ。まるでちぎってきたかのように、もちもちとところどころ尖らせながら山盛りのメレンゲを盛り付けて、オーブンの様子を見る。
 クリームの泡立ては寒いほうが上手くいくから、キッチンは日当たりを抑えて設計した。うすぼんやりと暗い室内で、ふと外を仰げば、今日のメレンゲタルトの動機たちが庭ではしゃいでいる。
 オーブンのタイマーをセットして、僕は彼らを呼ぶために窓を開けた。あの子たちがおとなしく遊ぶのをやめて手を洗うだなんて、奇跡を期待するようなものだ。タルト一台焼きあげて、粗熱が取れるころになってやっとおやつの席が整うに違いなかった。

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