プリン

「プリン」

               竹井 紫乙


帰ってくるまでプリンは置いといて。


私の仕事は花びらです。

朝から晩まで花びらです。

川を流れる

橋を渡る

大勢の他人と一緒に

流れて、流されて、流して

花びらを全うする

しごと だから。


だからプリンを冷蔵庫に残しておいて

ください な。


花びらの仕事にはきまりがあって

期間もあって

ふあんてい。

だから

簡単にばらばらになったり

踏みつけられたり

千切られたり

する。


プリンはかためが好みです。

しっかりした形で、揺れないで

スプーンがぐっさり刺さる感じの

プリンは絶対置いといて。

 

恋人は部品なの。

唇、目、鼻、背中、腕。いろいろ集めているの。

部品をくっつける必要はないわ。

だって部品のままだからこそ、いいんだもん。

部品のままを、愛してる。


カラメルソースは焦がしてね。苦いところが美味しいの。深い茶色の焦げた色。

甘いばかりじゃ駄目だから。


花びらだってマスクをするわ。

白、水色、ピンク、真っ黒。

一斉に渡ってゆく花びら。

もう、くたくたよ。


必ず家に帰るから

這いつくばって帰るから

ぼろぼろマスクで帰るから

今日という日を使い果たして帰るから

がたがたの手足で帰るから

涎を垂らして帰るから

きっとプリンは置いといて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?