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忘れたくない

雑誌『BRUTUS』特集「一行だけで。」

これまでの人生で生きる力をもらった川柳、希望を感じた川柳、励まされた川柳など、一生忘れたくないほど強く心を動かされたポジティブな力を感じる川柳を紹介するという依頼。他の方と被らないように三句チョイスして結果、無事に一押しの句を紹介することができた。

【第一候補】うつくしいとこにいたはったらええわ  久保田 紺 
【第二候補】たすけてくださいと自分を呼びにゆく  佐藤みさ子 
【第三候補】お別れに光の缶詰を開ける       松岡瑞枝

松岡瑞枝さんの句は、なかはられいこさんに選ばれていた。嬉しかった。
佐藤みさ子さんについては別の句ではあったけれど、暮田真名さんが選んで
いて、やはり、嬉しかった。

久保田紺さんは亡くなっているし、松岡瑞枝さんは句作をやめられたということを聞いたことがある。佐藤みさ子さんに第二句集のご予定を尋ねてみたら、作る予定はないとのことだった。
それでも。
尊敬する三人の書き手とその川柳が、遠くまで届きますように。


(だれかへの追伸)
久保田紺さんの句は書かれた背景の説明なしでも伝わる、普遍的な要素を
持っている一句だと思うのですが、補足として。

紺さんの技術力の高さは、関西ことばの使い方の見事さに現れています。
句の中の「うつくしいとこ」は、うつくしくない場所にいるひとにしか
見えない場所のことですが、すべて平仮名で表記することにより、意味の広がりとリズムの良さを生んでいます。皮肉な「いたはったらええわ」に人としての情を含ませることができた点もすぐれているところ。

約10年の句作期間を闘病しながら全力で駆け抜けて、私家版を含めれば数冊もの句集を残されました。その約10年のうち、約8年が闘病期間でした。

紺さんと私はさほど深い関りがあったとは思えないのですが、それでもお世話になることばかりでした。お世話になるだけなって、何もお返しできませんでした。(そんなことを私に期待するような人ではなかったけれど)。
そしてただの善人ではなかった紺さんです。(ここが魅力でもある)。
「こわい」と思ったことが何度もありました。
けれど、いまだにあんなに全力で生きているひとに、
出会ったことはありません。
忘れられない、忘れたくない、ひと。








 


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