天才!成功する人々の法則(講談社)書評⑴-自己の偏見に気づく

 今回取り上げる本は「天才!成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル著・勝間和代訳/講談社)です。マルコム・グラッドウェルはベストセラー作家として非常に有名で、他にも「第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい」(沢田博・阿部尚美訳/光文社)や「ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか」(高橋啓訳/飛鳥新社)等の作品が有名です。語彙が豊富で美しい文章を書くことでも有名です。(私は今回取り上げる「天才!」が面白かったので、グラッドウェル著の「第1感」を原書の「Blink The Power of Thinking Without Thinking」で読もうとしたのですが、語彙の豊富さゆえに2/3ほど読み進んだ所で大意すら取れなくなり、結局邦訳された「第1感」で読んだ記憶があります。)この本では書名からもお分かりいただけるように天才(どちらかというと社会的に成功した人)が誕生するのにはどのような法則があるのかについて述べられています。そして先天的な要素ではなく後天的な要素、例えば環境・文化・努力・時代の流れ等に焦点を当てます。爽やかな読後感を味わえる良書です。
 私がこの本を取り上げようと思った理由は、
①読んでいる途中で2度ほど心の中で「あっ!」と叫んでしまい、自分の先入観・固定観念・偏見に気づき恥ずかしく思ったから
②自分の適性について深く考えるきっかけとなったから
という2点です。
この記事では①についてのみ言及します。
①「自分の先入観・固定観念・偏見に気づき恥ずかしく思った」ということについて。
 私自身が本や新聞を読む理由はたくさんあるのですが、そのうちの一つに、自分の先入観・固定観念・偏見について気づくことができ、その偏見等を対人関係に持ち込む前に修正することができるから、あるいは何か自分が経験したことのない事態が発生した時に乏しい経験にのみ基づいて判断するということを回避できる、というものがあります。この本を読んでいる間に私は2回も自分自身が偏見を持っているという事実を叩きつけられたので、心中ではかなり恥ずかしかったのを覚えています。
 ネタバレになるので話の筋について詳しくは書きませんが、一つ目の気づきは、子どもの才能を伸ばす・社会的に成功するには親の物の考え方がかなり影響する(こう書くとありきたりですが)として、ケイティという少女とアレックスという少年がその親の考え方とともに対比的に描写される箇所で起こりました。読書が好きな方は大体そうだと思うのですが、私も人物像の描写が本の中でされている時には、その描写から何となくその外形を想像します。しかし、このケイティとアレックスの姿形を心の中で描いた後に著者のマルコム・グラッドウェルから突き付けられた事実(人物像)は私が想像していた姿形とまったく違っていました。ここで私は自分に先入観・固定観念・偏見があるということに向き合わざるをえませんでした。おそらくその時に持っていた先入観・固定観念・偏見は差別につながるものでもあったはずです。他人に対する差別感情は時として容易に自分に向けられるものになりうるので、注意しなければならないと常々気をつけていたつもりだったのですが、その思いを強めざるをえないマルコム・グラッドウェルの問題提起には脱帽せざるをえませんでした。
 二つ目の気づきに関しては、ジャマイカの黒人奴隷の子孫がカナダに移住するという話が出てくるのですが、一度ケイティとアレックスの話で自分の偏見等について痛感していたにもかかわらず、ここでもまたそれらの感情や思考が払拭しきれていないことに気づき、愕然とさせられました。この2度目の気づきに際しては、心の中で舌打ちしながら前のページへ行ったり後ろのページへ行ったり忙しかったのを覚えています。
 私自身は本を読む中で、何か一つでも自分が知らないことを知ることができたらその読書はよい読書だったと思うようにしているのですが、この「天才!」に関しては2回も自分の偏見と向き合わざるをえなかったので、とてもよい本だったと思います。
 この記事は①自己の偏見に気づく、という視点から「天才!」について考察しました。次の記事で②自己の適性について気づく、という視点から「天才!」について考えたいと思います。
 最後までご清覧くださいましてありがとうございました。


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