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神戸どうぶつ王国の挑戦とわたしたちにできること~ハシビロコウの国内初繁殖を目指して~

こんにちは。初めましての方は初めまして。いつも見てくれている方はお久しぶりです。今回は神戸どうぶつ王国が現在挑戦中のクラウドファンディングプロジェクトを応援しようと思い、勝手ながらこの場でプロジェクトの紹介記事を書かせていただきました。少し長文にはなりますが、いつにも増して本気で書いております故、どうか最後までお付き合いくださいませ。

1.プロジェクト概要

さっそくですが、皆さんは「花と動物と人との懸け橋プロジェクト」をご存知でしょうか?これは神戸どうぶつ王国が現在挑戦中のクラウドファンディング(注1)企画で、2020年12月11日(金)23:00まで支援を募集しています。

注1:クラウドファンディングとは?
クラウドファンディング(crowdfunding)とは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語。個人・法人問わず、インターネットを通して活動や夢を発信することで、実行者に共感した人や応援したいと思う人から資金を募る仕組みである。途上国支援や商品開発、自伝本の制作などジャンルを問わず幅広いプロジェクトが実施されている。(参考:READYFOR「はじめてのクラウドファンディング」)

■神戸どうぶつ王国と王国の保全活動
神戸どうぶつ王国とは兵庫県神戸市中央区にある民間の動物園で柵や檻がなく、動物たちとの距離が近いのが一番の特徴です。園内にはハシビロコウ、コビトカバ、マヌルネコといった絶滅危惧種も飼育されており、彼らの飼育下繁殖普及啓発活動に力を入れています。

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オスのコビトカバ「タムタム」。将来的にはメスのコウメと共に繁殖を目指す。本種はEN(絶滅危惧ⅠB類)に属しており、国内飼育頭数も少ない。

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オスのマヌルネコ「エル」。2019年4月22日にメスの「アズ」と共に姉妹園の『那須どうぶつ王国』で生まれた飼育下繁殖個体。野生では病原菌が少ない寒冷な高地で生息地している為、感染症にかかりやすく飼育下繁殖は困難とされる。

また、園内において「ツシマヤマネコ米」(注2)をつかったメニューを提供するレストランの運営や、レストラン全店舗で使用している使い捨てプラスチック製品を環境負担の少ない紙製品や木製品、または何度も再利用できる金属製品に切り替えるなど、環境保全活動に意欲的なのも顕著です。(他にも様々な野生動物の為の保全活動を行っていますがここでは割愛させていただきます。)

注2:ツシマヤマネコ米とは?
ツシマヤマネコ米とは、ツシマヤマネコの餌場であるを田んぼを守り増やすために作られたお米のこと。ツシマヤマネコは別名「田ねこ」とも呼ばれており、田んぼに生息するネズミやカエル、トンボなどを捕食する。特に佐護地区では積極的に栽培されており、減農薬や田んぼの生き物調査など環境に配慮した米作りが行なわれている。
参考:佐護ヤマネコ稲作研究会|田んぼとヤマネコ

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神戸どうぶつ王国にある掲示物。「ツシマヤマネコの現状」と「わたしたちにもできること」が分かりやすく説明されている。こういった教育普及活動も動物園の役割の一つ。

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園内で使われているストローは全て紙製。園内で販売されているフード・ドリンクメニューの容器はプラスチック製品が一切使われていない。

■何故いま、クラウドファンディングなのか?
様々な取り組みを通して、動物たちやその動物たちが暮らす自然環境の保護・教育普及活動を行っている神戸どうぶつ王国。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大による影響で昨年対比マイナス60%にも及ぶ集客減・収入減の苦境に立たされています。収入がなければ保全活動はおろか、園の維持管理(注3)もできません。今まで継続的に行ってきた環境保全活動が困難になっているのが現状です。だからこそいま、クラウドファンディングを使って資金を集める必要があるのです。

※ 注3:神戸どうぶつ王国の管理費用
人件費1億8000万円、飼料費2700万円、動物医療費500万円、動物搬入費800万円、植物管理費1200万円、園内整備費1億2000万円、備消耗品・研究費570万円(数値および内訳はすべて神戸どうぶつ王国クラウドファンディングのページより引用)

■集めたお金は何に使われる?
では、集めたお金は具体的にどのような目的で使われるのでしょうか?クラウドファンディングの紹介ページで明示されているのは以下の5項目です。

・コビトカバの新展示場設置(1,000万円)
・ハシビロコウ繁殖展示施設の設置(1,500万円)
・国内希少動物の域外保全事業(500万円)

ーーーーーーーーーーーーここまでが第1目標金額↑
・独自のSDGs活動(500万円)
・飼育動物の福祉のための環境改善や動物医療施設の充実(1,000万円)

上にある通り、園内で飼育している動物たちの保全繁殖や、より動物福祉に配慮した獣舎等の施設整備に使用されるそうです。
次の項目ではこの内の「ハシビロコウの繁殖展示施設の設置」について詳しく解説します。

■ハシビロコウの繁殖プロジェクトについて
クラウドファンディングのページには「ハシビロコウの繁殖展示施設の設置」について、以下の通り書かれています。

② ハシビロコウ繁殖展示施設の設置(1,500万円)
繁殖が困難なハシビロコウの、繁殖の可能性を期待できる生息地を再現した展示施設の設置。もし成功すれば、アジア地域では初めての取り組みとなります。
(神戸どうぶつ王国クラウドファンディングのページより引用)

国内では成功例の無いハシビロコウの飼育下繁殖。現在の飼育施設とは別の、より繁殖が期待できるような工夫がされた新しい飼育施設を設置するそうです。

では、そもそもなぜハシビロコウの飼育下繁殖が必要なのか?次の項目では彼らの野生下の現状について簡単に解説します。

2.野生下ハシビロコウの現状

みなさんは「ハシビロコウは絶滅危惧種である」という事実をご存じでしょうか?(動物が大好きな方なら常識だと思いますが)これ実は結構知らない人多いです。

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IUCN Red Listのハシビロコウ(shoebill)のページ。カテゴリー区分はVU(絶滅危惧Ⅱ類)に分類されており、生息数は減少傾向(Decreasing)であると明記されている。(参考:IUCN Red List「Balaeniceps rex(Shoebill)」)

生息数減少の一番の要因は生息地の破壊とされています。農業や工業の急速な発展に伴い、彼らの生息地である湿地帯に農薬や工場排水が大量流出されたため、環境汚染が進んでいるそうです。さらには火事や干ばつ、紛争による生息地の減少も深刻とされています。

もちろん現地では継続的な保護・調査活動が行われています。また、2013年にはハシビロコウ保全のための国際単一行動計画(International Single Species Action Plan; ISSAP)が作成されています。ここでは火災に関しての注意喚起や主要な繁殖地の放牧の制限などが提案されており、ハシビロコウの保全活動が積極的に行われていることがよく分かります。

しかしながら一度破壊され劣化した生息地…ハシビロコウや彼らのエサとなる動物たちが豊富に暮らせるほどの状態まで戻るには何十年もかかってしまうでしょう。(少々言い過ぎかと思いますが)もう生息域内で保全活動を行うだけでは間に合わないのが現状です。だからこそ生息域外保全が重要となってくるのです。

3.飼育下繁殖の挑戦

■生息域外保全について
そもそも「生息域外保全」とは何なのでしょうか?これは絶滅が危惧されている生物種を、野生の生息地以外で保全することを指します。動物園で飼育し、繁殖させるのも生息域外保全の一つです。また、人工的な施設で飼育・繁殖することで自然下での調査が難しく、生態が未解明な種についての詳細なデータを得ることもできます。

■ハシビロコウの飼育下繁殖の現状
ハシビロコウは世界中の動物園で飼育されていますが、飼育下で繁殖した成功例はPairi Daiza(ベルギー)ZooTampa at Lowry Park(アメリカ)2例しかありません。ハシビロコウは基本的に繁殖期以外は単独で生活している生物の為、飼育下での繁殖期がどのタイミングなのか不明とされています。そのため、飼育下繁殖が難しいとされているのです。

■日本のハシビロコウ飼育が生息域外保全の鍵
現在の飼育下個体は世界中で30羽ほどとされています。このうち日本で飼育されているのは7園13羽、世界の中での日本の飼育割合が高いのがよく分かります。さらに上野動物園や高知県立のいち動物公園では雌雄のペアリングが積極的に行われており、日本での飼育下繁殖が期待されています。つまり「日本のハシビロコウの飼育技術が生息域外保全の鍵となる」といえるでしょう。

高知県立のいち動物公園で行われているハシビロコウの同居訓練の様子。基本的に繁殖期以外は単独生活でなわばりをもっている為、雌雄ペアリングのタイミングが難しいとされる。

4.神戸どうぶつ王国の挑戦

■王国でかつて飼育されていたハシビロコウ
神戸どうぶつ王国ではかつて「アサラト」「カシシ」という2羽のハシビロコウが同じ施設内で飼育されていました。残念ながら繁殖には至らず、オスのアサラトは姉妹園の『那須どうぶつ王国』へ移動後、死亡してしまいました。メスのカシシは現在も那須どうぶつ王国で元気に暮らしています。

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かつて神戸どうぶつ王国で飼育されていたオスのハシビロコウ「アサラト」。メスの「カシシ」と共に日本初の飼育下繁殖が期待されていた。姉妹園の『那須どうぶつ王国』に移動後、2018年8月19日に永眠。

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同じくかつて神戸どうぶつ王国で飼育されていたメスのハシビロコウ「カシシ」。現在は姉妹園の『那須どうぶつ王国』で単独飼育されている。

■現在飼育されているハシビロコウ
現在は「ボンゴ」「マリンバ」の2羽のハシビロコウが同施設内で飼育されています。園内中央の中庭に「アフリカの湿地」と呼ばれる広大なエリアがあり、様々な種類の鳥と共に自由に放し飼いにされている状態です。

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オスのハシビロコウ「ボンゴ」。後頭部の飾り羽が短いのが特徴。「アフリカの湿地」の南側にいることが多い。少し気分屋。

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メスのハシビロコウ「マリンバ」。ボンゴに比べると後頭部の飾り羽が長く、くちばしの黒い模様が多いのが特徴。「アフリカの湿地」の北側にいることが多い。少し怖がりで慎重派。

■新しい繁殖施設について
クラウドファンディングにより設置する新しい施設は、ハシビロコウが繁殖に専念できるよう基本的にハシビロコウのみでの飼育を行うそうです。(小型の生き物は混合飼育する予定)現在バードショーが行われているエリアを利用し、人が入れない場所も設けることでハシビロコウ達に余計なストレスやプレッシャーを与えないようにするそう。
更に、現在の飼育施設にもある葦(よし)や生息地に生えているパピルスを施設内に植えることで、施設内をハシビロコウが野生で生息する環境により近い状態にし、巣作りやペアリングに専念できるような工夫も施される予定。また、施設内の温度管理も徹底的に行うことで今まで不明だった飼育下での繁殖期の確立にも挑戦します。

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葦(よし)やぶに身を潜めるマリンバ。現在の飼育施設においてもこのようなハシビロコウの住む環境に近い植栽を施しているが、新施設ではより野生に近い環境を整えるそう。

新繁殖施設の詳細については下記のリンクをご覧ください。新繁殖施設のイメージ図も公開されています。↓

神戸どうぶつ王国公式Instagramのライブ配信アーカイブはこちらから↓
「動かない鳥“ハシビロコウ”を徹底解説 ~アジア初への挑戦が始まる!~」

神戸どうぶつ王国の新繁殖施設は今までの日本ハシビロコウ飼育施設にはないほどの規模レベルになると予想されます。もし完成したら、間違いなく日本のハシビロコウ繁殖施設の筆頭と言える存在になるでしょう。

5.ハシビロコウのために、私たちができること

ここまでハシビロコウの生息域内および域外保全について簡単に解説しました。神戸どうぶつ王国のプロジェクトがハシビロコウの保全繁殖活動においてかなり重要な立ち位置にあることが分かっていただけたかと思います。

では、私たちは何ができるのか?

次の項目ではどなたでも簡単にできる支援方法について紹介していきます。

①クラウドファンディングへ直接支援する
上の項目でも紹介したとおり、現在神戸どうぶつ王国は希少動物の環境整備や保全活動の為のクラウドファンディングプロジェクトを実施しています。下記のリンクからプロジェクトの紹介ページを見ることができるので活動内容や支援方法について詳しく知りたい方は是非見てください。5000円から支援でき、クレジットカードでの支払いも可能です。

②神戸どうぶつ王国へ来国する
王国へ直接訪問することも支援につながります。実際に現地に赴くとなお、神戸どうぶつ王国の環境保全活動を知ることができます。最寄駅から降りてすぐなので、公共の交通機関で行くことも可能です。ぜひ足を運んでみてください。

③公式ネットショップでグッズを買う
クラウドファンディングの支援金額は自分にとって負担が大きいし、事情があって直接動物園にも行けない。。。そんな方は公式ネットショップでグッズを購入することをオススメします。かわいいパッケージに入ったお菓子や、タオルやキーホルダーと言った王国オリジナルグッズ、リアルなぬいぐるみなど種類も豊富にあります。数百円から購入できる商品もあるので是非こちらで購入してみて下さい。

④活動をシェアして宣伝する
TwitterやInstagram等、SNSを利用
してプロジェクトをシェア・宣伝するのも王国の支援につながります。これならお金や時間のない学生にも簡単にできる支援方法です。

時機の良いことに、現在公式で「 #どうぶつ王国思い出懸け橋 」のハッシュタグを用いた企画を実施中。神戸どうぶつ王国未訪問の方でも気軽に参加できる企画なのでぜひ投稿してみて下さい。下記のリンクにて企画詳細が記載されています。

Twitterを用いた企画は「 #どうぶつ王国思い出懸け橋 」のハッシュタグをつけて投稿するだけ。行ったことのある人は神戸どうぶつ王国での思い出や楽しかったことを、まだ行ったことのない人は行ったらやりたいことや会ってみたい動物について自由に投稿してみよう!

もちろんこの記事のシェアして拡散していただけるのも歓迎です^ ^
よろしくお願いします。

6.最後に

私はかつて大学時代に卒業論文としてハシビロコウの繁殖学を研究していました。現在は普通の社会人として生活しており、研究という立場にはありませんが、ハシビロコウの為に何かできないかと日々模索しています。今回の記事はその思いから居てもたってもいられなくなり、作成した次第です。

大学の卒業論文では、アサラトとカシシをメインの供試個体として、糞中の性ステロイドホルモン動態と行動変化から繁殖生理や繁殖行動の研究を行った。当時の担当飼育員さんには行動観察記録も提供していただいたため、神戸どうぶつ王国には感謝しきれない。

神戸どうぶつ王国のハシビロコウの国内初繁殖というこの壮大な挑戦はまだ始まったばかり。これからも一ファンとして継続的に応援していきたいです。この記事を読んでいただいた皆様もどうかよろしくお願い致します。

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