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禍話リライト『編集を有効にする』

昨今、日本のホラーにおいてブームとなっている“怪文書”
書籍はもちろん展覧会も開催され、今やホラーには欠かせない物となっている。
これは、今ほど“怪文書”が浸透されていなかった頃のお話。

某県に廃墟があった。
どうやらマンションを建てる予定だったが途中で頓挫してしまったらしい。
その廃墟には『ワードで印刷したような紙が破って捨てられている』という噂があった。

体験者のAさんは、友人達とその廃墟に「行ってみよう〜!」と肝試しへ行くことに。
土台が剥き出しの区画もある中、しばらく探索をするAさん達。すると、とある部屋の奥の壁に紙が貼られていた。
紙は四面全てがテープで貼られており、その存在はひときわ目立っていた。

その紙には句読点もなく、びっしりと文章が書かれている。読んでもさっぱり分からない、所謂“怪文書”だ。

「これ、やべぇやつが出入りしてるんじゃね?」

そんなことを言いながら部屋から出ようとした時。
Aさんの友人が落ちていた紙の切れ端を踏んでしまう。
「あれ……?」
風で飛んできたのだろうか、部屋に入った時には無かった紙切れだ。
「こんなのあったっけ?」と友人は拾い上げ、内容を読んでみる。そこには文章と矢印が書かれており、どうやら何かの手順のようだった。

不可解なことに、
『編集を有効にする』をクリック
という文言もある。どう見てもワードで編集し、そのまま印刷したようなシロモノだ。

「こんな山奥にパソコンがあるわけでもないし……おかしいよなぁ?」

気味が悪くなってきたので早く帰りたくなったAさん。だが、紙を踏んだ友人本人が黙ってしまう。それに伝播して他の友人も黙ってしまった為、Aさんも口を噤んでしまった。

Aさん達は帰りの車中でも黙っていた。20分もの間、誰も口を開かない。
すると例の紙切れを踏んだ友人が運転しながらボソッと呟く。

「末っ子の七五三の時に神社を変えたのが間違いだったんじゃないかなぁ……」

全くもって意味がわからない。
Aさんは「こいつ何言ってるんだ?」と思いつつ、沈黙は破られたのでコンビニへ寄ることを提案した。が、急にAさんの中で(無意識か・はたまた思い出したのか)とある考えが浮かび上がってくる。

あの怪文書は何人も子どもがいる大家族の話である事。そして、“編集が有効になってしまった”という事。

——そうだ、アレを踏んでしまったアイツは、理解してしまったんだ。

運転席の友人は、それからもずっと「神社を変えてしまったから」「地域ごと変えてしまったから」と繰り返し繰り返し呟いていた。

その後、もう一人の(紙切れを踏んでいない方の)友人から「あの時アイツの隣にいてブツブツ言い始めたのが聞こえた」「気味が悪くなってしまって黙ってしまった」と聞いたAさん。
その友人もAさんと同じく怪文書の内容を唐突に理解してしまい、『大家族がいて1人ずつ死んでしまった』という解釈が両者ともに一致したのであった。

「あいつだけアレを踏んで、精神的に“貰って”しまったのかな?」
「俺さ、どうしても“編集を有効にするをクリック”思い出しちまうんだ」
「おい、それを言うのはもうやめろよ……」

後日、紙切れを踏んでしまった友人からAさんのケータイにメールが届く。
「あの時さ〜最後の方黙ってしまってごめん!」
いつもの友人の文面に「な〜んだ〜」と胸を撫で下ろす。
そのメールには画像が添付されていた。
まるで真っ暗闇を撮ったような写真。
Aさんは見やすいよう明るさ設定を変え、明度を上げる。
そこに写っていたのは——あの廃墟だった。

なんでアイツ、あそこに“行き直した”んだ?


この話は、かぁなっきさんによるツイキャス
禍話『禍話フロムビヨンド 第7夜』(2024年8月17日)から一部を抜粋・文章化した物です。

禍話フロムビヨンド 第7夜

禍話:X

禍話 簡易まとめ wiki

また、表題はリスナーのドント様によって付けられています。

また、こちらのリライトを朗読で使いたい等ご希望がございましたら、必ずこの記事のURL掲載と筆者名(汐音 葉月)の明記をお願い致します。

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