卑怯なプレーとは
最近ジュニアサッカーであったこと。
体格にも身体能力にも恵まれてテクニックも高いA君。その日の紅白ゲームで、その力を十分に発揮していた。
そのA君を全然止められず、4人抜きされてゴールを入れられてしまった相手の子達。ゴールされた時にその相手側チームに聞いてみた。
「A君のことそれぞれ1人で止められそう?」と聞くと「いや〜キツい」と答える。
「今A君がボール持ってた時どうなってた?A君に何をされたくない?次はどうしたらいいだろうね?」と投げてみる。
失点時、A君がボールを持ってた時に1対1が連続しているような状態だったことに気づいた相手側チーム。
数的優位を作ることが強いことを知ってた子達だったから、その後のゲームで即座に対応。
A君がボールを持った時には即座に3人ぐらいで囲む。
A君はドリブルで抜けなくなり、逆にA君が奪われたところからのカウンターでA君側のチームが失点。
それで学んだA君は囲まれそうになったらパスを積極的に使い始める。
こんなお話。
さて、力でねじ伏せたり、それを囲んで奪ったり、パスしたりするのは卑怯だろうか。
【卑怯】
勇気がなく、物事に正面から取り組もうとしないこと。正々堂々としていないこと。また、そのさま。
A君が圧倒的な力でぶち抜くのも、それを3人で囲むのも、囲まれることを利用してパスするのも、全部「卑怯なプレー」では無い。
サッカーは試合の勝ち負けを競う遊びなのだから。
その遊びに向き合って、勇気を持って選択をして正々堂々と戦っている。
効果的なプレーが出来るのに控えたり、頑なに1対1でボールを奪おうとしたり、囲まれたところを抜くことに固執したり、って方がどうかしてる。
それがゲームの勝ちに繋がらないなら、そのプレーは何のためにやってるのか?と疑問に思う。
でも私達の文化では、ゲームで勝つことよりも、力で上回ることを求めてしまいがち。そして「負けたとしても自分たちには力があったと証明する」ようなプレーを優先してしまう。
そんな言い訳を用意するほど「勝つためにプレーしたのに負けちゃう」ということを恐れているなら「勇気が無い」し、「とにかく個人の力」と単純化するほどサッカーを理解して戦うことを面倒だと思っているなら「正面から取り組もうとしていない」し、「俺たちはこれをやってるから負けてもいいんだ」なんて言ってて「勝つために準備してきたし、試合でも全力を尽くすぞ!」と言えないなら「正々堂々としていない」。
これこそが卑怯に当たるのかもしれない。
サッカーのゲームは、誰かを成長させるためのものではなく、どちらの方が優れているかを証明するためのものでもなく、ただ勝敗を競う遊び。
優れているプレーを見せた回数で勝敗が決まるのではなく、得点数で勝敗が決まる。
というか負け続けるようなら、それは優れたプレーでもなんでもない。
だから、複数人で囲んでボールを奪おうが、背後からボールを奪おうが、囲まれることを利用してパスしようが、相手GKが見えないようにシュートを打とうが、全部正当なプレーであり、勝ちにつながるならそれこそが優れたプレー。
出来るのにしない、ルール上やっていいのにやらない、はただの縛りプレー。
その縛りプレーで「勝ちたい」って言うのは、水泳の自由形で背泳ぎをして勝ちたいって言っているようなもの。
フォートナイトで武器を持たずに勝ちたいって言っているようなもの。
ゲームの例えついでに。
「数的優位を作る」っていうのは強さと引き換えにコストが掛かるもののように感じるかもしれないけど、実は一点集中のリスクと引き換えにローコストにしてくれるもの。
複数のキャラクターが同時に戦場に出てるタイプのゲーム、例えばドラクエで言うと。(ドラクエわからない人ごめんなさい)
ボスモンスター+下っ端モンスター複数体の構成と戦う時、だいたいは自キャラ4人全員の火力を下っ端モンスター1体に集中させて1体ずつ倒していき、最後にボスと戦うと思う。
バランス良くダメージを与えようとすると、全モンスターからの攻撃を都度食らうことになったり、途中で回復されたり、自分達の回復や強化が間に合わなくなったり、とデメリットが多いから。相手モンスターの総HP(ライフ)は変わらないのに。
サッカーでも同じで、数的優位を作って囲みきるコストを支払えば、その後はローコストで有利を得られる。攻守において。
逆にそれ無しで中途半端にやると、逃げられたり追いかけ回されたりして、余分に走り続けながら精神もすり減らした割には大した有利も得られない、ということになったりする。
だからね、囲んじゃっていいんだよ。後ろから忍び寄ってもいいんだ。
1人で抜けないことは恥、1人で止められないことは恥、とか無い。
個人が強いに越したことはないけど、個人で対応できないからカッコ悪いとかも無い。
サッカーはそういうゲームじゃないから。
1人で対応できない相手がいるなら、その事実を認めて対策を講じることこそが、ゲームに真摯に向き合った正当なプレー。
それが出来る方がカッコいい。
個人の承認欲求を満たすためだけのプレーこそカッコ悪い。
むしろ、自分1人で複数人の相手を倒せると思うことは、相手へのリスペクトを欠きとても失礼だ。
時代劇では、大勢で囲んでいても、同時に襲わず背後からも襲わず1対1を繰り返す。
それが武士のプライドということなのかな。
でもその武士道はサッカーという競技では全く要らない、むしろ失礼なもの。
サッカーにおいての卑怯なプレーを勘違いしてはいけない。
ただ「ファールで止める」というプレーもあるけど、それ自体は卑怯ではないが、相手を傷つけようとしたり、試合以外のところで攻撃したりすることは、もちろん卑怯だと思うよ。
サッカーは対戦相手と一緒に楽しむゲームだからね。
ということで、A君も含めて状況に対応してサッカーを楽しんだ子達、ブラボーだった!
終わり