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朝井リョウコンプレックス

私は、「朝井リョウ」が嫌いです。(大好きです。)

どのくらい嫌いかというと、朝井リョウさんが、元ABB48総監督・高橋みなみさんとやってらっしゃるラジオ(高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと)にて、しれっと、「妻」というワードを使ってエピソードトークし(その週はそこには触れずに)、その翌週に結婚したという報告をさらっとするという、クレバーな報告を聞いて、出会う友人友人に、「朝井リョウ、結婚したってよ。結婚にそこまでメリット感じてなさそうな朝井さんが、一緒に人生を共にしたいと思える相手に出会えたのって、すごくない? 二人の未来に幸あれじゃない?」と言って回ったくらいである。その発表については、敬愛するはてなブロガー・あややさんが、記事になさっているので、よろしければお読みください。

まあ、今はめちゃくちゃ好きで、彼氏にも、「朝井リョウのこと話してる紫苑、めちゃくちゃ良い顔しているよね(笑)」と言われる始末なのだけれども、朝井リョウさんを知った当初は、正直拒否感が大きかった。

おそらく、その拒否感の答えは、あるインタビューの朝井さんの発されたコメントにあると思う。

――『リア充裁判』というお話が入っていますが、朝井さんご自身もリア充を自称されています
リア充だと思います。非リア充の方が創作に向いているとか、一切思っていません。本を書いているくせに、「読書好き」が高尚な趣味に思われることに腹が立つんですよね。けっこう、読書好きを驚かせたい気持ちで書いたところも、あるかもしれないですね。読書好きでコミュニケーションが苦手で、と言われたら、「いや、それを個性としてないで、ちゃんと人と話せるようにしなよ」と思うので……。
――"非リア"なことで、逆に上から来る人に一矢報いたいといった気持ちが……
そうです!(笑) 苦手なのはわかるけど、ちゃんと振る舞いなよ、と思うじゃないですか。
――朝井さんのなかでのリア充の定義はありますか? 世間で言う「リア充」は、「自分よりも考えが浅い人」を指していると思っています。リア充って他称なんですよ、今や。もともとは、友達が多い人、恋人がいる人という意味だったと思うんですが、今はバーベキューをする人、スポーツバーでサッカー観戦をする人とかを、「自分より思慮深くない」という意味で「リア充」と括っている人が多い気がします。そういった「自分は思慮深い」と思っている人を、「まさか」というところから驚かせたい気持ちはありました。僕自身、ストリートダンスサークルに所属して、クラブでダンスバトルをしながらも小説家デビューした、というのもその一環です。作家を夢見る早稲田の読書家たちが、一番脅かされたくなかっただろう人に脅かされている顔を見たかった。そういう気持ちが、直木賞をいただいても全然薄まらなかったことに絶望しています(笑)。 (「リア充」小説家・朝井リョウの働き方:https://news.mynavi.jp/article/20151209-careerperson/ より抜粋。)※太字は引用者による

読書を趣味にしていると、なんとなく、文学をやっている人って、近代文学のイメージが強いからか、「どこか欠けている」ということを求められているというか、満たされないものを補填するよう存在として、そこに合って欲しいと思っている節がある。芥川や三島、太宰のイメージが強いのかもしれない。だから、「満たされている」朝井リョウさんは非常に、キラキラしてまぶしい存在に見えて、こちら側に立たれたら、「満たされないから読むこと/書くことで埋める」という行為がみじめに感じてしまうではないか、と。

そもそも、私が初めて朝井リョウの存在を知ったのが、大学の図書館であった。文学誌に載っていた在学時に受賞した「すばる文学賞」のインタビュー記事で、早稲田大学のダンスサークルに所属していることを話している記事である。早稲田大学という高学歴で、ダンスサークルという“陽”の象徴みたいなサークルに所属し、大きな賞を取得するという圧倒的な輝きに、自分は何も頑張ってもいなかったくせに、強烈な嫉妬を覚えた。そして、きちんと読んでもいないのに、存在を拒絶した。

最年少で芥川賞を取得した綿矢りささんには感じなかった劣等感を、朝井さんには強く感じたのだった。(綿矢さんの受賞は衝撃ではあったけれど。朝井さんも同年代で文章書いている人が受賞したということが驚きで、「綿矢りさショック」があったと思うと語っていたし、私もそれに同意するけれど。)

そこから数年経って、ふと、朝井さんの本を読んでみようとなったのは、社会人に入ってからだと思う。きっかけは、本屋でたまたま見かけたエッセイだ。当然のように平積みされていたエッセイ集「時をかけるゆとり」(単行本発売時『学生時代にやらなくてもいい20のこと』)が目に入った私はつい、手を伸ばしてしまった。読み進める……。

くだらない、だがしかし、めちゃくちゃ面白いじゃないか!

即座にレジに持っていき、アッという間に読んでしまった。ラジオをやっていたことを知り、どうにかこうにか全部聴いた。やはり、めちゃくちゃ面白い……。

悔しいことに、朝井リョウの視点の面白さの虜になってしまった。

正直、小説は、アイドルをテーマにした『武道館』と『何者』しか読めていないが(『武道館』は主人公の愛子の誕生日を8月31日に設定したのが優勝だと思った。女性アイドルの儚さを誕生日で提示している。オムニバスのものはいくつか読んでいるし、企業とのタイアップ商品はいくつか購入した)、ラジオは全て聴いている。

本当に悔しいことに、「朝井リョウの作品」というか「朝井リョウ」という人のファンになってしまった。二冊目のエッセイ『風と共にゆとりぬ』もめちゃくちゃ面白かった。

朝井さんはめちゃくちゃつまらない経験をしても、めちゃくちゃ面白く脚色できそうな気がする。

そして、朝井リョウのせいで、オードリーのラジオを聴くようになり(オードリーは元々好きで、若林さんの著書も読んたりしていた)、ついにはクリーピーナッツの楽曲も聴くようになってしまったのだから、朝井さんの罪は重い……。

なお、朝井リョウさんは作家デビュー10周年で、今までのタイアップ小説をまとめ、そこに発注の依頼内容や裏側を語った「メイキング」を付けて出版するという非常にニクい記念本を刊行している。ぜひ、皆読んで、嫉妬してほしい。(参考:https://hon-hikidashi.jp/enjoy/103421/

この本の魅力については、ピース又吉直樹さんと芥川賞を同時受賞された幸運でクレバーな作家・羽田圭介さんが存分に語っているので、ぜひご覧頂きたい。

https://m.youtube.com/watch?v=YZsocUk0JAs

朝井リョウさんには、これからも、私に嫉妬させて欲しいし、これからも第一線で頑張っていただきたい。そのためにも、持病の痔瘻が悪くならないことを祈るばかりである。


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