見出し画像

2023.05.14/360日後

「定年退職して毎日家にいるわけでしょ。何してるの?時間経つの遅いんじゃない?」
「それがさ、自分でもびっくりするんだけど、特に何もしてないけど一日があっという間なんだよ」
「趣味とかないの?」
「これといってないんだよね〜」
「そんなもんかね〜」

母と伯父の会話に「それは老いのために時間の感覚が短くなっているからでは」と思ったが口には出さなかった。私たちだって、休みの日にぼーっとしているとあっという間に一日が過ぎる。無職だった時に伯父と同じ経験をしたが、お金さえあればいくらでも毎日ぼーっとできると思った。

地元で法事が行われるときは必ずうなぎを食べる。いつもは父の同級生が継いだ老舗のうなぎ屋に行っていたが、コロナ以降、座敷席は廃止してしまったそうで、仕方なく初めて行ったうなぎ屋には西村京太郎のサイン色紙が飾られていた。

約一年前、「きっとこの辛さは、時間が経てばなんてことはなくなる」と思っていた通りになった。兄がいようがいまいが同じ生活を送っている。ただこの一年の間に、新たに出会えて仲良くなれた人も多く、その不思議さに感動する。こんなに芋づる式に友だちって増えるんだっけか。大人って楽しいなぁ。

そう思うと同時に、兄だってもっと色んな環境に身を置いて人と出会えていれば。自分の人生や健康と向き合えて、死を回避できていたかもしれない。

今の私を作り上げているのは、ここ数年の環境と出会いが大きい。20代前半以前の頃の自分とは意識がまったく別人だ。今朝も高校時代の友人とLINEをしていた折に「sioは昔尖ってたよね、変わったね」とメッセージが入り、まったくその通りだ、と納得しつつも気恥ずかしくなった。愚かで知見の狭かった頃から仲良くしてくれる人たちというのは、本当に貴重で代え難い存在だと、心に染みる。

うなぎを食べている最中は世間話と、同世代同士の老いの話に花が咲き、兄の話を誰もすることはなかった。10人出席している中で私だけがビールを飲み、辛気臭い法事を昼から飲める行事に変換した。法事では運転する必要がない限り酒を飲むことにしている。酒飲みキャラに徹することと若さで笑ってもらえるのもある。

母の兄である伯父と、妹である叔母からは毎回定番の川越土産のお菓子と、海老名にある名店の珈琲をいただく。お土産の物々交換をして解散した後、家族三人で新しくできたトンネルをただただ車で走りに行った。

道中はずっと父の運転だった。子供の頃は車内のBGMがずっと洋楽で、父の香水とタバコの香りが充満しているのがなんとなく嫌だったが、今はむしろ心地よく感じた。あと何回、こうやって三人で道中を共にすることがあるのだろうか。兄がいる頃もそうだったが、家族が揃うのは法事のときくらいだ。来年〜再来年に法事ラッシュがあるので、誰も死ななければあと3回は訪れる。

トンネルを通った後は、母の一言で老舗の喫茶店へ。家族三人とも、普段から相棒の飲み物はコーヒーで、お酒と温泉が好きで、車に興味がないのに運転は好きでB型。しかし兄はコーヒーもお酒も温泉も運転も興味がないB型だった。

来月、両親は北関東へ旅行に行くらしい。父が定年退職してからは、頻繁に車で国内旅行へ出掛けている。2人とも60代だが車での旅行しか頭にないようで、たまに悪態をつきたくなるときは「さっさと免許返納すれば」と言うことにしている。(運転好きの老人からすれば一番腹立つワードだと思うので)

間違いなくこの人たちから半分ずつ遺伝子をもらっている、と年々思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?