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【自動車・バイク整備】鎌田浩一郎さん

2021年、東日本大震災から10年が過ぎた。

大切な人、慣れ親しんだ場所や家、日々の生活、様々なものを奪った大災害。

あの時の出来事が大きな転機となった人たちもいる。

当時、岩沼市で自動車・オートバイ整備を営んでいた鎌田浩一郎さんもそのひとりだった。


鎌田浩一郎さん

―― 鎌田さんが整備の仕事をしようと思ったのは、オートバイやクルマが好きだったからですか?

鎌田浩一郎さん

そうですね。
仙南に住んでいたので、子供の頃からSUGOサーキットも身近な存在でしたし。よく自転車で観に行っていました。

塩釜うまいもの通信

―― 少年時代の鎌田さんは、やがてオートバイの免許を取れる年齢に差し掛かりますが、その頃から既にこういう世界を意識していたのですか?

鎌田浩一郎さん

今でも覚えていますが、はっきりと意識したのは中学3年生の時です。それまでは近くにある高校に行こうと思っていたのですが、普通高校に行くのをやめて商業高校に行くことを決めました。

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―― え?ちょっと意外ですね。普通高校進学ではないにせよオートバイやクルマの世界に関わるなら工業系ですよね?

鎌田浩一郎さん

というのは、もっと前から自分は商売をやっていくんだろうな、とイメージしていたからです。

親類が商売をやっていたからなのかもしれませんが、子供の頃からそういう姿をみていたので、自分もそうなるのかな、という思いはあったので、私の中ではそれほど大きな方向転換ではありませんでした。

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―― それで商業高校に進学したわけですか?

鎌田浩一郎さん

これからの時代、コンピュータがどんどん身近な存在になってくるのではないか、というイメージがありまして。

進学先に選んだ高校(大河原商業高等学校)は、当時、工業高校よりもコンピュータが揃っていたんですよ。

だから、コンピュータを使いこなすなら、ここだ!と思って情報処理科(現・情報システム科)に進学しました。

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―― 高校時代はオートバイばかりですか?

鎌田浩一郎さん

はい、免許を取りましたからね。
レース活動の傍ら、バイク屋でアルバイトをしていました。
そこで、壁にぶつかりましたね。

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―― 壁ですか?

鎌田浩一郎さん

たとえば、タイヤがすり減ったらタイヤを換える、エンジンの調子がおかしいからスパークプラグを換える…これは経験を積んでいけばわかるのです。

しかし、理論が追いついていないというか、じゃあ何でスパークプラグを交換するとエンジンの調子が良くなるのか、説明も出来ないし理論も分からない。

これは学ぶしかない!ということで自動車整備の専門学校に進学を決めました。

ところが、高校の先生からは大反対されました(笑)。
商業高校から自動車系の専門学校って完全に「異業種」じゃないですか。

でも、高校で商売の知識を身につけ、技術を別のところで学ぶ、という揺るがない目的がありましたから、そこは折れませんでした。

結局、先生も折れて推薦で入学することになりました。

塩釜うまいもの通信

―― すごいですね。専門学校は好きな勉強が出来て楽しかったんじゃないですか?

鎌田浩一郎さん

ところが、ものすごい苦労の連続でした。
基礎知識が何にも無いので、成績はビリですよ。

周りの人達は、ほとんど工業高校出身者ばかりですから、基本的な知識は備わっていますから…私は単語ひとつにしても「何だろう、それは」と分からないことばかりでした。

ただ、高校時代、ずっとバイク屋でアルバイトしていましたから、少しずつ経験と授業の内容が組み合う時があるんですよね。

「こういうことだったんだ!」と…頭の中でスッキリするというか、どんどん知識が身についてくるんですよ。

スポンジのように、と良く言ったもので、どんどん吸収していって、ビリだった成績も1番になりました。

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―― 専門学校を卒業してから、どこかに就職したんですか?

鎌田浩一郎さん

はい。トヨタカローラ宮城、というディーラーです。

ここはちょっと特殊で、名古屋のトヨタ自動車本体が100%出資する会社で、まさにトヨタでしたね。社長もトヨタの方でしたし。

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―― 一流企業じゃないですか。どうだったんですか?

鎌田浩一郎さん

たしかに超一流の会社でしたが、私は1年で辞めました。

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―― え?そうなんですか?

鎌田浩一郎さん

ええ。肌が合わないといいますか、やっぱり大手企業なんですよ。

整備士は想像的な仕事が出来ず、単なる部品交換要員で、ひたすら車検だけをやっていたのです。

でも、本当にすごかったです。

お客様の車に乗る時はシートカバーを換える、ツナギを着替えるのは当たり前で、一日何度も着替えていました(笑)。

トヨタを辞めた21歳、22歳の頃ですかね、この頃、本気でレースをしようと思ったんです。

そこで、ウェッズスポーツ(株式会社ウェッズ)に入社しました。

ここは自動車用のアルミホイールなどを販売しながら、レーシングチームも持っていたので、レース活動にはすごく理解があったんですよ。

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―― でも、この会社は卸売業ですよね?整備の仕事とは無関係では?

鎌田浩一郎さん

たしかに整備はしなかったのですが、整備の知識がベースにあるので、タイヤ屋さんとか整備工場とのやり取りがスムーズに出来ました。

同時に流通とか卸の知識が身についていったわけです。

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―― そして1997年、満を持してご自身のお店を持ったわけですね。

鎌田浩一郎さん

ワクワクする一方、もう毎日が大変でした。

いままではトヨタや大企業の中にいたから、新人社員だろうとアルバイトだろうと、大きな後ろ盾があるけど、後ろには何もない、自分だけが頼りです。

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―― 店も軌道に乗り、たくさんのお客さんに支持された頃、東日本大震災でお店がメチャメチャに壊されてしまうことに。

鎌田浩一郎さん

かろうじて逃げのびることが出来ましたが、仙台空港周辺には沢山の人たちが亡くなっていた。
母親と子供が車の中で一緒に亡くなっているのも見ました。

あの時、車に乗って逃げた人の方が多かったのに、結果的に歩いて逃げた人の方が助かったのです。

「津波てんでんこ」という言葉がありますけど、あれは津波が来たら、各自てんでんばらばらに逃げろ、もし足が悪くて逃げられない家族がいても手を離して、自分だけ助かりなさい、という古くからの教えです。

これだけ文明が進化したのに「文明の利器を使え」じゃなくて「歩いて逃げなさい」と言われている。実際、自動車に乗っていた人の方が助からなかった。

いまなお、何百年前のシステムに頼らざるを得ないなんて、技術者として何をやっていたのだろうか…と、ものすごくショックでした。

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―― その後、新しい店に移転すると共に大学の仕事を始めていますよね?これはどういう経緯だったんですか?

鎌田浩一郎さん

以前から東北大学の関係者がお客さんで、以前から研究を手伝って欲しいと言われていたのです。

その時は、自分が行っても役に立てることは無いと思って、良い返答は出来なかったのですが、震災の後、また連絡があり「未来のクルマを作るから来い」と声をかけて頂き、災害に強い車社会を作るという思いで参加しました。

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―― 実際はどういうことに取り組んでいるのですか?

鎌田浩一郎さん

大きな枠組みとしていえば、自動車の自動運転技術、信号の要らない車社会です。

塩釜うまいもの通信

―― 信号が要らない?

鎌田浩一郎さん

そうです。
全てが自動制御されれば、極論、どんな速度ですれ違ったり、交差点に進入してもクルマがぶつかることはないです。

もちろん、そんな速さで曲がろうとすれば中に乗っている人は大変ですけど…

何もかもが制御されてしまえば、たとえば、東日本大震災の時のような大津波が来ても、路上にあるすべてのクルマが自ら動いて避難してくれる。

「車を置いて逃げなさい」ではなく「車に乗って逃げなさい」をスタンダードに出来ます。

塩釜うまいもの通信

―― ご自身の仕事が大学の仕事に活かされているわけですが、違いはありますか?

鎌田浩一郎さん

いままでは「アレンジャー」としての仕事だったんです。

例えば、車やバイクには、この部品が合うだろうな、オーナーのことを考えたらこっちの部品をつけてあげたあいいんじゃないか、とか。

あるものを組み合わせてアレンジしたり、コーディネートする仕事でした。

それが、いまはそういう部品を自分から創り上げる仕事になりました。
無から有を産み出すような…

塩釜うまいもの通信

―― もう少し分かりやすく教えて下さい。

鎌田浩一郎さん

たとえば、塗り絵って誰でも出来ますよね?
多少のうまい下手はあったり、塗る色が違ったりするけど完成させることは出来ます。

でも、好きな画を描いて下さい、というと難しいですよね。

でも、大学での仕事に関わったらそれが出来たんです。

アイディアも沢山出てきて、自分で図面を引いて電気自動車を作ることも出来ました。

WINDSの指針、理念は「No Challenge, No future」なんです。

挑戦しない限り、うちのような小さなショップは成り立たなくなる。
まずは、やってみよう!という精神です。

塩釜うまいもの通信

―― 挑戦や努力を続けるのはハードですよね?すべてが成功に結び付くわけじゃないですし。

鎌田浩一郎さん

失敗はとんでもなく多いですよ。
でも、それは成功のための失敗であり、成功までやり続けていけば、結果的に失敗にはならないわけです。

成功した人の多くは「こうして自分は成功した」と披露しますけど、私にはどうやったら失敗したのか、という積み重ねが沢山あります。
失敗した数の多さこそ、成功への近道だと思っています。

塩釜うまいもの通信

―― それは創業以来の精神ですか?

鎌田浩一郎さん

乗り物は楽しいもの、車やバイクを楽しむことを皆さんに提供する、という目的は変わっていません。

たとえば、うちの店では、どんどんお客さんをガレージに招いています。
もちろん危険のない範囲内ですが。

すると、お客さんも、自分のクルマやバイクが「こうなっているんだ」と興味をもってくれますし、何より透明性が出せます。

やったのかどうか分からない作業をしてお金を取っているだけじゃない、と。

そして、工具も貸し出ししています。

塩釜うまいもの通信

―― お客さんが自分でガレージで作業できるんですか?

鎌田浩一郎さん

はい、お客さんが自分で体験できます。

そういうことをやっていると「工具とか盗まれるんじゃないのか?」と心配する人もいますが、うちの店で工具が無くなったことは一度もありません。

また、やり方を簡単に教えてしまっていいのか?という人もいますけど、知っているのと出来るのとでは違いますからね。そう簡単には出来ません。

ソバ打ちとか陶芸でも「体験」ってありますよね?
あの感覚でお客さんにも楽しんで欲しいと思っています。

学生たちのレース活動(学生フォーミュラ)も支援しているので、ガレージには学生たちもやってきます。

塩釜うまいもの通信

―― 大学では学生たちと接する機会も多いと思いますが、いまの学生はどうですか?

鎌田浩一郎さん

モノがありふれた時代に生まれているので、もう自分たちとは違う人種みたいです。

目的に対してもっと貪欲になって欲しいと思います。
早く目的を見つけることができれば、人生はもっと楽しくなると思います。

ただ、何故それをやるの?と聞いても応えられる人は少ない気がします。ネットから引っ張り出してくる知識はすごいですけど、自分の意見がない。

他人を批判したり、反対することは上手なのですが、どうすればいいのか?という質問にはなかなか答えられない人が多い気がします。

塩釜うまいもの通信

―― 目標と目的はどう違いますか?

鎌田浩一郎さん

プロスポーツ選手だと分かりやすいかもしれません。

たとえば、何で相撲やっているんですか?サッカー選手になったんですか?
とインタビューされたアスリートが「親孝行したいから」と答える。
これが目的です。

親孝行はどうやったらできるかな?
この体型を活かして相撲をやろう、相撲で沢山稼ぐにはどうしたらいい?
なるほど、横綱になればいいのか、じゃあ横綱になろう。

これが、目標ですよね。

だから、お相撲さんになって親孝行という目的達成が難しければ、転職したっていいわけです。目的、目標がちゃんと分かっていれば、仕事なんて何をやっても一緒だと思います。

塩釜うまいもの通信

―― これから整備士を目指す人には、どんなアドバイスがありますか?

鎌田浩一郎さん

いまの時代は、脳みそにも汗をかかないと良い整備士になれないと思います。

情熱がないと良い仕事は出来ませんしね。
情熱があると、知恵が出て来る。

中途半端にやっていると愚痴ばかり出て、仕事もいい加減になります。

考えることは大事ですけど、頭から先走らない方がいいです。

自分を信じて努力すれば道は拓けます。

それが、いまの社会の荒波を生きていくコツじゃないですかね。

塩釜うまいもの通信

―― 最後に鎌田さんにとっての『宝物』を教えて下さい。

鎌田浩一郎さん

若い人達、ですかね。
学生に限らず、将来を背負っている人達。

たまたま自分は学生がほとんどですが、そういう人たちに色々なものを伝えたり、指導できることが、自分にとっては宝物だと思います。

今、自分が取り組んでいることも自分が完成させることができなくても、若い人たちが受け継いで形にしてくれるかもしれないですしね。


バイクと車のチューニングショップオーナーとしての顔、研究者としての顔を持つ鎌田さん。

はやりの言葉でいえば「二刀流」だが、新たなことへのチャレンジを忘れない姿勢には、学ぶべきことも多いと感じた。

これからも目を離せない「人」であることは間違いない。


ひと 鎌田浩一郎さん
しごと 自動車・オートバイ整備
HP http://www.mg-winds.com/


仙塩地域から少し外れてしまいますが、『未来を作っている人』として面白い方でしたので仙塩ひと・しごと図鑑で紹介させていただきました。インタビューに応じていただきありがとうございました。

Written by:竹田知広

Presented by: 竈ジン.com

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