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Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Bandについての雑談


最近Radioheadにハマっていた。

レディオヘッドはとんでもない魔力を持つバンドだった。OK Computerを聴いていて、最初は「つまらないなあ」とか思っていたのに、今では毎日聴いているし、ここ3ヵ月くらいSpotifyの月間のよく聴いていたアーティストの一位がずーっとレディオヘッドだ。
もうどっぷりとレディオヘッドの世界に浸かって、このオルタナティヴロックをもう少し味わっていよう。
そう思っていたのだが。

あれ、ビートルズのオタクなのに、ビートルズを全然聴いていない。

そのことに気づいて、今日Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Bandをひさびさに聴き返していたら、こんなことを思い出した。
「あれ。あれってなんかファンからの人気やけに薄かったよね。」
なんだか少し納得がいかなかった。あのアルバムは最初聴いた時からもうそれは圧巻で、なんなら最高傑作だと思っていた。それゆえ、「一曲一曲が弱い、一部を除いて」とかそういう評価を下すのは少し早計ではないか?と感じる。

そのため、この記事はこのアルバムを見つめなおしながら、ゆるく感想を書いていく、という私の自己満足で書かれている。
この記事を読んであのアルバムを再評価してくれる人がいたら嬉しい。

ビートルズ中期の振り返り

1966年、20世紀最大のロックバンドであるThe Beatlesから、アルバム「REVOLVER」がリリースされた。今でこそファンや批評家の間で「ビートルズの最高傑作」とも名高い本作。リリース当初より批評家層からの評価も高く、革命的だ、挑戦的だ、と、ざっと50年くらいずっと語られてきている。だが、きっと彼らをアイドル時代から追いかけていた熱心なビートル・マニアたちの中にはきっと、「She Loves You」なんて書いてた連中が「Tomorrow Never Knows」を書くのか、もう理解ができない、と唸った人もいるであろう。
The Beatlesの中期はそういう時代だ。サイケやら、なんやら、とにかく前衛的でよくわからない音楽で満ちていた。
そんなわけのわからないものにハマったThe Beatlesが1967年にリリースした作品こそ、「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」である。

話題その1:ガバガバなコンセプトアルバム


なぜかこいつは史上初のコンセプトアルバムである、としばしば持て囃される。(記憶によれば)ポール・マッカートニーの提案で、「架空のバンドに成りすましてライブをしている」などというコンセプトがつけられたものだ。だが、一つ考えてほしい。
ライブをしているとか言っているが、実はそうでもないということを。

正直本作はコンセプトアルバムというよりか、「ガバガバな」コンセプトアルバムだと思う。ホワイトアルバムほどではないが統一感は正直言って薄い。
サイケ的な雰囲気は確かに全部の曲に漂ってはいるのだが、リボルバーの前に出した「Rubber Soul」ほどの一体感はない。
なぜかと言ったら本作はガバガバだからである。そのガバガバさはジョン・レノンの発言に裏打ちされている。

「僕が『サージェント・ペパー』に提供した曲は、どれもサージェント・ペパーと彼のバンドというアイデアとは何も関係がない。でもそれが成立しているのは、僕らが成立しているからと言ったからだし、アルバムがそんな外見をしているからだ」

Wikipediaより

なんというガバガバ。
普通にコンセプトアルバム的に見るならフーが出している作品とこれとでは天と地の差があるかもしれない。
何ならジョージもそのガバガバ具合を助長している気がする。ジョージは「Within You Without You」なんて曲を突っ込みやがった。ペパー軍曹のバンドにあんなガッツリインドインドな野郎はいたか。いていいのか。
いてたまるか。それ以上でもそれ以下でもない。

クラブでそんなバンドが演奏してたらさすがに仰天する。

こんなガバガバ具合だから、このアルバムの中間部はよくダレる、一曲一曲が弱いだなんて言われてしまう。コンセプトアルバムを聴きに来たら中盤の展開がガバガバで萎える、というリスナーもいると思う。

しかし私はこの中間部を大いに評価したい。主に、楽曲として。

話題その2:中盤の好きな曲

「She's Leaving Home」

何より気に入っているのは「She’s Leaving Home」である。前作に収録されたセカンドナンバー「Eleanor Rigby」からより進化した美しいストリングスが光る一曲で、ハープだかなんだかのイントロから始まり、全体的に甘く幻想的な雰囲気を残しながら終わっていく楽曲なのだが、これのコーラスの部分に来るジョンとポールのハーモニーが中々綺麗なのだ。
この二人の歌声が合わさる瞬間は唯一無二である。ファーストアルバムの最後のほうに収録されていた「There’s a place」からその唯一無二の和音を聴かせてくれるが、中でもこの曲は一級品だ。ポールの曲のくせにジョン・レノンのエコーのかかった歌声が主軸なのが良い。ポールは裏声を使って、とにかく歌を「支える部分」に徹しているのだが、これが類を見ないぐらいに甘美だ。オーケストラが作り上げる音とこれが完璧に調和していて、夢を見ているような錯覚すら覚えるぐらいには素晴らしい。

「When I’m Sixty Four」

あと、ポールの曲だともう一曲気に入っている曲がある。「When I’m Sixty Four」だ。ポールが14歳の時にピアノだかなんだかで作った曲だ。
これを25歳の時に作ったアルバムに突っ込むという行為もなかなかドラマチックな感じがしていい。曲自体もよくできていると思っている。なんだか童謡のような雰囲気でサージェントのだれ部分を構成している一曲な感じもするが、それでも聴きこめば聴きこむほど好きになってしまう魔力がこの曲にはある。
それが何か。中間部にかけての曲の展開だ。ピアノの伴奏やジョン、ジョージのコーラスが入って、少しだけコードが不安定になるあの部分。あそこから味わえるスリリングな感覚というか、不安をあおられるようなあの感じ。そこから管楽器が出てきてから湧き出る解放感。それが、本当に気持ちがいい。
こうしてサージェントを聴き返してみると、14歳に作った曲をこうやってアルバムに突っ込むことによって、より一層「完成させた」ポール・マッカートニーはやはりとんでもない天才なのだなと再認識させられる。

話題その3:最後にやってくる真打

ほかにも中間部の曲で気に入っている曲はいくつかある。だがそれよりも喋りたいことがある。
「A Day In The Life」についてだ。
このアルバムの最後の最後でやってくる真打、それがこの曲だ。
人生のなかの、ある一日。そう題された一曲なのだが、これが本当に一日の中のどうでもいいひとときを描いたの?とは思えないぐらいに前衛的なのだ。
曲のところどころにまじってくるあのオーケストラがその典型だといえるだろう。
あのフレーズやヴァースの部分に移る直前のところの音の広がり方とか、ものすごくドラッグでトリップしているところを彷彿とさせるところがこの曲には多いと思う。歌詞もそうだ。「Turn You on 」だったり、「Had a smoke」だったり。そこが中期のビートルズらしくて良い。
ハンブルク時代に覚せい剤に出会い、64年のアメリカでマリファナに出会った彼らだが、皮肉にもそんなドラッグからこの名曲のヒントの一部を得たのだろう。

この曲はレノン=マッカートニーのふたりが「作ってて一番楽しかった」とも言っている。この曲は二つの曲を無理やりつなぎ合わせたような感じで、大部分はジョンの曲、そのつなぎ目にポールの曲が、という構成となっている。この二つの曲は曲調もメロディも全然違う。なのに不思議とそこが違和感なくつながっているのが素晴らしい。
特に素晴らしいのはポールの曲からアー問題の部分、そこからジョンの曲に移るまでのところだ。
ポールの曲が終わり、ジョン、もしくはポールの「アー」という歌が入るあの部分はまさにLSDをやっているような気分を体感できる。脳髄に直接注ぎ込まれる、水面のように揺れる音と力強いストリングスがトリップ感を我々に強く感じさせてくる。あれがものすごい。あとはそのパートが終わったところのドラムがなかなかいい。静かに、何か迫ってくるような感じでやってくるリンゴのドラムは本当にビートルズのすばらしさをより引き立ててくれる。
この曲を聴いた後の満足感というのは、とにかく山盛りだと言ってもいいぐらいに重ねられた圧倒的な音の圧、そして作りこまれた音楽、メンバーの秀逸な演奏、そしてレノン=マッカートニーのもはや暴力的と言ってもいいほどの音楽の才能など様々な要素が重なり合って初めて生まれる”芸術性”によるのだと思う。

おわりに

これ以上書くと炎上しそうなのでここでとどめておこうと思う。
私が一番好きなのは「Rubbersoul」だが、普通に最高傑作!と言われるとこれが出てくる。「REVOLVER」を超える何かがこれにはある。
今回は「レビュー」とも言えないような「雑談記事」だったが、好評であればほかのアルバムでもやろうと思うので、よかったらその時もご一読いただけると嬉しい。

とりとめのない言葉の濁流を受け止めてくださった読者の皆様と、そんな濁流を生むような傑作を作り上げたビートルたちに最大限の感謝をしたい。

4月19日(金) 塩田1960

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