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中野椋太の左フックからムエタイ出身勢の矜持を感じた話

RISE・NJKFの異なるルールでも活躍中の中野椋太。
その特徴的なパンチ技術を見て色々思ったことがあるので書き記します。

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ムエタイ畑出身の選手らしくアップライトかつオープンスクウェアスタンスで構え、RISEルールでもムエタイエッセンスを色濃く反映させたスタイルで好成績を残し、現在RISE中量級のトップコンテンダーとして活躍しています。
特に切れ味鋭く独特の軌道で飛んでくる左フックを代名詞にムエタイ勢が対応に苦しみやすい肘無し首相撲無しルールでのパンチの攻防もそつなくこなしています。

ムエタイスタンスを活かしたパンチの打法

一般的にムエタイスタンスはパンチの攻防・打ち方にデメリットが多い構えと指摘されます。
アップライトかつオープン気味に構えることでパンチ動作にテイクバックをつけ身体をうねらせた動作をダイナミックに行いずらい事と、足幅を狭めたスタンスのため支持基底面が狭まり動作から次動作に繋げるための高い敏捷性が求められることでバランスを崩しやすい事から、試合のテンポが速く距離が詰まりやすい肘無し・首相撲無しルールではパンチの攻防に不安要素を多く含みます。
しかし中野椋太はムエタイで培った距離感の良さ、独自の打法をRISEルールに巧くミックスさせることで弱点を補い、持ち味を活かしたファイトスタイルを確立させています。
本記事では左フックをメインに考察していきます。

左フック
中野椋太の代名詞である左フックですが、ムエタイスタンスならではの打法と適切な運動連鎖を用いることでソリッドかつ独特な軌道でパンチが放たれています。

・軸足を返さない、肩甲骨を外旋させる

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中野は安定した打法により左フックの威力を引き出しています。
キレの良い左フックを放つうえで軸足は返さないことを推奨されます。
左フックの方向に合わせて軸足を返し切ると踏ん張りがきかず回転運動と共に左半身が水平に流れきり、パンチが手押し気味になってしまうため威力が減衰してしまうためです。
それを防ぐには身体の回転方向に対して軸足を逆方向に踏ん張りを利かせ、右肩甲骨を外側に広げる(外旋させる)ことで右半身もパンチの逆方向に抗うためことで体軸が安定され、回転運動が減衰せず手先に満遍なく伝わることでキレる左フックを放つことができます。

・身体の面を向けながら打つ

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身体の正面を向けた状態で放つ左フックも中野の特徴的な打法の一つです。ムエタイのオープンスクウェアスタンスは相手と身体の向きが正対し合うため一般的なパンチングフォームでは身体の開きや踏み込みが見破られやすくムエタイスタンスに適したパンチが求められます。
その一つに身体の正面を見せながら放つフック系のパンチが有効とされます。
ペットパノムルン紹介記事で触れた左ストレート考察の頁踏み込む方向とパンチの軌道を一致させない打法を取り上げましたが、中野もこれに近い技術形態を駆使しています。
正面から身体の開きを見せ、ほぼ真横から左フックが飛んでくることで身体のベクトルとパンチの軌道が一致しなくなり、相手が反応しづらくなります。
ムエタイスタンスでは予め相手に身体の面を向けながら正対し合った状態になるためムエタイスタンスに適した打法と思われます。
さらに身体の面を向ける際に大胸筋が大きくストレッチされることで胸筋が作用し、パンチ力の増強にも繋がっています。

ボクシングにも似たような技術形態がありメキシカンボクサーが得意とする"ボラート"も身体のベクトルとパンチの方向が一致しないことによるギャップを活かしたパンチになります。

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※ジョニーゴンザレスvsアブネル・マレスより抜粋

デメリットを回避する
中野の左フックですがデメリットも当然あります。
身体をうねらせ上半身の開きが伴う回転運動主体の打ち方であるため初動のフォームが見破られやすく、オープンガードのまま相手の懐に入り身するためカウンターを被弾するリスクが高く、打ちこむタイミングや距離感が単調になると避けられたりカウンターを狙い撃ちされる可能性が高まりますが、中野は相手の態勢を見極め巧みにインサイド・アウトサイドに入り込み被弾しずらい状況をセットすることでこのデメリットを解消しています。

試合のテンポが速いRISEルールでは下がり際・打ち終わり際を瞬時に態勢を整え次動作に備えるといった敏捷性を問われる動作の難易度が高く、中野は相手の動作際を狙うバランスオフの瞬間を瞬時に判断し左フックを当てることに長けています。さらにミドル・ロングレンジではジャブ・ストレート・ティープを散らしブロッキング・パリーから即リターンブローを返しつつプレッシャーを掛けていくなど選択肢の多いフィームースタイルから能動的に相手の態勢を崩す手段も豊富なため相手のミス待ちに依存する必要がないの強みです。

最後に

ムエタイ畑出身選手の参戦が目立つRISEですがルールや勝手の違いから苦杯を舐める試合も多くムエタイファンの筆者も多くの涙を飲みましたが、
RISEに適応しつつもムエタイの特性をふんだんに活かした中野椋太のファイトスタイルにはムエタイ出身勢が活躍するためのヒントや可能性を感じました。

ご拝読ありがとうございました。

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