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ヘタウマパンチは一長一短だけど理に適ってるかもしれない話

フォームは汚いのになぜかよく当たる。自分も被弾するけど相手はもっと被弾している。気が付いたらダメージレースで優位に立ってるパンチ。
通称"ヘタウマパンチ"

ニック・ディアスが台頭し始めたぐらいにこの言葉も広まり始め、
弟のネイト・ディアス、マックス・ホロウェイもその系譜を受け継ぐパンチを武器にしています。
ボクシング界でも使い手は豊富で、清水聡、デマーカス・コーリー、オマール・ナルバエス等が該当します。

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神秘のベールに包まれた謎の多いパンチ技術ですが、ヘタウマパンチャーの試合を見続けているうちに色々思ったことがあるので考察を書き記します。
ただ個人的な仮説の域を出ないので参考意見程度に留めてください。

ヘタウマパンチの特徴

・パンチングフォーム
脇を開き肘を立てた状態でオープンガード気味に放たれるフォームが特徴です。
オープンガード故の被弾率の高さやコンパクトなフォームでパンチを繰り出しづらく不格好に見えることから"ヘタウマパンチ"という俗称で呼ばれています。

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通常パンチ動作は脇を絞りインから繰り出すことをセオリーとされています。脇が開くことでパンチを繰り出す前に三角筋が収縮を起こし三角筋の力がパンチに伝わりづらくなり、さらにモーメントアームが伸びるため腕を動かすためのエネルギーを多く消費されパンチのキレ・ハンドスピードにも悪影響が出てしまいます。
オフェンス・ディフェンス面ともにデメリットが明確で使い手を選ぶ打法です。

ヘタウマパンチのメリット

・脳に衝撃を伝えやすい角度で打ち抜ける
パンチングフォームの原理的に手先に回転運動を伝えづらく、KOに繋がりづらく思いますが、ホロウェイやディアス兄弟と対戦した相手は深いダメージを負うことが多く、実践では有効なダメージングブローとして機能しています。その理由の一つに顔の側面からパンチを打ち抜きやすく、脳に衝撃を伝えやすいことが挙げられます。

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人の頭部は画像の青い箇所(第1頸椎・第2頸椎・環軸関節)が可動することで頭を傾ける・倒す、回す、向くといった動きを可能にしています。
この関節部が激しく動くと頭部が揺さぶられ脳震盪を起こすため、打撃技などの外力を加えることで関節を激しく回転させダメージに繋げることができます。

関節の中心軸から離れた角度を打ち抜くことで外力を伝えやすくなり、顎・テンプルのやや側面から打ち抜かれるとノックダウンが発生しやすいのはそのためです。サッカーボールの中心を蹴るよりも側面を蹴った方が回転を掛けやすいのを想像するとわかりやすいと思います。

直線軌道のパンチは顔の正面から受けられやすく、顎・テンプルを打ち抜きづらいですが、ヘタウマパンチは肘を立てて放つ性質上、ややロングフック気味の軌道で放たれるため顔の側面に着弾しやすく、そのため打ち抜きやすくなります。

・遠近感が掴みづらい
よくストレート系のパンチを「真っすぐの軌道で」といった説明をされますが、肘を曲げた状態から伸ばして放つことで厳密には下からやや上に向かって放つような軌道になります。
肘の曲げ伸ばしを伴うためグローブ→肘→肩にかけて高低差が生まれ、奥行きを視認しやすくパンチの遠近感を掴むための情報を得やすくなります。

ヘタウマパンチは脇を開き肘を立てるため手先から肩にかけて平行になり高低差がなく、グローブによって手先・肩が隠れやすいため奥行きを視認しづらく遠近感が掴みづらくなります。グローブのサイズが大きいボクシングの方がこの効果は高いと思われます。

遠近感が掴みづらくなることでパンチの反応が遅れたり不意の被弾を喰らいやすくなり、特に不意の一撃は防御姿勢が取れない状態で被弾するためダメージが深刻化しやすく、清水聡やディアス兄弟が劣勢の展開から相手の虚をつく一発で流れを変えた試合も度々見受けらます。

番外編 コナー・マクレガーのパンチ

コナー・マクレガーと言えば極端に広げたスタンスとクローズドな構えが特徴的ですが、全盛期のマクレガーはこの構えからヘタウマパンチを使いこなしKOを量産していました。オープンスクウェア気味に構え、手数重視で攻めるホロウェイやディアス兄弟とは対照的な使い手でした。

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極端なワイドスタンスとクローズド構えはパンチ動作の可動域を狭めるため手数重視のスタイルには不向きですが、奥手を胸元に置くことで半身がパンチの出処を隠し、見えずらいヘタウマパンチをさらに見えづらくする効果が期待できます。
圧倒的リーチの長さと懐の深さを活かしたアウトボクシングで組み立ててつつ出処の見づらいパンチでカウンターを狙う二段構えのファイトスタイルとこのパンチは相性が良く、マクレガーの特性を存分に引き出していました。

以上が私的考察になります。
ご拝読ありがとうございました。

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