ルーシー、鍵を開けて【小説】

ルーシー、鍵を開けて

 一つの展示物のように、真四角の白い家は立っている。
 彼女の家にはあらゆる人が訪れる。知恵をあてに、情報がほしくて、アイディアを求めて、好奇心によって。ルーシーはいつも、広い、真白なダイニングで、迎え入れる。
 ルーシーはミニマリストで、家具はほとんど置いていない。廊下はなく、扉を開いた瞬間、がらんとした白いダイニングがあり、真ん中に色のないテーブルを挟んで向かい合う椅子が二つある。いつも彼女は、そこに座っていた。
 白に近い金の髪、うすく血色の滲む白い肌、柔らかに微笑をたたえる。小柄な彼女だが、れっきとした成人女性だった。しかし飾り気のない態度は、大人びようとする少女に思える。
 彼女は天才だった。膨大な知識を詰めこみ、ありとあらゆる出来事を結びつけ、新しい発想を生み出す。医学、教育、化学、薬品、数式、文学、アート。それはとどまることはない。
 かわりにルーシーは、人の顔が覚えられない。膨大なデータを頭に入れこむために、瑣末な記憶は全て消去されるのだ。
 それをいいことに、大事のない時には、彼女は至る人の愚痴や世間話を聞かされる万屋のようになっていた。

 アリカが彼女の家を訪ねたのは、立て続けにオーディションの不合格の通知が来た昼のことだった。
 舞台女優と名乗れるほど、主要な役を勝ち取った事はない。けれど、彼女は舞台で生きることしか出来なかった。
 容姿は悪くない。黒いベリーショートとはっきりとした目鼻立ち。スラリと伸びる肢体に程よくついた筋肉。真珠のピアスが映える浅黒い肌も、彼女は気に入っていた。好きでなければ、舞台女優など出来ていない。アリカは人一倍自分の魅力を理解している。それが作品の阻害になる、ということが、常でもあった。
 自分が好きで何が悪い。私が、私を輝かせるのだ。有名な演出家に認められて、シンデレラストーリーを歩む、なんて、そんな他人任せな夢は夢とは言わない。私は私の力で世間を認めさせる。
 彼女はいつも強かった。周りから見れば、強情で、独りよがりだった。
 ルーシーの噂は、界隈ではよく聞いた。アンダーグラウンドの連中も、インディーズも、プロの演出家も、創作の取材だと言っておきつつも、彼女に気に入られようと舞台のチケットや映画の招待券を渡した。彼女の一言で売れるか落ちるかが決まる。株の高騰や暴落にも、彼女のたった一言が蝶の羽ばたきのように関わっている、なんて迷信めいた話が広まっているからだ。
 馬鹿馬鹿しい。アリカはそう鼻で笑っていた。
 ルーシーはガラスの靴なのだ。誰にも履かれることがない、キラキラとした透明なお飾り。王子が探し求める靴。履けるのはただ一人。集ってくる連中はみんなシンデレラになりたい、義姉ばっかりだ。
 そんな連中の顔を見たいと思い、アリカはルーシーの元を訪ねた。
 憂さ晴らしだ。傷の舐めあいは好きではないが、上ばかりを見ていても疲れる。時には人間的な、感傷や弱さを味わいたかった。
 その感情を奥底に秘め、アリカはあくまで、演技のための人間観察だと、自分に言い聞かせた。
 ルーシーの家にはモニター付きのインターホンがあった。そこが唯一、建築士の模型のような白い外観の唯一の色味だった。果たして、噂通りなら意味を成すのだろうか。アリカはインターホンを押してから、小さなカメラを見つめて思う。
「どうぞ」
 声に続いて、扉のロックが解除される音がした。扉を開けると、本当にすぐ、真っ白なダイニングの真ん中に座る彼女の姿が目に入った。
 そういう舞台装置だと言われた方が納得ができるほど、簡素で、違和感のある空間だった。
 ルーシーは人形のような透明な青の瞳をしている。じっと見据えられ、アリカは足を踏み入れるのをためらった。
「名乗って」
 小さな薄桃色の唇から放たれる声は、幼さを残しつつも、凛としていた。
 アリカは、気後れしたのを誤魔化すように明るく名乗った。ヒールを鳴らし、彼女の前に座る。ルーシーはアリカが目の前に着くと同時に、興味が失せたように目を逸らした。
「今日はどうしたの」
 アリカは言葉を探した。目的にしていた、彼女を訪ねる来客はどうやら自分だけのようだった。
「噂では、ひっきりなしに人が来るって聞いたけれど」
「そんな来させるわけないわ。そんなの、うるさくてたまらないもの」
 プラチナの髪が頰にかかる。間近で見つめると、柔らかそうな肌に産毛が見え、ようやく人間味を見つけたが、それがむしろ、神秘さを増す。
 近くで見た彼女は、病弱そうな少女に見えた。豊かなブロンドとレースをあしらった真っ白なワンピース。親兄弟に大事にされ、小さな世界で一生を幸せに終える。そんな見た目をしている。
「ミニマリストって言う割には、可愛い趣味じゃない」
 アリカは頬杖をつき挑発的に笑んだ。
「このスタイルがいちばん、私の見た目にあっているだけ」
「見た目に気を使うのね」
「あなたこそそう思えるわ」
 じっと青い目が、アリカの顔を見つめた。アリカは目を見開き、テーブルから肘を離した。
「わからないんじゃないの?」
「覚えないだけよ」
 アリカは怪訝な顔をして、少し身を乗り出した。ルーシーはむっつりと押し黙っていたが、淡々と、無機質に話した。彼女の話を要約すると、「出会った人間の記憶は全てデータになる」ということだった。顔ではなく、名前と、それに付随するエピソードで、その人間が何者かを判断する。だから彼女は、最初に名乗らせるのだ。
「容姿なんて拘る必要なんてないもの。ただの生態の区別。DNAの結果。染色体の違い。優勢だとか劣勢だとか、そんなの繁殖のための動物的な判断に興味は無いわ。それだけよ」
 そう言い放ち、青い瞳は瞬く。
 アリカは眉をひそめた。少なからず自分の容姿を売りにしている彼女にとって、無頓着でありながら美しさを持つルーシーは、鼻持ちならない存在だった。
「見た目だって大切よ。その人となりがすぐわかるもの。第一、人なんて殆どはは見た目で判断するものじゃない」
「普通の人は、ね」
 ルーシーは立ち上がり、お茶でも淹れるわ、と部屋の端に向かった。視界に入っていなかった部屋の壁付近には階段があり、その上に別の生活空間があるようだった。ルーシーが見えなくなり、腹にむらだった気持ちを鎮めるように、アリカは深呼吸をして眉間に親指を当てた。どれだけ憤っても、彼女は自分の顔を忘れる。そう思うと余計に気持ちは苛立った。
 彼女はマグカップを二つ持ち戻ってきた。コーヒーのにおいに、アリカは少しだけ落ち着きを取り戻した。差し出されたもまた、真っ白で飾り気のないものだった。どこもかしこも白で、なんだかもの寂しいような、幻を見ているような気になる。
「あなた、光の三原色が好きなの?」
 そう呟くと、ルーシーの動きが止まった。アリカが顔を上げると、彼女のきょとんとした表情が目に入る。見開かれ、青い瞳の丸い形がくっきりと見える。
 ふっとルーシーは、声を抑えて笑った。花が綻ぶようなその愛らしさこそ、アリカが初めて、彼女を人間らしいと思えたものだった。
「そんな風に訊いた人、初めてよ」
 くすくすと笑みを含ませながら、彼女はマグカップを差し出した。
「あなたのデータをもっとちょうだい」
 乾杯、とアリカが持つ、マグカップにふちをかちあわせた。

 ルーシーは、話してみれば普通の人間と大差のないように思えた。というのも殆ど彼女は話さず、耳を傾けているだけだからだった。彼女の元に用事もないのに、話に来る人間の気持ちもわかる。アリカは帰路を歩きながら思い返した。
「名乗ってくれれば、誰とでも話すわ」
 覚えられない、ということが、むしろ気軽に思えるのだろう。その上で話を聞いてくれる。一種、懺悔室にも近いのだろうか。愚痴を言いたくなるのも、いいアイディアが生まれるのも、レスポンスがあるからではなく、とにかくあの空間で、彼女の前で話していることが楽しいからだ。
 ルーシーは本当に、世間に言われるような天才なのだろうか。
 他の人間が相談する姿を見てはいないが、周りが勝手に、天才と囃し立てているだけなのではないか?
 そう思ってしまうが、そう思わせること自体、彼女の策略なのではないか。そんな風にも思ってしまう。
 アリカは小さなバッグを振り回し、ハイヒールを鳴らす。
 彼女はデータを集めるのが好きなのだ。だから、人好きされる聞き方が出来る。歓談の最中は最初の反感が失われるほど、楽しく言葉を紡ぐことができた。
 アリカはもっと、彼女と話してみたいと思った。けれど同時に、それが悔しい気もしていた。反芻すればするほど、やはり容姿を軽視する彼女のつめたい、興味のない表情が、アリカの気持ちをむらだたせる。
 あの子は誰からも愛されているから。あんな風に、言えるんだわ。
 ショーウィンドウの前に立ち止まり、アリカは半透明な自分の姿と向かい合った。スレンダーな身体つき。猫っ毛の黒いベリーショート。アーモンド型の瞳。ガラスに手をつける。長い指が、目の端にうつる。
 愛されるべきなのに。
 認めて欲しい。押し寄せる感情に、アリカはぐっと、眉根を寄せた。必死に気持ちを逸らしてきたが、誤魔化せないところまで来た。ガラスを手のひらで叩き、長くため息をついてふらふらとまた歩き出した。
 ルーシーとまた、話せるのだろうか。顔も覚えていないのに。また名乗って、上書きされる。ただの来客データとして。
 アリカはふいに立ち止まる。雑踏の中に紛れる自分という存在が、急にうすくなるように感じた。
 物語を得るのに、容姿もデータの一つでしかないのよ、と、彼女は言っていた。
 ——たった一つの要素。例えばニキビを気にしている人がいるでしょう。それは、「ニキビを気にしている」ということが重要であって、実際ニキビがあることは大した問題ではないの。
 ルーシーは眠る前の挨拶のように、淡々とそういうのだった。
 彼女は映画も舞台も、ドラマも観るのだ。もらったチケットは必ず使う。全ては自分の中のデータとするためだった。
 わかる気もするし、わからない、ともアリカは思った。
 物語。ストーリー。人間性。ルーシーが人間から得たいデータは、口ぶりからするに、そういうものなのだと思う。
 ならば、ただのデータとなるならば。
 私は、物語になろう。
 アリカは顔を上げた。ただの群衆に思えた人々の顔がはっきりと見える。一人一人、違った顔立ち。好みの服装。表情。体躯。その後ろに何があるのか。そう思うと、胸が高鳴った。
 そうして彼女が気づくはずのないいたずらを、仕掛けてやろうと思った。

「ルーシー、鍵を開けて」
 インターホンを押したあと、常連は皆、そう口にする。アリカもそれを傚った。
 深酒帰りのミランダ。ダンサーをしている彼女は浅い眠りのうちに見た夢を、ルーシーにつらつらと語るために訪れる。
 男装の麗人であるパトリス。資産家の娘である自分の窮屈さに嫌気がさして、父親の目の届かないこの街で自由に豪遊している。
 彼氏の浮気癖に神経が参り、アルコール中毒になったエナ。
 スーパーマーケットの店員のサリー。人見知りで、赤面症を治したくて、ルーシーと話すことをルーティンとしている。
 大学の優等生、マリア。彼女は学業の愚痴をこぼし、親や友人の他愛ない話をする、平凡な人生の少女。
 インストラクターのモール、花屋のシエル、アイスクリーム屋のルビー、ホームレスのコレット。
 アリカが語ったそれらの人物を、ルーシーは十人十色、様々な反応で話を聞いた。
 彼女は本当に聞き上手だ、と思うと同時に、知識とはなんて、反応を豊かにさせるのだろうと思い知った。
 アリカは「物語」を作るために、人を観察し、想像するようにした。この人の人生に今まで何があったのか。どうして、そんな癖がついたのか。なぜ今、その立場にいるのか。そんなことを考える上で、ルーシーの前で語るには、さらに知識が必要になった。
 過去、舞台で演じた役だったり、街で見かけた人物だったりと、アリカはとにかく、物語を騙った。それがまるで本当であるかのように、慎重に、演技をしてみせた。
 アリカは、服装と髪以外は、ほとんど替えることなくルーシーの前に現れた。彼女は名乗る名前が違えば、本当に初めまして、と言った。
 ルーシーが本当に顔がわからないのだと、何度も試しているうちに実感した。もしわかっているのなら、どこかのタイミングで、笑ってしまっても良さそうな状況なのだ。
 アリカはたった一人の、物語を求める観客のためだけに、自らを騙る女優になった。ルーシーの反応も見事なもので、欲しいタイミングで質問をくれるのだ。もはや一人舞台ではなく、二人で舞台を作り上げているような気分になった。
 アリカとしても、ルーシーの元には何度か通った。アリカと名乗れば、彼女は親しげに笑うようになった。
「なんだか賑やかになったわね」
「人気者は困るわ」
 ルーシーは肩をすくめて、そういう冗談までを言ってくれる。アリカと円滑なコミュニケーションを取るためには、こう言ったことが必要なのだ、と彼女がデータから引っ張ったのだろう。
 彼女の何もなかった部屋は、少しずつ華やかになっていた。鮮やかな花、飾るための美しいガラスの花瓶。ルーシーのプラチナの髪に映えるエメラルドが散りばめられた髪留め。流行りの本。手作りのクッキー。
 少しずつ、アリカが「誰か」として送った、差し入れだった。
 容姿は関係ない。データしか必要としない、彼女の中に、少しでも多く、データとしてでもいいから、残りたかった。そんなエゴがどこから来るのか、アリカ自身もわからない。
 けれど、多分、自分は、ルーシーと友達になりたいのだ。
 そこが、彼女の落とし所だった。ルーシーはほとんど自分のことを話さない。ならば、色んな人間から、自分も彼女を引き出さなければわからない。アリカは知識を求めるごとに、人の話を聞くことが好きになった。耳を傾けるということは、容易ではない。自分の意見を押し殺すことだと思っていたが、そうではない。自分の容量が、受け取る知識がなければ、話など聞けないのだ。
 最近は演出家と意見がぶつかることも、苦にならなくなった。脚本について話すことも、不満ではなく、純粋な疑問。そう言ったことを、役者仲間と語りあうことが出来る。どんな役でも、舞台に上がることを楽しめた。
「ねえルーシー、私、今度主演を務めるの」
 アリカはコーヒーの表面を見つめ、そう呟いた。
「それはおめでとう」
 ルーシーは素直に笑んだ。青い瞳が睫毛に隠れる。
 アリカはぎこちなく笑みを返した。砂糖をくれる、と尋ねると、ルーシーは二つくれた。
「来てくれる? ストーリーらしいストーリーは、無いんだけれど」
 ルーシーの元に通うようになってから、アリカの役者としての才覚は頭角を現し、場数を踏むようになった。演出家伝いで、彼女のことをスカウトしに来た演出家は、何よりアリカのルックスを見こんでいた。彼女のスタイルが映える、衣装替えの沢山あるミュージカルのようだった。
「もちろん。構わないわ」
 ルーシーはそう微笑んだ。
 アリカは複雑に、弱々しい笑みを浮かべた。そうしてすぐ、溌剌とした明るい笑顔で、「そうこなくっちゃ」とカップをかちあわせた。
 ルーシー。私は、勝ち取ったのよ。
 容姿で、私が、望んだことを。
 それなのにアリカの心は、どこか、虚しい気がした。

 アリカの主演舞台は好評だった。どうして今までこの才能を見逃していたのか、と、そんな風に紙面には書き立てられた。豊かな表現力。スレンダーかつ、力強い肢体。ボーイッシュなベリーショートのスタイルが、男女問わず魅了する。眩く、エネルギッシュな中に見えるほのかな憂いの表情が神秘的。文字を追うと、少しばかり照れを帯びてしまうほど、世間からは上々だった。
 最終公演を迎えた後、誰もいない舞台の上で、アリカは佇んだ。真っ白なスポットライトが彼女に降り注ぐ。
 光の三原色。
 そう思い、ふっと彼女は微笑んだ。
「ルーシーに、舞台の感想を聞かなくちゃ」
 でも私の姿はわからないのよね。
「どう見たのかしら、彼女は」
 舞台から彼女のこと見つけて、笑ったこと、もう、忘れたかしら。
「面白いと思ってくれてるといいけど」
 また、名乗らなければいけないのね。
 目を瞑ると閃光が、まぶたの裏に走った。浮遊する光の線を追って、アリカは締まる胸に深く息を通した。

「ルーシー、鍵を開けて」
 相変わらず、彼女の家は生クリームでコーティングされたような滑らかな白だ。
 アリカは結局、アリカで会うことを諦めた。適当な人物を見繕って、舞台の感想を聞こうと思った。
 ロックが解かれる。
 誰がいいか、と迷っているうちに、扉を開けてしまった。
 部屋には、いつも通り、ルーシーが鎮座している。扉から昼間の光が、少し薄暗い部屋に入りこむ。青い瞳が、アリカを捉える。
「ルーシー」
 アリカは、名乗らずに語りかけた。
「舞台、楽しめた?」
「もちろん」
 ルーシーはじっと、アリカを見つめている。その瞳に見える自分は、どんな感じなのだろう。データになる前の自分。瞬間の容姿。その場限りの姿。
「もちろんよ、アリカ」
 呆然として、ようやく目をあげた。
「……わたし、名乗った?」
 いや、舞台の、話をしたから、そう推測したのか——アリカは動揺した、震える声を抑えて、高鳴る心臓を鎮めた。
「名乗っていないけど、あなた、アリカでしょう。それで、今日は誰?」
 はっとルーシーの顔を見る。驚いた顔をするアリカとは真逆に、ルーシーは、初めて見せた笑みと同じように、くすくすと笑っていた。
「気づいてたの、やっぱり、顔、わかるの」
「違うわよ」
 狼狽するアリカに、ルーシーは歩み寄った。朗らかな笑み。凛とした声が甘くなる。
「あなた、癖が全部同じなの。歩くリズムが、テンポ75。しかも、三拍子なの」
 いつから、そのデータを取得していたのだろう。アリカは頰を赤らめ、揺れる瞳でルーシーを見た。宝石に魂が宿るような彼女の瞳は細められ、それに、と言葉を続けた。
「こんなに会いに来られちゃ、嫌でも顔が記録されちゃうわ」
 アリカの頰を挟み、まじまじと彼女の顔を見つめる。
「ルーシー、私、どんな顔してる?」
 目の周りが熱くなる。潤んでいく瞳で、彼女の姿を滲ませないように、アリカは堪えた。
 ルーシーはきょとんとして、少し真剣な目をした。
「比べる容姿がないもの……でも、私、あなたの顔、好きよ」
 そう言って、微笑を浮かべた。
 アリカは胸が熱くなり、思わず、溢れる笑みを誤魔化すように、ルーシーの小さな体を抱きしめた。

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