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heisoku『春あかね高校定時制夜間部』レビュー

 『春あかね高校定時制夜間部』は、『ご飯は私を裏切らない』の作者heisokuが描く、一風変わった高校生活系漫画だ。定時制高校を舞台に、前作でもみられた内省的でユニークな思考描写はそのままで、かわいいキャラクター達が生き生きしている。
 たとえば谷原ゆめ。不登校の経歴があり、臆病で、見た目は背が低くぽっちゃりめ。発表会など目立つ機会には仮病を使ってドタキャンする癖があるが、「ネットで海外のスカルTシャツを買い集めているこだわり派の一面」があり、さまざまなドクロTシャツファッションを見せてくれる。この独特のキャラ造形よ。
 他にも、かわいい服を好み服飾デザイナーを目指す「はなお」、お笑いが好きでゆめを相方にしようと狙う「さつき」、年下が苦手な元ホストの「ちたる」、人前ではけして話さないが一対一では積極的な「つむぎ」、そして後述の「よしえ」、かれら6人を中心とした学校生活の短編エピソードが綴られている。
 (上部リンクの公式HPから1〜3話読めます)

 青春について、サムエル・ウルマンはこううたっている。
 「青春とは怯懦(きょうだ)を退ける勇気、安易を振り捨てる冒険心を意味する。ときには、二〇歳の青年よりも六〇歳の人に青春がある。」
 勇猛な調子はこの作品には似合わないかもしれないが、私が今作を読んだ時に意外だったのは、重い事情を抱えたキャラ達が、自分の殻に閉じるのではなく、案外まっすぐに高校生活の思い出をつくっていることだった。
 夜間部に通う人々は背景も年齢もバラバラで、ゆめのように不登校を経験してきたり、複雑な環境で育っていたりする。そんな彼らの過去も時折垣間見えるが、個々の話では友達同士の何気ないやりとりや、初夏のホタルを見に遠出したり、文化祭のステージで漫才をやったり、学生時代だからこそできることを経験している姿のほうに主眼がある。
 彼らの何気ない一日一日が、貴重な青春に感じられ、微笑ましい。

 どのエピソードも素晴らしいが、「鉄黒よしえ」による登校前の自問自答も良かった。
 40歳の彼女は、人生のほとんどを精神病院で過ごしてきている。
 卒業後の未来に思いを馳せるも、病気の身体でがんばっても一生貧乏であることが想像できてしまい「誰かのスタート地点が私のゴールなのかも」と考える。人生に目的はなくて、「希望を必要とせず生きていけるようにならなければ」と思うし、年下のはなおに対して何かしてあげたいと思うが自分の「無力」を感じざるをえない。
 それでもきちんと服薬して登校できるルーティンを作れているところによしえの頑張りを感じる。前作を読んでいても感じたのだが、人生の意味のなさに耐えようとするという種類の強さを、heisoku作品のキャラクターは持っていると思う。

 全編通してほっこりできるシーンが多く、どのキャラも可愛らしさがあり、こういう方向性で書ける作家さんなのか! とおどろいた。
 『ご飯は私を裏切らない』が好きだった人も、知らない人も、みんなに是非読んでほしい漫画だった。

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