ゆめ

このところ、家にいる時間が日常の大半を占めている。一人しか住めない小さな部屋は、幸か不幸か徒歩圏内に布団がある。家にいる時間と布団にこもる時間は、比例関係にあるらしい。文字通り、惰眠をむさぼって日々を過ごしている。

夢を見るようになった。夢なのに、空が飛べるわけでもなく、世界のために戦うわけでもない。日常の延長線を、つらつら勝手に書いているようなものばかりだ。登場人物も、見慣れた人々ばかりで面白みもとくにない。

実家の畳に寝転んでいたら、母親に「夕飯だよお」と間延びした声で呼ばれた。とりあえず返事をするが、なかなか畳から離れられない。張り替えた畳って、どうしてこんなにいい匂いなんだろう。目一杯深呼吸していると、襖がぴしゃんと開けられる。小さめな人影が、私の体を覆う。「みんな待ってるから早くしてよもう。」制服のままの妹が、少々イライラしながら仁王立ちしている。妹を怒るより怒られた数のほうが多いんじゃないかしら、なんて思いながら体を起こし、食卓へ向かう。テーブルにせわしなく大皿を並べる父に「遅えよ!」と怒られる。全く、短気は損気だよお父様。「お腹すいた~。」とモソモソご飯をよそう弟を横目に、お箸を並べる。全員そろっていただきまーす!となったら、はっと目が覚めた。夢かよぉなんてぼやきとともに、お腹がぐうと鳴った。

夏の図書室は、避暑地だ。白地のセーラーに青いラインの涼しげな制服は、通気性が最悪で猛暑に抵抗する術がない。クーラーを極力使うなと怒られたわが部活は、仕方なく部室の窓を全開にし創作活動に勤しんでいた。まぁ、窓を全開にしようが入ってくるのはむわっとした海風ばかり。適温に調整された涼やかな風など、これっぽちもありゃしない。平成生まれのティーンたちは「これだから頭の固い昭和生まれは!」「自然の風で涼むなどといった時代は終わったのだ!馬鹿野郎!」なんて文句をたれながら図書室へ向かう。「ようやく不愉快な暑さから解放される…」と、胸いっぱいにドアを開けた。…はずなのに、iPhoneのアラームが鳴り響く。またもや夢オチ。春先の肌寒い現実に、思わずくしゅんとくしゃみした。

夜行バスに乗る前、いつもほんのちょっぴり不安になる。でも、今日はまた違うドキドキなのかもしれない。大好きなアーティストのために、バスに揺られ名古屋に向かう。隣の席には出身地も学校も違うけれど、仲良しで大好きなお友達が寝ている。名古屋につくと、久しぶりに会う大好きなお友達とあいさつを交わす。対面ははじめましての子も、この日お友達になれた子もいた。年齢も違えば、生い立ちも違う。SNSの発達により出会えたお友達。私たちをつなぐのは、同じものが好きという気持ちだけ。不思議なのに当たり前のように一緒にいるお友達と、同じ空間で同じ好きなものを見た。夢のような時間は一瞬で終わり、抜け殻のようになった私たち。言葉も交わさず涙を流す時間が暫く続いた。かと思えば、燃え滾る情熱をそのまま言葉に乗せ多くを語り合った。花火大会も開催した。みんなでお酒やおつまみを買い込んで、他愛ない話をしながら河川敷に向かう。夏の恒例行事だ。バカみたいな量の手持ち花火を一瞬で終わらせて、腹がよじれるほど大笑いした。特別なことなんて何もないのに、全部市販品でできるのに、過ぎる時間がヒリヒリするほど愛おしい。なんでだろうなぁと思いながら、追加購入したチューハイを開ける。プシュッといい音が鳴り、目を開ければ自分の部屋だった。今日はビンと缶の回収日だ!と飛び起き日常に入り込む。

私は、雪が降る地域で生き抜くことができないと常々思う。ツーンと寒い日、マフラーをぐるぐる巻きにし研究室に向かう。この日は1番乗りだったようなので、ヒーターのスイッチをカチカチ回す。友人が「寒くない!?今日ヤバいねー」と慌ただしくカードリーダーに学生証を当てている。講義開始の鐘が鳴った約10分後、寒いとむっすりしながら先生が入ってくる。寒いのはみんな一緒ですよーなんて雑談からゼミが始まった。相変わらず先生は、小難しいことをベラベラと話している。一回パカりと頭を開けて、脳内を見てみたいものだ。きっと壮大な宇宙が広がっているに違いない。三角関数か、高校の時やったなぁ。うーーん、サインコサインタンジェントって単語は覚えているな、咲いたコスモスコスモス咲いた、も。この呪文なんだ?ヒーターがきいてきて、段々と眠気が襲ってくる。昔のヒーターって空気薄くなるから余計眠くなるんだよなあ。エアコンに買い替えればいいのに。あ、友達も寝そう…。高らかに音楽が鳴った。ギンと目が覚める。これも夢?夢の中でも眠いって?朝から自分に失望し、うなだれる。

こんな夢を最近よく見る。全然ファンタジックではない。しかし、夢を見るといつも同じ気持ちになる。どうにも心にぽっかり穴が開いたような気持ちになる。それなのに、心臓はぎゅうぎゅうと痛む。喉の奥がキューっとなって、鼻の奥はツンと痛む。朝のひんやりした空気を吸うと、余計に痛んで、視界がぼんやりする。私はこの気持ちが、得意ではない。言葉で表すなら、多分「寂しい」になるのだろうか。わからない。

お家の中の生活を、それなりに楽しんでいるつもりだった。紅茶のみ比べ選手権をしたり、ルームフレグランスを変えてみたり。友達や家族とはSNSで、リアルタイムで連絡を取り合っている。声も、姿もいつでも見ることができる。寂しさは驚くほど感じなく、通常通り生活を営んでいるつもりだった。それなのに、それなのに私は夢で皆に逢いに行っている。空間も時間も超えて。たまたま流していた曲から、こんな歌詞がきこえてきた。

泣ける映画が見たい時 本当は笑いたいことに気付く
お笑い番組が見たい時 本当は泣きたいことに気付く
                        名前の無い色/藍坊主

私は、気付かなかった。あぁ、そうか、私は皆に会いたいんだなぁ。どうでもいい話で、笑いあいたかったんだ。意味もなく、ハグしたかったんだ。

日々、最前線で戦っている方々が沢山いらっしゃる。頭を下げるなんてことでは足りないほど、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます。知識も力も何もない私は、家にいることでしか協力できない。皆に会いたい気持ちは山ほどあれど、絶対に会いに行かない。

その代わり、夢の中で会いに行こうと思う。真夜中、列車に乗って頭の中にお邪魔するからね。ちゃんとノックして、お菓子も持ってまいります。礼儀正しいほうなので。頭の中、お片付けしといてね。でもやっぱり、ごちゃごちゃも楽しいからなんでもいいや。私の頭の中もお片付けするから、コンビニ寄ってきていいよ。

とりとめのない話でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?