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M-1グランプリ2022 大会感想

1.優勝はウエストランド

 栄えある18代目王者はウエストランドに決まりました。ファーストラウンドから過去に類のない大接戦。最終決戦も誰が勝つか本当にわからない大接戦と思われたものの、蓋を開ければ得票は圧勝。ネタに加えて熱量と人間力が会場を巻き込んだのだと思います。個人的にもタイタンからの優勝は最高に嬉しかった。本当におめでとうございます。

2.時代の妙 本質を取り戻せ

昨今、人を傷つけない笑い。というフレーズをよく耳にします。そんな縛りには辟易だと言わんばかり、世界の鬱憤を晴らすかのように時代を切り裂いた情熱の漫才は本当に痛快でした。審査員達の込み上げるような嬉しさにも似た笑顔が目に焼き付いています。本来の笑いの形を蘇らせたか事への喜びが溢れたような情景でした。

トヨタ自動車の豊田社長の有名なフレーズが頭をよぎりました。

Q.豊田社長が乗ってみたい新しい車とは?
「ガソリン臭くてね、燃費が悪くてね、音がいっぱい出てね、そんな野性味溢れた車が好きですね。 立場上「燃費も大切ですね」「騒音はダメですよね」って言ってますけど。 心の底ではね、車ってのはそういうもんなんですよ。」

今回のウエストランドの漫才は個人を攻撃している訳では無い。不特定多数のコンテンツに対して世論を代表するかのように切り込んでいきます。決して特定の誰かを傷つけるようなことはありませんでした。また井口のような卑屈のオーラを纏った人間が叫ぶから、戯言のように聞こえる可愛らしさもあるかもしれません。今後栄冠を手にした2人の漫才が、どのように傷つけずに傷つける漫才を披露するのか、これから楽しみです。

3.順番の妙 8分の漫才

ウエストランドはファーストラウンドでトリの10組目の出番となりました。様々な漫才が出尽くした後で、普通であれば会場もお腹いっぱい、なかなか点数が伸びるような状況とは言いづらいです。

ところがどっこい、上述のとおり、なるべく傷つかない、怒られない、コンプライアンスに抵触しないように面白い事をしよう。というご時世です。前の組の面々も例に違わずそういった漫才を披露してきました。

最後に待ち構えていたのは、時代に抗うウエストランド。ダイエットの為に酵素水だけ飲んでいたのに、無理やりコーラを流し込まれたような。目を逸らしてきた甘美な誘惑に触れてしまったらもう最後、あとはただただ快楽に蝕まれるしかありません。

そして3位通過で滑り込んだウエストランドに与えられた順番は最終決戦1組目。先程の興奮もつかの間、2本連続でのネタ披露となります。

構成自体は1本目と全く同じ。そこだけにフォーカスしたらなんの面白みも捻りもないと断言できます。しかし観客はたった今飲んだコーラの味がまだ舌に残っているのです。飲み足りないタイミングですかさずおかわりが来たら、飲み干さずにはいられません。

もし1位通過して3組目がネタ順だった場合、ロコディの奇想天外な世界観や、さや香の真っ直ぐに強い漫才に戻られたら、舌から消えたコーラの味は求められなかったかもしれません。

加えてネタの内容です。1本目は世間一般に伝わりやすいであろう題材に毒を撒き散らして行きましたが、2本目は役者、芸人、果てはM-1グランプリそのものに絞って猛毒を浴びせまくります。会場の審査員とお笑い好きには、ことごとくクリティカルに刺さっていったことでしょう。

まるでウエストランドだけがボルテージの上がり続ける8分の漫才で戦ったかのような、そんな印象を受けました。

偶然のネタ順が、ウエストランドにとって全て好転したかの様に感じました。

4.終わりに 笑いってなんだろう

私は傷つけない/傷つける笑いという枠組みが嫌いです。

人は人を傷つけずに生きることが出来るのでしょうか。

悲しいこと、辛いこと、苦しいこと。生きていれば避けて通れないネガティブなことがたくさんあります。

時には自分が我慢したり、辛い思いをすることが誰かの幸せに繋がるでしょう。

時には誰かを助けるために誰かを傷つけてしまうこともあるでしょう。

全人類が正論を吐いて、幸せを願ったとしても、割を食う人はどうやっても存在するのです。

傷つき傷つけられても、それ以上に人を助け合っていくのが社会だと思います。

次に、なぜお笑い芸人は存在するのでしょう。

笑わせて欲しいという人で世が溢れているからではないでしょうか。
中には社会に揉まれ、つまづいて、ストレスを感じ、笑いを求める人もいるでしょう。

粗を探せば、誰1人も絶対に傷つかない笑いなんて存在し得ないと思います。むしろ寄って集って匿名でウエストランドを批判するような人達こそ、個人を攻撃するタチの悪いイジメに見えます。

鬱屈した我慢だらけの世の中を痛快に蹴っ飛ばす。ウエストランドの漫才からはそういった活力がビシビシと伝わります。

ウエランつまらなかった。毒舌漫才嫌い。さや香の方が面白かった。
それぞれの感想は当然あります。
しかし毒舌漫才に罪はありません。

でも今年一番面白かった漫才師はウエストランドで決まりです。
本当に最高の漫才でした。来年のM-1が今から楽しみです。

出場した全ての芸人の今後の活躍を楽しみにしています。

(私の中での優勝はシンクロニシティです)

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