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ご当地マグネット研究の学術論文

(タイトル写真はリバプール大学)

)以前、5,550個のご当地マグネットを家の壁に展示しているすごいコレクターさんのことを書いた、イギリス全国紙「The Gardian」の記事を紹介しました。

実はさらに、ご当地マグネット集めのすばらしさについて研究した学術論文があります。これまたイギリスのリバプール大学と、ボーンマス大学マンチェスター・メトロポリタン大学コペンハーゲン・ビジネス・スクールとの共同で実施された観光学分野の研究成果です。もちろん原文は英語ですが、記述されている研究内容や考察を、日本語でかいつまんでご紹介したいと思います。

こちらが、Annals of Tourism Research誌(=観光研究の理論構築を目指す学術誌)に掲載された本論文
"Fridge magnets have important pull for holiday memories"
「ご当地マグネットは休日の思い出に重要な影響を与える」

を紹介しているリバプール大学のサイト(英語)です。https://news.liverpool.ac.uk/2024/03/25/fridge-magnets-have-important-pull-for-holiday-memories-according-to-new-research/

さらにこちらが、論文(英語)の全文です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016073832400001X

以下、論文概要をアットランダムに引用&要約します。
※なお英語圏ではFridge magnet = ”冷蔵庫のマグネット”と呼ぶのが一般的ですが、ここでは”ご当地マグネット”に統一します。



・リバプール大学の研究によると、ご当地マグネットは単なる観光土産ではなく、観光客の記憶を思い出すための重要な補助手段となっていることがわかった。

やはり。

・ご当地マグネットは、機能的ながら頻繁に使用する場所に設置することで、家庭生活の中心になる。ご当地マグネットの独特な素材感、美しさ、サイズ、視認性は、キッチンに置いたり飾ったりする他のお土産(マグカップ、ティータオル、栓抜きなど)とは一線を画している。

平たく言うと「飾りやすい!」。

・リバプール大学経営学部の研究によると、これらの休暇用の小物は、さまざまな思い出を呼び起こすという点でユニークであり、磁石は休暇が終わってからも長い間旅行者の気分を高めることがわかった。

平たく言うと「飾れるから思い出しやすい!」。

・リバプール大学経営学部のジョン・バイロム副学部長は次のように語った。「ご当地マグネットはありふれた安物とは程遠く、他の多くの観光土産よりも強力に過去の休暇の体験を生き生きと再現できることが、私たちの研究で明らかになりました。」

ですよね。

・調査参加者の1人はこう語っている。「どこかへ行けば、1日に50~100枚の写真を撮ることはできます。しかしスマホで古い写真をめくる人が何人いるでしょうか? ご当地マグネットを買って、それですべてを思い出せるようにしています。」

あなたもですか。

・調査参加者のほとんどについて、ご当地マグネットのコレクションは徐々に収集され、家庭内に自伝的な資料の集合体を形成し、多くの場合何年もかけて一連の休日の思い出をまとめて記録していた。
「シャードに登ったり、ボーリュー自動車博物館で過ごしたり、下院を訪問したりと、ここではたくさんの日を過ごしましたが、忘れてしまいそうです。だから、ご当地マグネットは記憶の補助として素晴らしいのです。」

そうです。素晴らしいのです。


あとさきになりましたが、本論文の冒頭アブストラクトの日本語訳はこちらです。

観光学研究では、お土産は大きな関心を集めているが、休暇後の「その後」についてはあまり注目されていない。記憶研究と表象以上の理論の視点を活用し、本稿では、どこにでもあるお土産であるご当地マグネットとの関わりに焦点を当てる。半構造化インタビューを基に、マグネットが家庭内の日常生活に深く根付いていることから、休暇後の記憶作業を刺激する積極的な要因となっていることを説明する。マグネットがどのように記憶を生成し保護し、多様な(通常は肯定的な)感情的および情緒的反応を引き起こすかを示す。マグネットは相反する記憶と関連付けられることもあり、その役割は忘れることにある場合もある。一見ありふれた物体であるが、冷蔵庫のマグネットには休暇が終わってからも長い間日常生活に影響を与える複雑な能力がある。



まあご当地マグネットコレクターへのインタビューをまとめることが主体の研究手法ですので、初めから終わりまで”ご当地マグネットのすばらしさを肯定するニュアンス“なのは当たり前なのですが、ともあれ、観光学というれっきとした学術分野の中の、お土産研究領域の一研究題材として、アカデミックな観点で、ご当地マグネットを集めて飾ることの意味について論じてみたというわけですね。

だれも不幸にならない、みんなを幸せにする、とてもすばらしい研究だと思います!


今一度、自分が「戦略的記憶保護(strategic memory protection)」のために収集した「自伝的な資料の集合体(autobiographical material assemblages)」をご紹介します。

「戦略的記憶保護」のために収集した
「自伝的な資料の集合体」


以前、海外のすごいマグネットコレクターを採り上げた新聞サイトを紹介した自分の記事はこちらです。