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「生きるということ」①

 晴耕雨読、ということばがありますが、図らずも妻の死を境にして一年ほどの間、人里離れた山の麓でこれまでの半生を省みつつ、これからの生き方を問い直す日々を送ることになりました。

その後、新たなフィールドで活動を再開したものの、世界的な禍根を眼前にしながら、あらためて、私たちが “如何に生くべきか” を問い直す時が来ていることを実感する毎日です。

そこで、還暦を経て、今考えていることをこちらに認めていきたいと思い立ちました。

先ずは、この数年間で出逢った名著の数々をご紹介していきながら、今後の生きる指標にしたいと考えています。

トップバッターは、エーリッヒ・フロムの名著「生きるということ

1976年!に書かれたこの本の序章-「1 幻想の終焉」には、現代に生きる私たち人類の課題が、みごとなまでに浮き彫りにされています。

少し長くなりますが、以下にご紹介します。

枕から少し難しい文章が続きますが、だからこそ、備忘録として大切なことばをこちらにプールしておきたいと考えているわけです^^

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 <限りなき進歩の大いなる約束>―自然の支配、物質的豊富、最大多数の最大幸福、妨げるもののない個人の自由の約束—は、産業時代が始まって以来の各世代の希望と信念をささえてきた。確かに私たちの文明は、人類が自然を能動的に支配し始めた時に始まった。しかしその支配は産業時代の到来までは限られたものであった。産業が進歩して動物と人間のエネルギーの代わりにまず機械エネルギーが、次いで核エネルギーが用いられ、さらには人間の頭脳の代わりにコンピューターが用いられるに及んで、私たちはこう感じることができるようになった。私たちは限りない生産、ひいては限りない消費の方向に向かっているということ、技術が私たちを全能にしたということ、科学が私たちを全知にしたということ。私たちは神になりつつあったのだ。自然界を私たちの新しい創造の単なる建築材料として用いることによって、第二の世界を造り出すことのできる至高の存在に。
 男、そしてしだいに女も、新しい自由の感覚を経験した。彼らは自分の生活の主人となった。封建的な鎖は断ち切られ、人はすべての束縛からのがれてしたいことができるようになった。というよりは、人びとはそう感じたのであった。そしてたとえこのことが上流階級および中流階級にのみ言えることであったとしても、彼らが達成したことによって他の階級の人びとも、産業化が今の速度で続くかぎり、新しい自由はついに社会のすべての構成員に及ぶだろうという信念を持つことができた。社会主義と共産主義は、新しい社会と新しい人間を目標とする運動から急速に姿を変えて、すべての者のブルジョワ的生活を理想とし、未来の男女として普遍化したブルジョワを理想とする運動となった。だれもが富と安楽を達成すれば、その結果としてだれもが無制限に幸福となると考えられた。限りない生産、絶対的自由、無制限な幸福の三拍子が<進歩>という新しい宗教の核を形成し、新しい<進歩の地上の都>が<神の都=天国のこと>に取って代わることになった。この新しい宗教がその信者に精力と活力と希望とを与えたことは、何ら驚くに当たらない。
 <大いなる約束>の壮大さと産業時代の驚くべき物質的知的達成とを思い描くことによって初めて、その挫折の実感が今日生じつつある衝撃を理解することができる。というのは産業時代は確かにその<大いなる約束>を果たさなかったし、ますます多くの人びとが次の事実に気付きつつあるからである。
 (1)すべての欲求の無制限な満足は福利をもたらすものではなく、幸福に至る道でもなく、最大限の快楽への道ですらない。
 (2)自分の生活の独立した主人になるという夢は、私たちみんなが官僚制の機械の歯車となり、思考も、感情も、好みも、政治と産業、およびそれらが支配するマスコミによって操作されているという事実に私たちが目ざめ始めた時に、終わった。
 (3)経済の進歩は依然として豊かな国民に限られ、豊かな国民と貧しい国民との隔たりはますます広がった。
(4)技術の進歩そのものが生態学な危険と核戦争の危険を生み出し、そのいずれかあるいは両方がすべての文明、そしておそらくはすべての生命に終止符を打つかもしれない。
 ノーベル平和賞(1952)の受賞のためにオスロを訪れた時、アルバート・シュヴァイツァーは世界にこう呼びかけた。「あえて現状に直面せよ・・・・人間は超人となった・・・・しかし超人的な力を持ったこの超人は、超人間的な理性の水準にまで高まっていない。彼の力が大きくなるにつれて、ますます彼はあわれむべき人間となる・・・・超人となればなるほど、自分が非人間的になるという事実に、私たちは良心を奮い起さなければならない。」(15~17P参照)

 次章ではこれらの指摘を具体的にひも解いていきたいと思います。

次章に続く>>>

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