2020/5/15 経済の専門家は経済のお話をしてください。

【2020/5/15 経済の専門家は経済のお話をしてください】

47都道府県のうち39県で緊急事態宣言が解かれたタイミングで、政府の諮問委員会に経済学者など経済畑の四人が入ることが報道された。ニュースを最初に聞いた時には、いい話だと思ったのだけれど、その人たちがいきなりPCR検査の充実などという守備範囲外のことを言い出して、呆れた。
この人たちは何を勘違いしてるのでしょう。それを諫めない起用サイドも。

医師や医療の専門家に経済のことまで追わせるのは酷だから、経済は別建てで専門家を調達するというのなら、そこは最低限徹底しなきゃだめでしょ。

私は医師という看板を持っているけど、その看板が広すぎて、時として戸惑う。今に始まったことではなく、昔から。自分が詳しくない領域の病気に関していろいろと期待されたり、コメントを求められたり、いろいろ。

そういう状態を経て、でも、どの領域にも「知らない」とは言いたくない気持ちが昂じて、どちらかというと特定の分野ではなく、いろいろな分野にそれなりに知見を提供できる方向を目指した。
必然的に、活動の場所は医療機関から、医療に関するビジネス側
に移行していった。だいたい年齢にして40歳くらい、医者としてのキャリアが10年を超えたあたりということになる。
いわゆる「鳥瞰的」な視点に立つことが増えてくるのだけれど、そうすると、知らなくてはいけないことがたくさん出てきた。そこで、気の赴くままに、医療の中で詳しく知る分野を広げていくことになったわけです。
(学問としての)医療情報、医療政策、製薬、医療機器、薬事(薬・医療機器の承認にかかわる分野)…おおむねそれぞれの領域に2-3年をかけて、少しずつ「物申せる」程度には学んできたつもり。そうすると、15年くらいかかります。

そうなるといろんな人が広い分野のことをそれなりに安心して聞いてくれるようになる。しかし、もちろん、良いことばかりではなく、中途半端に浅く知っているだけだと思われてしまうこともある。また、自分自身でさえ、もっと詳しく理解したいのに、と歯痒く思うことも少なくない。

それでも、そういう道も長く続けていると、医療全体の風景というものが見えてくるので、そこは非常に楽しくはある。

特定の領域の臨床や研究に没頭するのが普通である10年や20年という歳月を同じように捧げているので、それなりのノウハウは身につくのだ。

さて、そういう立場で医療ビジネスに関わっていても、「奥先生はお医者さんなのでビジネスのことはわからないでしょうから」と言われることは何も珍しくはない。嫌な思いも散々しました。
四十過ぎの私が取った道は、ビジネスにも詳しくなることでした。その時点から五年ほどをかけて、上述したいろんな医療の分野を修めつつ、ビジネススクールと英国レスター大学の経営学修士のコースで、そちらの知識も一通り身に着けた。それらがある程度自分に納得いくレベルで整ったのは五十歳に近い年齢でした。

ずっとこういう出自をだらだらと書いたのは、今日の冒頭の話に戻るためだ。

これだけの時間をかけても、「医師という属性」をステレオタイプに見る人からは、結局はお医者さんなんでしょ(だからビジネスはわからないでしょ)、というみなされ方をしてしまうこともあるのです。それはもう仕方ないことだと思っています。ずっとビジネス畑だけにいる人よりは滞在時間は短いのですから、時間の長さで判断する人のことまで説得はできません。また、ビジネスの学問とビジネスの実務は違う、という批判も謹んでお聞きします。自分が進んだ道がよい道だっただとか決して思い上がってない。ある意味、経歴は単なる紆余曲折でもある。

さて、冒頭議論。国の大事に経済学者が医療のことに口を出すなら、その種の「通行手形」を見せてほしいと私は思う。本人がするのでも、担いでいる行政の人がするのでも構いませんけれど。

そうやって「私は経済も医療もわかるのです」という合理的説明をしてくれたあとであれば、いくらでもその人の「PCR論」をお聞きしますよ。

もしそれができないのならば、潔く、Stay Homeしてほしい。
経済という名のご自宅に。

2020/5/15 Die革命グループ主宰・医師・医学博士・経営学修士 奥 真也


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?