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組織にいながら、自由に働くには?

拙著『組織にいながら、自由に働く。』(2018年6月15日刊)の「はじめに」をアップします。

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 実際の本に掲載されたものではなく、削られる前の「ボリュームが多いバージョン」です。

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はじめに

◆組織のレールから外れた私が、なぜか注目されるようになってきた。 

ついこの間まで「組織でレールから外れた変人」に過ぎなかった私に、「その自由すぎる働き方は新しい。ハナシを聞かせて」という依頼が次々と舞い込み始めました。

  あるメディアでは、「自由すぎるサラリーマン」と紹介されました。

  上場企業(楽天株式会社)の正社員でありながら、

  ・兼業自由、勤怠自由、仕事内容自由(社内で唯一)
 ・自分の会社を経営(仲山考材株式会社)
 ・横浜F・マリノスとプロ契約(2017年当時)

という働き方が「自由すぎる」ということでした。

私が「兼業自由・勤怠自由・仕事内容自由の正社員」というナゾの立ち位置になってからすでに10年以上が経ちますが、何やら「働き方」についての流れが変わってきた(こちらに寄ってきた)のを体感します。 

複数の立場で仕事をすることは「副業・複業」とか「パラレルキャリア」と呼ばれて、昨今、話題にのぼることが増えてきました。ただ、大きめの組織に属しながら10年もやっているような実践例が多くないことから、「どうなってるの?」とお声がかかっているようです。 

それらの記事を読んでくれた方々から、「私も組織にいながら自由に働けるようになりたい」と言われるようになりました。ハナシを聞いてみると……

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仕事をしていて、とにかく不自由さ、閉塞感、人生がつまらなくなっていく不安を感じる。 

かと言って、巷で聞く「自由」という言葉には怪しさも感じていて、そのうち堕落しそうな危うさがある。自由を得たいなら独立や投資をしなさい、というハナシになるのもしっくり来ない。起業をして、自分でフロンティアを切り開いていきたいわけでもない。

でも自由がほしい。

組織に属するメリットを享受しながら、組織にしばられず自由になりたい。

誰にもマネできないようなスゴい人ではないけど、自由に働けるようになりたい。

グーグルのように「自由な社風」をウリにする先進的な会社ではなくても、自由に働けるようになりたい。

私にもなれますか? そういうことを言うのは、わがままですか?
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そんな声が聞こえてきました。

もし「私にもなれますか?」という問いに答えるなら、なれます。

スゴい人じゃなくてもなれますし、先進的な会社でなくてもなれます。 ちなみに、私のイメージする「スゴい人」は、仕事が思いどおりいかずにモヤモヤしたりはしません。志高く、夢に向かって折れない心で荒波をも打ち砕きながら突き進み、目標を達成していきます。 

それに比べて「スゴくない人」は、しょっちゅうモヤモヤします。 

モヤモヤって、たとえばこういうのです。

「向いていない仕事に配属された」
「組織の歯車になっているだけでつまらない」
「目標の数字に追われ続けるのがしんどい」
「仕事が自分に集中しすぎて、まったく終わらない」
「がんばり続けた結果、燃え尽きた」
「もっと思いっきり働きたいのに、残業禁止だから帰れと言われる」
「プレーヤーとして仕事がおもしろくなってきたところで、マネジャー業務もやることになったが全然うまくいかない」
「やる意味のわからない業務とか会議とか調整とか評価とかに忙殺される……」
「なぜお客さんに喜ばれていることが、社内でこれほど評価されないのだろう……」
「新しいことをやろうとすると、関係部署から余計なことをするなと言われて頓挫する」
「レールの先にいる上司たちがあまりハッピーそうに見えない」
「会社って、なんで仕事してなさそうなオジサンがこんなにいるんだろう……」
「そろそろ満員電車に乗らなくて済むようになれないものか……」
「転職や独立も考えるものの、自分の能力が外で通用するかどうか不安……」
「仕事が楽しくて没頭していたら、社内で浮いて変人扱いされている……」 

いくつか思い当たるものがあったでしょうか? 

ちなみに、このうちの多くは、私自身がかつて感じたモヤモヤです。こんなことでモヤモヤするような「スゴくない人」でも、自由に働けるようになれました(ご安心ください)。 

ここで質問です。

次の文章の内容は、「新しいね」と言われる私の働き方と近いのですが、いつ書かれたものだと思いますか? 

 新しい経済の基本的単位は、会社ではなく、個人になる。仕事は、固定化した管理組織によって与えられ、コントロールされるのではなく、既存の組織外で個人事業主の集団によって遂行される。電子で結びついたフリーランサー、すなわちEランサーが、流動的な臨時のチームをつくり、製品を生産・販売したり、サービスを創造・提供したりする。仕事が終わればチームを解散して再び個人事業主にもどり、次の仕事を求めてさすらう。 

これは『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された「Eランス経済の夜明け」(トーマス・マローン、ロバート・ローバッカー)という論文の一節です。 

なんとこの文章が書かれたのは、1998年。20年も前なのです。

「電子」とか「E」というネット黎明期の香りがする言い回しさえなければ、最近出た本かと思うような内容です。

 そんな20年も前から予測されていた働き方が、今になって「新しいね」と言われているというのはどういうことなのでしょう。 

単に予言が早すぎた?

いや、その論文にはすでに、「これは突飛な仮説ではなく、すでにさまざまな形で現実化しており、今後一般化していく変化だ」とあります。  とすると、日本の企業(企業人)が変化の波に乗り遅れた?

「個人が自由に動ける働き方」につながる道が、どこにあるのか見えていなかった? 

それとも、みんな「自由になりたい」と口では言いながら、組織に依存するほうがラクだから本当は自由になんてなりたくなかった? いずれにしても。

 「なれるか、なれないか」と聞かれると「なれる」と答えやすいのですが、「どうすればそういう働き方になれますか?」と聞かれると、どうも答えにくいところがあります。

「これさえやればなれます」とか「すぐになれます」というわけにはいかないからです。  簡単に答えようと試みたこともありますが、「よくわからない」「私とは違いすぎて参考にならない」「初期の楽天に入れたからじゃないの」と言われて終わること多数……。 

そこで本書では、まるごと一冊を使って、私が試行錯誤してきた「自由な働き方」を体系的にフレームワーク化することを試みました。これによって「どうすればなれるか」のヒントを提供できればと思っています。 

 ◆働き方は「加減乗除」の4ステージで進化する  自由に働くには──? 

この問いへの答えとして私が発見したのが、働き方が第1形態から第4形態までの4段階で進化を遂げるという「加減乗除の法則」です。 

2016年に「シン・ゴジラ」と「ポケモンGO」が流行りました。どちらも形態を変えながら進化していくのが共通しているな──そう気づいた瞬間、「働き方の進化形態は【加減乗除】で、自由な働き方の理想形は【除】だ!」というアイデアが降ってきました。 

サラリーマンも自営業者も同じように、働き方を変えながら進化するという考え方です。 

これまでの自分の働き方を含めて、何万人という経営者やサラリーマン(楽天出店者さんや楽天スタッフ)を見てきた上で、「加減乗除」の4ステージにあてはめると、なにやらピッタリ来るのです。 

「加減乗除」の各ステージにおける働き方の概要は、次のようになります。

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◆第1形態「加」ステージ……選り好みせず、できることを増やす(夢中スイッチと量稽古) 

人が新しく仕事を始めたとき、最初は「できることを増やしていくステージ(加)」からスタートします。ニガテなことでもキライなことでも、選り好みせずできるまでやってみる。新卒が、何もやってみないうちから「自分はこれがやりたい」とか「これが得意」とか言っても、たいした強みではないことが多いわけです。 

「加」ステージにおける仕事の報酬は、「次の仕事」。同じ仕事でも繰り返せばうまくなるし、違う仕事に取り組めばまたできることが増えます。内容は問わず、とにかく「量」が大事なステージです。 

いろんなことができるようになってくるとスイッチが入って、夢中になりやすくなります。お客さんに喜んでもらえる仕事ができるようになることで、あなたのことを支持してくれるお客さんが増えていきます。一方で「仕事が増えてキャパシティオーバーになる」ということが起こってきます。これは「加」ステージ後期にさしかかったサインです。 

ここをうまく乗り越えられると次の「減」ステージに進めますが、うまく変化できないままムリにがんばり続けると疲弊してパフォーマンスが下がります。また逆に、あきらめて流してしまうとトラブルが起きるようになります。 

ではどうするか。

「加」を進めていくうちに業務の範囲が広がってきて、仕事の全体像や、仕事と仕事のつながりが見えるようになってきます。そのつなぎの部分を工夫したり丁寧につくり込んでいったりするとパフォーマンスが上がって、仕事が効率化していきます。 

空いたキャパシティは、さらに新しい仕事で埋めます。効率化は仕事を減らしているので「減」のように思えるかもしれませんが、筋トレのように効率化を繰り返しながらキャパシティ自体も増やしていき、できることを増やすのが「加」ステージです。効率化の試行錯誤の中にこそ自分のホンモノの強みが発揮されることが多く、それが次のステージに進むキッカケになるからです。 

◆第2形態「減」ステージ……得意でない仕事を手放し、強みに集中する(断捨離と専門化)

こうしてキャパシティの限界まで業務が増えた頃には、自分の得意なことやニガテなことが浮き上がってきます。 

そこで、お金、時間、体力、知力、精神力といった限られたリソースを使って仕事をするにあたって、苦手なことは他の人にお願いして引き算をし、自分の得意な仕事に集中するのが「減」ステージです。それによって、強みが磨かれてとんがってきます。 

イメージでいうと、「加」ステージで石膏のかたまりを大きくつくったものを、「減」のステージで削り出して「強み」というタイトルの彫刻を生み出す感じでしょうか(ホンモノの強みとは、取ってつけることができるものではなく、自分の中にある資質を削り出して磨き上げるしかありません)。「加」ステージでの量稽古が不十分だと石膏のかたまりが小さいままなので、削り出したものも小さすぎて「強み」とは言いにくいものになるわけです。 

「減」ステージでは、断捨離することでキャパシティに余白が生まれます。しかし、その余白は「加」ステージのときのように安易に埋めてはいけません。あくまでも強みにフォーカスして質のよい(強みを磨ける)仕事を選び取っていくのです。特に、「強みを発揮できるパターンを増やす」ことにつながるように余白を埋めていきます。その作業を、他人から「あの人の強みはこれ」とわかってもらえるようになるまで続けます。レベル感としては、その道のプロフェッショナルとして本を一冊書けるくらいのコンテンツは持てている状態のことです。 

「減」ステージにおける仕事の報酬は、「強み」です。より高いクオリティが求められる新しいチャレンジを経て、強みに磨きがかかっていくこと自体が報酬になります。 

 ◆第3形態「乗」ステージ……強みと強みを掛け合わせる(独創と共創) 

 こうして自他ともに認める強みが一つ確立して初めて「乗」に進むことができます。磨き上げた強みに、別の強みを掛け合わせるステージです。

「強みの掛け合わせ」には二つの意味合いがあります。 

一つめは、「自分の強み同士」を複数掛け合わせること。これによって強みの希少性が高まり、「独創」的になります(なお「加」ステージでは、オリジナリティを出したい気持ちはわかるけど、まだ要りません)。 

もう一つは、自分の強みを「他者の強み」と掛け合わせる「共創」です。

「乗」ステージまでくると、「あなたの強みが必要だから一緒に組みませんか」というオファーがくるようになります。社内外を含めてプロジェクトベースで仕事ができるようになり、複数のプロジェクトに参加して仕事をするようになります。そこでいろいろな強みを持った人たちとチームをつくり、成果を生み出していきます。 

ここでいうオファーというのは、「キミはこの仕事、得意だったよな。やっておいてくれ」みたいな任され方とは違います。そういう「下請け」の感じではなく、「パートナー」の関係性。レベル感としては、少なくとも自分の会社以外の組織に入り込んでいって、強みを活かした仕事(他流試合)ができるようになるレベルです。 

チームで働くようになる「乗」ステージにおける仕事の報酬は、プロジェクトを通して得られる「仲間」です。 

◆第4形態「除」ステージ……仕事を因数分解して、強みでくくる(兼業と統業) 

最後のステージの「除」とはどういうことか。

「加」「減」「乗」と比べると、イメージしにくいかもしれません。 

「乗」ステージの後期にさしかかると、関わるプロジェクトが増えます。それが増えすぎると、一つのプロジェクトに割ける時間が少なくなって、どれも中途半端になってしまいがちです。その場合に、割り算のイメージで仕事を因数分解して、「自分が強みとする作業を一つやっていると、自分の関わるすべてのプロジェクトを同時進行させられている状態」をつくれるのが「除」のステージです。 

たとえば、自分は「5」の作業が一番の強みで、「3」の作業もまあまあ得意だとします。それを自覚できたら、「5」で対応できる「50」や「100」といったプロジェクトしかやらないようにする。そうすると、「50」の仕事をしているときでも「5」の強みは磨かれていくから、「100」のプロジェクトも同時に進んでいることになります。 

それを中途半端に「3」も得意だからといって「9」のプロジェクトにまで首をつっこむと、「5」の作業をしているときに「9」の人から「サボってないでウチの仕事してよ」と言われてしまったりするわけです。 

このように、自分の強みがすべてのプロジェクトの「公約数」になっている状態をつくるのが「除」です。兼業しているそれぞれの仕事が統合されていることから「統業」と呼んでいます(私の造語です)。 

「除」ステージでの仕事の報酬は、「自由」。どこで何をしていても、全体として仕事をうまく進めることができるようになるという意味で、自由度の高い働き方ができるようになるのです。 

この4つのステージが、「自由な働き方」を実現するための道のりです。 

お察しの通り、「これさえやれば、すぐ自由になれます」というようなハナシではありません。そういうお手軽ノウハウが必要な方は、そっとこの本を閉じていただいて……(笑)、「まあ時間はかかるよね」と思える方だけで次へ進んでいきましょう。

◆「加減乗除」ステージ診断 

ここまでのハナシで、「自分はこのステージだな」とピンときた方もいれば、そうでない方もいると思います。そこで、ステージ診断をつくってみました。  

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④が「はい」の方は、この本を読む必要はありません(笑)。 

このあとの本書の読み方としては、自分の該当しそうなステージの章からよりも、「加減乗除」の順で読んでみてほしいです。特に、「今見えているレールの延長線上には自由な働き方のイメージがわかない」という場合は、「自由な働き方OS」からインストールする必要がある可能性が高いので、「加」の章から読んでください。 

「加」の章では、基本OSとして「モヤモヤの正体」「夢中(フロー)」「仕事を遊ぶ」「展開型」といった考え方を中心に、「楽しい仕事とは」「ニガテ業務の深掘り方」「仕事の拾い方」「歯車仕事からの脱出法」などについて見ていきます。ものの見方・考え方のフレームワークが多くなりますが、「仕事」というもののとらえ方がズレていると次のステージへ進みにくくなりますので、OSインストールをお願いします。 

「減」の章では、「◯◯から自由になる」というタイトルが列挙されています。自由への道を阻む原因となる「仕事の常識」を捨てたり、手放したりしていきます。今までがんばってきた仕事を手放すのは不安かもしれませんが、これまでに得られたお客さんからの信頼があれば大丈夫。かなり非常識に思える項目もあると思いますが、「自由な働き方OS」をベースに考えれば論理的には通っている(合理的である)はずです。キーワードは「不合理な常識から合理的な非常識へ」。まだ「加」ステージにいる人が読むと「ちょっと意味わからない」と思われがちなパートですので、何回も噛んでみて、じっくり味わってみてほしいです。

「乗」の章では、著者が実際に経験したエピソードを紹介しながら、「独創性を高める強みの磨き方」と「プロジェクトベースで仕事をするための共創の作法」などを考えていきます。「減」ステージで多くの重り(不合理な常識)を手放し、しがらみを断ち切ったことで、流れに「乗」って運ばれるように仕事や人生が展開していく「乗」ステージの感覚を共有できればうれしいです。 

「除」の章でも、著者の事例をもとにしています。すべての仕事を複雜につなげながらも、やること自体はシンプルにしていく働き方について考えます。「らせん的発展の法則」「際者(キワモノ)」「イノベーション」といったキーワードが中心になります。

 

この本は、人によっては章が進むほどアタマに「?」が浮かぶことになるかもしれません。自分が未体験のステージのハナシは、ピンと来ないからです。ちなみに「自由な働き方」を実現している友人たちに加減乗除のハナシをしてみたところ、一様に「除、わかるわ〜」という反応が返ってきました(仲山調べ)。本書の目的は、今まで見えていなかった道を提示することで選択肢を増やそうというものなので、ピンとこなければ「そんな道もあるのかねぇ」くらいに思って読んでいただければ十分です(何年か経って読み返してみると思わぬ発見があるかも……)。 

それでは、加減乗除ステージアップの旅をお楽しみください! 

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出典: 仲山進也『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)



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