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アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方──カオスな環境に強い「頭のよさ」とは

拙著『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方──カオスな環境に強い「頭のよさ」とは』(2022年5月30日刊)の「はじめに」と「目次」をアップします。
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はじめに──「自分で考えて動く」とは何をどうすることなのか

・めまぐるしく状況が変わっていき、さまざまな要素がからみ合っていて、過去に成功したやり方をしても同じ結果が得られない。
・施策と結果の因果もわかりにくく、計画がうまく進んでいるかどうかも明確でない。
・リーダーが指示をしようとしても、変化スピードの速さと変化点の多さにより、すべてを指示しきれない。
・だからこそ、指示待ちではなく、自ら考えて動ける「自律型」の人材が不可欠になる──

 なんの話かといいますと……サッカーの話です。

 わざとビジネスっぽい表現を使ってみましたが、サッカーはもとからそういうゲームであり、「昨今のビジネス環境はサッカーに近づいている」と感じる人が増えてきているように思います。
 そこで、「自ら考えて動ける人材」のヒントを「サッカー的な思考法」から得ようというのが本書の目的です(サッカーの知識がない人でもわかる形で)。

 育成に定評があるオランダの名門クラブ・アヤックスがかつて提唱していた「TIPS」という考え方があります。
 選手の選抜・育成の際に重視する4つのポイントのことです。

T テクニック(高難度の技ができる意ではなく、基本動作を精度高くできる技術力)
I インテリジェンス(流れの中で精度の高い判断ができる思考力)
P パーソナリティ(従順な人・いい人の意ではなく、チームワークができる性格)
S スピード(最高速度よりも動き出しの速さや機敏さ、さらには判断の速さ)

「この4つの視点なんかはシンプルだから、仕事にもあてはまりすぎるなぁ」と考えながら過ごしていたある日のこと。サッカーと仕事をつなげて考えるための題材として、最高なマンガに出合ってしまいました。

『アオアシ』です。

『アオアシ』は、プロサッカークラブの育成部門(ユース)を舞台に描かれている点と「思考力(インテリジェンス)」を成長の軸にしている点が斬新な作品です。
 なんせ主人公の名前が「青井葦人(あおいあしと)」。そのアシトが「考える葦」へと成長していきます。
 アシトには「視野の広さ」という稀有な才能があって、「ボールとフィールド上の22人全員の位置」を俯瞰イメージとして認知できてしまいます。ただ、自分ではその才能に気づいておらず、無自覚ゆえに強みとして活用できていません。
 アシトは田舎町の中学サッカー部でフォワード(点取り屋)としてプレーしていたところを、プロクラブ「エスペリオン」のユース監督である福田達也に見出されます。アシトの俯瞰的視野の才能に気づいた福田は、ユースチーム(高校年代の育成部門)の入団試験に誘います。
 なんとか合格して入団を果たすも、いきなりの紅白戦でジュニアユース(中学年代)からの昇格組のレベルに圧倒されるアシト。味方の選手から指示されたことに対応できず、「パスからメッセージが伝わらないの?」と問われた意味もわからず、何がわからないのかもわからない状態に陥ります。
 かろうじて視野の才能のおかげで得点という結果を出しますが、コーチの伊達望はアシトの致命的な欠陥に気づき、「プロにはなれない」と判断します。

 その理由は「思考力のなさ」。
 アシトはその名にふさわしくない、「考えない葦」だったのです。

 紅白戦で試合の流れが変わったのを観ながら、望コーチはこうつぶやきます。
「選手たちがフィールド上で自ら思考して最良手を探り、試合状況に合わせて自分のプレーを変えていくこと。これが個人戦術だ。我々は選手を小さい頃から手元に置くことで…『自発的な思考』を徹底して叩き込んでいる。現に昇格生以外は対応できていない。付いていくのに必死だ。
 そして、青井アシト。プレーが切り替わったことすら気付いていない。それは彼が、勘でしか動けない、感性のプレーヤーだからだ。聞こえはいいが、彼の場合、あまりにも極端すぎる。時に見せる素晴らしいプレーも、自分のことなのに、一つとしてきちんとふり返って説明できまい。個人戦術とは程遠い。当然だろう。言語化もできないようなプレーなのだ。別の局面での再現もままならん。それでは駄目なんだよ…
 Jユースの『考える力』は、高校サッカーの平均値を圧倒している。考えられない選手は先には行けん!!」(4巻32話)

 この望コーチの語りのなかに、『アオアシ』のメインテーマである「思考力(インテリジェンス)とは何なのか」が示されています。
 その思考力のベースになるのが「言語化」。
 ストーリーが進む中で、アシトは試行錯誤しながら言語化力を高めつつ、自分の才能である俯瞰的視野の活かし方を徐々に理解し、チームにとって不可欠な選手になっていきます。
 そのプロセスでアシトが気づき、つかんでいく内容が、極めて良質な仕事のヒントになるのです。

 この本では、マンガのリアリティあふれるエピソード(25巻まで)を事例にしながら、「思考力のフレームワーク」を補助線とする形でヒントを提供していきます。
 最も中心となる思考の型が、「観察→判断→実行」ループです。これを「自分で考えて動ける人材」の視点から、
 第1章 観察
 第2章 判断
 第3章 実行
 という流れで考察していきます。先に部分をみていって、3章の終わりで「ループの全体像」を俯瞰する構成です。
 4章では、思考を鍛える上でのベースとなる「才能」というものをどうとらえ、どう開花させるのかを扱います。

「自分で考えて動く」とは何をどうすることなのか、ものの見方と考え方を一緒に探究していきましょう!

★本書の読み方
『アオアシ』を読んだことがなくてもお楽しみいただけるようつくってありますが、おすすめは『アオアシ』と併読すること。全巻はハードルが高いと感じる場合は、とにかく騙されたと思って6巻まで読んでみてほしいです!

目次

はじめに──「自分で考えて動く」とは何をどうすることなのか

第1章 観察

知らないものは見えない
興味のないものも見えない
偏見があるものも見えない
「視点・視野・視座」と「視差」
自由とは、選択肢を持っていること
視野を広げるには「視点と視座」をコントロールする
視野が変わると、価値(意味)が変わる
「テレビ近いわよ、離れなさい!」の法則
偏見から解放されるには「心理的柔軟性」を高める
視座は座ってみないとわからない
目の前にある価値に気づけなくなる「どっぷり症候群」

第2章 判断

人間は「判断する関数」である
「わかりにくい表現」とは「分けにくい表現」
「世界一ものわかりが悪い人」でもわかるか
1.1力──「よい価値基準」を持つには
うまくいかない「カオス」を楽しむマジックワード
すべての出来事に「決まった意味」はない
選択基準を言語化したものが「仮説」

第3章 実行

「仮説→試行→検証→規範化」を高速回転させる
学びの取れ高は「ふりかえり」で決まる
ふりかえりの作法「事実→解釈→規範化→適用」
「思考を言葉にするのが追いつかない」とは
ふりかえりで具体的な体験を「抽象化・概念化」する
「考えなくてもできるようになる」とは
「知る」と「わかる」の違い
「わかる」と「できる」の違い
「できる」と「している」の違い
「観察→判断→実行」ループ

第4章 才能

自分の才能は、自分が一番気づいていない
楽しい仕事(ポジション)とは何なのか
凹を埋めるか、凸を伸ばすか──加減乗除の法則
自己犠牲的利他ではなく「自己中心的利他」を目指す

おわりに

この本をつくることになった偶然の成り行き
謝辞


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