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書評:マキャヴェリ『君主論』

近代を見据えた統治のリアリズムとは?

今回ご紹介するマキャヴェリ『君主論』は、世界史の教科書でも政治学の講義でも、必ずと言って良いほどお目にかかる超有名な著作であろう。

本著ではまず、以下のような分類要素を用いて、政治体制のパターンがシンプルに整理される。

◯如何なる政体か
◯その政体は何に依拠するものか
◯その政体はどのようにして獲得されたものか

そしてそれらパターン毎に、如何に統治を安定させるか、そのために君主はどうあるべきか、という提言がマキャヴェリの主張として表明されていく。

マキャヴェリ流の「統治論」と言い換えても過言ではないと思われる。

一般にその概要に触れるにおいては、本著のリアリスティックな特徴が強調されるためか、剥き出しの「権力論」のような著作というイメージが持たれているかもしれない。

しかし必ずしもそうではない。

本著におけるマキャヴェリの目的論は「統治の安定」にあり、その為必ずしも「強権」を振るう抑圧的な方法論や、権謀術数的な騙し合いが常に現実における最適解となるわけではないからだ。

例えば、本著では民衆との調和の重要性が力説されます。これはもちろん現代における理想主義的な、ヒューマニズム的な民衆愛から来るものではなく、「統治の安定」の観点から導かれる打算と言えるものだ。しかし現実問題としても、マキャヴェリが「統治の安定」を脅かす脅威の一角として、「内圧」(もう一角は大きく「外圧」)の存在を非常に重要視していることを伺うことができる。

また、アンコントローラブルな「外圧」の脅威に対する態勢堅持の観点からも、政情安定という意味での民衆による統治への信頼は欠かせないものと主張される。

因みに、当然民衆にとっても「統治の安定」は無関心事ではいられない。「権利」というものは、安定した統治により「権力」が正常に行使されてこそ守られ、民衆の「権利」が正常に機能するからだ。言わば、「権利」は「権力」に依存するという側面をを否定することはできないのだ。

※もちろん「権力」の質如何によっては正反対になることは言うまでもない。

更に因みに、この点は本著の主題からはもはや離れるが、民衆サイドにおいて悪戯に、過度に、必要以上に統治に対する不信を煽ることは、「統治の安定に基づく権利の享受」という自利益の基盤そのものを脅かす動きになりかねない、という点を指摘しておきたい。政治の安定と政治批判のバランスは極めて難しく、そしてかなり流動的であるため、現代人にとっても永遠のテーマと言える難問だが、この視点を忘れてはならないと考える。

本著は、具体的な統治の手段のレベルにおいては権謀術数も良かれとして主張するものですが、「統治の安定」という大目的を見失わない範囲においては、現代でも多分に有益な著作である。

更には、近代以降、特に現代においては、政治的統治の範囲に留まらず拡大解釈することも充分に可能となっている。

例えば、軍事力を経済力に置き換えると現代における平時のプロセス論や企業統治論として読むことが可能である。
また、マーケットにおける企業の戦い方という面でも一定程度参考になるだろう。

人間は色んな形態で組織を形成するものであり、組織が一定以上の規模となれば必ずヒエラルキーが形成される。それが合理的だからだ。
ヒエラルキーが至る所に隅々にまで存在する現代社会においては、マキャヴェリの主張は今後も傾聴すべき古典的英知であり続けるだろうと思われる。
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種々の手段に対する正否(有効・無効)の判断はもちろんあって然るべきだが、少なくとも理想論的な善悪で本著を評価しようとすると、本著の本質と持ち味を読み損なってしまいかねないため、本著の目的論については強調させていただきたい。

読了難易度:★★☆☆☆(←政治に係る古典で慣れが必要も、短編)
目的論の重要度:★★★★☆
現代的応用度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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