見出し画像

第212話.まんだら

1997年

開発中には「EK」と呼んでいたアジア地域専用車は、販売段階を迎え車名を「シティ」と名付けられた。販売に先立ち、先にインド入りしてユーザークリニックを実施してくれた人たちから、その結果報告を受ける。以下、その要約である。
‘95年の調査でシティ(1.3L)がベンチマーク(競合比較対象車)とした車は、当時絶好調の大宇のシエロ。今回の1.5L化で新たにベンチマークにしたのは、オペル・アストラ(只今絶好調、シエロは絶不調)である。
プレミアムセグメント(上級車志向層)に属する121名の人たちを対象に、3日間アンケートとグループインタヴューによる調査を行う。結果は'95年のものに対し、シビックは相変わらず高い評点。シティの1.5L化は内装充実、装備向上で評価を高めることができた。
ベンチマークのアストラを含めて比較すると、価格抜きで、 シビック>アストラ≧シティ。価格を提示するとシティ(58万ルピー)>シビック(90万)>アストラ(73万)となった。ちなみに価格は、シビックは競合車に対し高め設定、シテイは安め設定である。
注目すべきは、シビックは高くても買いたいと言うお客が多いこと、シテイは60万を切ると急に買いたい車になることが判明。また、ホンダのイメージは前回同様に「モダンで、クオリティが高く、スポーティ」、シビックはそのイメージを表現している車として評価が高い。
シティはモダンさに欠けるが、「強くて、頼りがいのある家庭的な車」として評価。反面、1.5Lとして内装のさらなる充実と質感の向上、外観にスポーティーさやモダンさを期待する声が多かった。
泊まっているホテルが会議場では、買い物に出る時間もとれない。ホテルの土産物売り場で見つけた「曼荼羅」が気に入り、三日三晩通い詰め、値切りに値切ってついにものにする。こんなしつこい日本人は始めてだと店主に呆れられた。
曼荼羅は、「金剛界曼荼羅」と「胎臓界曼荼羅」が「対(つい)」になって成り立っている。この二つは、太陽と月とも、男と女とも、収束と拡散とも喩えられ、世の中の、お互い対極にあるもの同志が「一対」となって、葛藤の末に成就することを言うんだそうな。
もちろん、私の買ったのは「胎臓界曼荼羅」である。何だか、今回の開発プロジェクトに似ているような気がして、一人でほくそ笑んだ。アジア地域専用車として、アジアの各地域で喜ばれるベーシックな車の誕生である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?