見出し画像

第113話. プレリュード・4ドア

1983年

「おい、次のアコード、どうするんだよ」と、通りすがりざま本田技研専務に問いかけられた。ここのところずっと考えていたことだが、まだ、これだと言えるほどの、確たるイメージが描けていない。
返答に困り咄嗟に、「プレリュード・4ドアで行きます」と言ってしまった。すると即座に、「いいかもね」と。「まずい!」と思ったが、もう遅かった。2代目プレリュードが世界的にヒットし、ことに日本市場では、ベルノ店が一気に息を吹き返していた。余勢を駆ってつくった役割明快・3代目「ホンダシビック」も、出だしはすこぶる好調。もう、次のことを考えておられるのだ。息もつかせてもらえないなと思った。
しばらくして、3代目アコードの開発チームが発足。私は今回もLPL(機種開発責任者)代行を仰せつかる。 2代目プレリュードの人気にあやかりたい気持ちで、「プレリュード・4ドア」と言ってしまったのだが、みんなに先入観を与えてしまったようで、少々後ろめたい気持ちでいた。
シビックの開発を通じて、車はみんなでつくるものととことん教わったはず。LPL(2代目プレリュードに引き続き)はそのあたりを察し、最初のミーティングでまずこのことに触れ、みんなの意見を聞いてくれる。ところが私の心配をよそに、チームのみんなからは、「ホンダらしいスポーティなセダンにしたい。2代目プレリュードのように挑戦的にやろう」と、前向きに賛同してもらい胸をなで下ろす。
ただ、みんなが一様に心配したのは、このコンセプトをこのまま進めて行って、ファミリーカーとして充分な居住性が本当につくれるのか、また、リーズナブルな価格を設定するためのコストに間違いなくおさめられるのか、という二点だった。
2代目プレリュードは、スペシャリティ・カーとして、この二つの課題に多少目を瞑ったところがある。どうやら今回は、これらの克服が、このプロジェクトの最重点課題になりそうだと直感した。
若者をターゲットとした2代目プレリュードのヒップポイント(シート座面の高さ)は極端に低い。筋力の弱ったお年寄りにとって、低い屋根や低いシートの車への乗り降りには苦痛を伴う。アコードはファミリーカーであり、あらゆるひとの乗り降りに配慮するのは当然のこと。だから「スポーティなセダン」とは言え、フロントはともかく、リアのヒップポイントをどこまで低く出来るかが、パッケージ・レイアウトの鍵となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?