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第226話. 青春とは・・・

1999年

本田宗一郎とホンダS600に憧れ、1964年24才で入社し、1999年60才で退職するまでの35年間を過ごしてきた本田技研工業株式会社や(株)本田技術研究所とは、私にとっていったい何だったのだろうか。
夢を与えてくれ一人前の人間に育ててくれた「修養の場」であり、伴侶を得、住いを持ち、子を育て、糧を求めた「生活の場」であり、人様に喜ばれるモノをつくり、誇りや自信をもらった「働きの場」であった。
世界中に販売店やサービス工場、生産工場や設備、それに開発の施設があり、これらの「物」とも別れることになる。この会社を起こされた本田さんと藤澤さん、それを大きく伸ばされた諸先輩方、さらに拡げた同輩や逞しく育つ後輩たち、10万人の仲間がいて、こうした「人」たちと別れることにもなる。
そして、これら大勢の人たちと喜怒哀楽をともにしながら、商品を通して、いろんなメッセージを世に送り出してきた、こうした「ものづくり」という「事」と別れることになるのだ。
目に見える「物」や「人」と別れるのは明らかなこと。が、本田さんはじめ諸先輩方から叩き込まれ刷り込まれ、培ってきた「ホンダスピリッツ」のような目に見えない「事」どもは、身に染み着いて離れることはあるまい。
これまで仕事の中で、ずいぶんと迷い、悩み、考え、それでも駄目で「ああ、これまでか」と観念し、「どうともなれ」と開き直って、神に祈りながら幾度「事」に当たってきたことか。それでも、幸いにも私はこうして在る。それはまぎれもなく、ホンダを心底愛し、信じ、楽しんできたからであり、このことだけは人に自慢できる。
永らく、「本田宗一郎がくれた『千字薬』」に付き合っていただいた皆さんには心からお礼を申し上げたい。「青年は未来を楽しみ、壮年は現在を楽しみ、老年は過去を楽しむ」と誰かが言っていた。が、私は、今日で「過去」と決別して「未来」を楽しもうと思っている。
20代の後半、我々若者が負けそうなほど、熱くものづくりに打ち込んでいた60歳の本田さんの姿が目に浮かぶ。「夢」の実現に向けて、「情熱」を持ち、「挑戦」し続けてきた本田さん。青春の真っ只中にいるようだった
ファーストエイジは学ぶ時期、セカンドエイジは働く時期、さて次のサードエイジは如何にあるべきか。サミュエル・ウルマンの「青春とは…心の様相を言うのだ」をもう一度思い起こして、「明るく、楽しく、前向きに」生きてゆこう。

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