見出し画像

第47話.七つのお願い

1970年

初代「ホンダシビック」のデザインの方向もようやく固まる。研究所所長から、ちあきなおみの「四つのお願い」に倣って「七つのお願い」が提示された。いわゆる「開発基本要件」である。
1)ホンダの販売網で売れること。
2)ホンダの整備体制に乗ること。
3)対米輸出が可能なこと。
4)マスプロ、マスセールの可能なこと。
5)ホンダらしいこと。
6)1971年中に開発完了のこと。
7)ボディは3年、エンジンはヘッドを乗せ変えて1975年まで継続生産可能なこと。

「いよいよ現実的になって来たぞ。自分で買える車を、自分の手でつくれるんだ」という喜びが湧いてきた。「ホンダN360」の時もそうであったが、こうした「喜び」は、仕事をするための大きな原動力となる。
「ホンダH1300」の時は、「自分の車」という感じが中々もつことができず、分からないなりに、其々が懸命に背伸びをし、力の限りを尽くしたのだが、そうした個の総和が、果たして「ベストな車」つくりに繋がったかどうか。
結果的に、H1300はバランスの崩れた車になってしまった。世に出ている他車の実力をあまりにも知らなかったからだ。だから今回はなんとしても、彼我比較ができる能力を磨かなければ、と痛感していた。
この頃から始めた要件設定(基本要件をA-00、機能要件をA-0、A, と明示する方式)の作業は、チームを一丸にし、共通の目標に向かわせるのには大変良い方法であった。私はデザインを進める上で、「七つのお願い」の中の一つ「ホンダらしいこと」という要件項目について考え始める。
このままでは抽象的に過ぎるからと、チームの誰もが共有できる具体的な「言葉」や「数字」に置き換えた。「ホンダらしさ」を「きびきびとした走り」という言葉にし、さらにこれを機能要件として数値化した。言葉と数値を重ね合わせ、デザイナーは頭にイメージを浮かべながらスケッチを描いた。
チームは、デザイン室と設計室に設けた会議室、それと研究所の近くにある旅館「桐壺」をフルに活用し、コンセプトをさらに煮詰めていく。会議室では評価会やチームのミーティング。何かアイデアを出したい時には桐壺に行った。
ここを利用すると何がしかのお金を使う。そこで「何かお土産を持って帰らないと」になり、とことん詰めた本音を搾り出す。和室に寝ころんでアイデアを出すところから、「開き直ってやる」ことを「寝っころがる」と言うようになった。

いいなと思ったら応援しよう!