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第133話.キュービックデザイン

1986年

2代目「ホンダアクティ」のデザインが急ピッチで進んでいた。初代アクティの数年間の販売を通じ、全国津々浦々の、さまざまな使い勝手に関するデータや要望事項が手元に集まっている。
居住性に関しては、限られた寸法の中で、誰もがびっくりするほどの広いスペースをつくり上げることを目標に、四隅のピラーは思いっ切り外に出した。足元を広く取るためにフロントパネル(ボディの前面)を20ミリ前に、併せて、足の出し入れにはドアシール(開口部)前部をできるだけ前方に出す。
乗り降り性では、牛乳配達の作業動作を徹底的に調べ、結果を反映した。また女性が楽に乗り降りできるようシートハイトを1ミリでも下げる努力をする。頭の抜きは、190センチの大男でも大丈夫なように、シールの上部を目一杯に上げることにした。
インテリアは、機能的なトレーインパネを採用し、ドアライニングと併せて「樹脂コンコン(硬い樹脂部品のこと。叩くとこんな音が出たから)」に見えないよう、形状から色つやシボに至るまで工夫を重ねる。
また使い勝手では、積み卸しを楽にするために、フロアを20ミリ下げて低床の実現を計り、あおり(荷台部分のサイドの縦板)などの開閉は、軍手のまま操作ができてかつ素手でも問題ないようにと、レバーや取っ手類の形状に細かい配慮を施した。荷台長は1800ミリ以上を確保し、荷物のモジュールを徹底して調べ、隅々まで使えるようにと工夫する。
最後まで悩んだのはルーフの扱いで、先代のもっていたノーマルルーフとハイルーフの2種類を、それら中間の高さに統一、バンとストリートを共通のルーフとした。1ミリを戦った低床の実現努力の賜である。結局、これによって生まれた大きなテールゲートが、このシリーズ最大の売りものになった。
そのほか細かく言えばいとまがない。売り出しに当たって、宣伝屋が「キュービックデザイン」と言ってその効用を謳ってくれた。「体」は「名」を表したと言うところか。一人ひとりは地味な連中だったが、やったことは凄い。底力を感じるチームだった。
予定で言うと、10年後(’90)、次のモデルチェンジを行うことになる。私はもういないだろうが、衝突安全や環境問題などを考えると、サイズが一回り大きくなり、姿かたちもすっかり変わるに違いない。が、次の世代が、こうした手間ひまかけるものづくりの伝統を、しっかり受け継いで行ってくれることだろう。

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