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第211話.他山の石

1997年

いよいよ、インド向け「シティ」の現地内部試乗会。シビックやシティ(最新の1.5L・タイ仕様)と比較車アストラ、エスコート、シェロ、エスティーム、ソルーナ(末上市)を、デリーやニューデリーの周辺で試乗と見映えの確認を行う。 
シビックの素晴らしさは言うに及ばず。心配していたシティの存在感は、埃を被った状態でもコンペティターのアストラに対して立派に見えた。また、1,3Lでも充分他車に勝るが、1.5Lの「出足3尺(アクセルを踏んだ瞬間の1メートル分の出足感を言う)」は、インド人もびっくりの走りを実感。
試乗後の議論をまとめると、シビックのコスト実力では85万ルピーの値づけが精一杯。3万台の工場を満たすのは難しい。投入に1年は要する現状から見て、政府、ディーラー、協力メーカー、世論、金銭面はもとより信用面を併せて考えると、投入日程の延長は得策でない、などなど。
幸い、今回の現地での調査と討議で、シティ投入の可能性と方策が見えてきた。この結果を踏まえ「先手必勝の上、2の矢、3の矢の準備」が肝要。 
「1の矢」として、シティは今回の結果の徹底反映と1.5L へのシフト。まずは走りイメージの確立と、1.3Lによるカンパニーカー狙いの価格リード。「2の矢」として、 シティに対し1年後のシビック投入。「3の矢」として、政府の動きとTAXの様子を見ながらのアコード/CBUの輸入検討。
これらを進めるに当たっても課題はある。1の矢は、出来るだけ早い実車確認、およびコンペティターとの徹底彼我検定。2の矢は、具体的に検討の精度(投資、コスト、現調、日程)。それに3つの矢に共通して言えることは、ほぼ見通しがついている輸入に関する内規にコミットする仕方とその実現手法の確立を、早期に決めて集中して進める時期かと考える。
この2年間の大宇(シェロ)の失敗はまさしく企業エゴで、お客さん無視によるものと言えよう。OPELのアストラの成功は、GMが世界マーケットを熟知している成果だと思う。「他山の石」にならぬよう肝に命じたい。云々と社長に報告。
結局、インドでの立ち上がりは「シティ」に決まる。アジア本部のこの機種に関わった人たちの喜びは大変なもので、当然、彼らからは大いに感謝された。 
が、私は今も、「シティ」と「シビック」、どちらがよかったのか分からないでいる。社長はきっと、騙されてくれたのだろう。みんなでとことんやったのだから。

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