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第13話.色の道

1967年

「ホンダN360」は、いよいよ色を決める段階にあった。カラー・ラインアップはシンプルにしようと、立ち上がりは3色と決める。赤と白は当確であったが、「S600」の赤と白はコストが高過ぎて使えないことが分かった。彩度が高いからだという。これらをコストに見合うようディチューンし、さらに新色を1色開発することに。日ごろ本田さんから、「赤と白はね、S600に塗る時は苦労したんだよ。なにしろ、赤は消防車、白は救急車と紛らわしいから駄目だって役人が言うもんだから、赤も白も昔からある色、みんなの色だと文句を言って塗れるようになったんだ」と、話に聞いている。色を生み出すのは大変なことなのだと感じていた。


塗料は、コストを下げると、こんなにまで光沢や深みがなくなるものかと思い知らされながら、赤と白のチューニングを粘り強く続ける。そしてまた、新色開発の方向性にも頭を悩ましていた。赤と白は「紅白」とか「白地に赤く」と言われるように日本的な色である。こういった色は他にもあるはずだろうと考えを進めてゆき、結果、新色はブルー系で行こうと決めた。それも強烈なものは避け、万人受けのするグレーに極めて近い淡いブルーに。この色は、技術的にはそれほど難しいところもなく早々にでき上がった。が、「赤」「白」「灰青」というカラーラインナップはどう見ても新味がない。そこで、密かにもう一色をと検討を始め、最終的には濃紺に絞り込んだ。茄子紺や藍色は日本人にとって昔から馴染みの深い色である。しかし、果たして車に似合うかどうかは未知数であった。


この色も赤や白と同じく彩度に敏感で、ほんの少し彩度を下げると粉っぽくなってしまう。何度も何度もやり直すものだから、塗料メーカーの職人さんには呆れられて、「この色がものに出来たら、あんた、色の道は卒業ですよ」と冷やかされる。結局、立ち上がりぎりぎりまでかかってしまった。自分なりにいい紺色が出来たと思い、「エターナル・ブルー」と名づける。自信満々だったが、何故か、カタログ写真には赤と白だけが採用されブルー系は選ばれなかった。
私にとっての反省は、街を走るN360の7割までが白、残りほとんどが赤であり、ブルー系を見つけるのは容易ではなかったこと。エターナル・ブルーは「知的ないい色ですね」とは言われたものの、人の心を惹き付けるまでには至らなかった。買ってもらえる色づくりは難しいものだと痛感した。

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