第100話.役割明快
1981年
2代目シビックに対して、前後で約60ミリ、上下で約30ミリ小さいエンジンルームを実現した「機械部分極小化」技術は、3代目「ホンダシビックシリーズ」の核技術として威力を発揮。これによって得た寸法の余裕は、良好な視界や圧倒的な室内長、デザインの自由度を創出した。
この結果、4つのヴァリエーションモデルが、共通のプラットホーム(エンジン、足回り、フロアによる基本の土台)でつくられた車かと思うほどの、外観、空間、使い勝手などの違い生み、個性化する大衆のカーライフに幅広く応えた「4つの役割」をもつ「役割明快」シリーズとして完成。
「50M」は、北米燃費ナンバーワン車に。「3ドアハッチバック」は、短く低いボンネットとロングルーフとの組み合わせにより、短めの全長からは信じられないほどの大きな室内スペースと特徴である可動式リアシートにより、クラウン並みのリア空間をもつ「ランアバウト(小型のシティカー))」となった。
「4ドアセダン」は、3ドア同様の短く低いボンネットにより、大衆車クラスのファミリーカーとしては傑出した好視界と足元の広さをもち、しかも乗り降り性抜群の「ビッグキャビン・サルーン」となる。
そして「5ドアハッチバックセダン」は、セダンとワゴンの良さを1箱に集約し、ショートノーズ/ロングルーフを活かし切って、文句無しのビッグスペースをもつ「ニュー・コンセプトカー」となった。この車は上市の際、「シャトル」と名付けられ、日本のRV(レクレーショナル・ヴィークル)の先兵とになる。
「機械部分極小化」を核技術とし、「役割明快」を基本コンセプトとした3代目シビックシリーズは、世界の市場で高い評価を得ることができた。全てそれは、50MのHRA/ADRの先行研究デザインから始まったと言える。
これまでは、あちこちにいくつものデザインスタジオがあって、摩擦も多く調整も大変で、技術総括を与かる立場としては、いささか効率が悪いなと思っていたが、今回のプロジェクトを通じ、この時期にこれだけのスタジオを展開でき、実に有り難いことだと思った。まさに「三人寄れば文殊の知恵」。経営陣のデザインに対する理解がないとできないことである。
50Mは、のちに「CRX」と名付けられた。何故かアメリカでは、超低燃費車と言うより「小さなスポーツカー」として若者の人気を集めた。ポルシェ博士のつくった「356」のごとくにである。
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