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第146話.時には振り返れ

1989年

「人間、困った時には振り返ることだよ、私も昔、藤澤さん(本田社長時代の副社長)からそう言われて勉強したことがある。品質問題で頭を抱えている時だったけどね。お陰で今があると思っているよ」と本田技研社長から。
4代目のアコードシリーズの開発がほぼ目途がついてきたものの、「これから先をどうする」と言われても、全く五里霧中という状況下にあった。ただ、このままの拡大は望めないだろうとの予測は容易につく。
前ばかり向いてここまできたが、一度立ち止まって、これまで自動車が辿ってきた道を勉強する良い機会かもと思い立つ。私なりに勉強を積んできた諸々を、過去から辿って整理してみる。
自動車の歴史は、馬車が馬から解き放たれ自らの足をもつことから始まる。馬に代わったのは産業革命を推進した蒸気機関、今から2世紀余り前のことであった。その後、約一世紀を経て、ダイムラーのガソリン機関は大きく自動車を進化させ、「馬なし馬車」と呼ばれる時代を迎える。20世紀に入り、貴族や大富豪たちの富と権力の象徴としてより豪華な車づくりへと進んだ。
この流れに、革命的とも言える変化をもたらしたのがT 型フォード。大量生産技術を背景に「ワンモデルポリシー」を掲げ、虚飾を廃し、実用主義に徹して、18年もの間アメリカ人の足として君臨した。
これに立ち向かったのがGMのシボレー。豊富なカラーやモデルバリエーションなどスタイリングの重視、大量生産と製品バラエティを両立させるシステムづくりで市場を席巻した。
第一次世界大戦は航空機を発達させ、これが自動車のデザインに大きな影響を与えて、馬車時代の様式と航空機からの新技術が見事に共生する「ビンテージの時代」の幕開けとなる。こうした趣味的高級車も経済恐慌という歴史の波にのみ込まれ、衰退が加速し「流線形時代」へと移ってゆく。
馬車時代の四角い箱から丸い水滴形への変化であり、アメリカがこの流れを新しいスタイルとして捉え、イタリアのカロッツェリアは積極的空力思想によって、形態をより単純化する進歩的スタイルを生みだす。このころ、やっと日本で自動車の生産が開始されたのである。
第二次世界大戦後、アメリカはその豊かさを背景に、より大きく、より快適に、よりスタイリッシュへと車の姿を大きく変え、50~60年代の黄金期を迎える。私が学生時代に、自動車のデザイナーになろうと憧れたのには、これらの車の影響が大きい。

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