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はじめに

1997年7月、私が本田技研の本社役員を退任し、古巣である研究所のECA(主席技術顧問)を拝命。定年までの2年、何か、私にしかできないことはないだろうが、と考えた。そこで、デザイン室の若い連中と月イチぐらいで食事でもしながら、私が創業者の本田さんを始め諸先輩方から、33年間に亘って教えられ叩き込まれ、血となり肉となり、骨の髄まで染みついている「ものづくり」の何たるかを語り継げないものかと。


50代後半の私と20歳ほどの年齢差があることから、この集まりを「サーティーズクラブ」と名付けた。この時の若いデザイナーたちが今、ホンダのデザインマネジメントを担っていることは、私の誇りであり喜びである。何回か回を重ねているうちに彼らから、場での話を何とか文字にして残してもらえないかと。それが『私のデザイン考・かたちはこころ』というタイトルで、1998年4月1日から週二話ずつ2年間にわたって、当時まだ目新しかったEメールで配信されることになる。

最初はデザイン室の中だけで読まれていたものが、やがて口コミで広まり、それに、コンピューター室の室長が愛読者になり応援してくれたこともあって、ついには世界中の研究所の出先機関にまで発信されるに至った。研究所の、Eメールの世界ネットワークづくりに貢献することにも繋がった。
1999年11月、定年退職と同時に何か新しいことをと思い立ち、松岡正剛氏が設立したばかりの編集学校で学ぶことにした。それが縁で2005年、編集学校のサイト立ち上げに際して原稿を頼まれ、一般の人にも読み易いように字数を1000字以内とし、かつ難しい専門用語を極力排して、このエッセイ『本田宗一郎がくれた千字薬-かたちはこころ-』に再編し配信することになった。1000字ということもあり、これを読め(飲め)ば元気になる「かたちはこころ」という「煎じ薬=千字薬」、と洒落てみた。

さてこのエッセイ、みなさんはどのように読まれるだろうか。私もこの歳で20年ぶりに読み返してみて、手前味噌で恐縮だが、20代、30代、40代、50代と、デザインという仕事を通じて、自身の成長はもとより、デザインの持つ威力、デザインの果たす領域や役割とその広がりなど改めて知ることができた。みなさんにとっても、デザインに対する新しい理解が生まれるに違いないと。同時にみなさんの生活や仕事の場で、少なからずお役に立てるのでは、と密かに思っている。


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