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第91話.差し戻し

1980年

「これじゃ、期待するインパクトがない」と、決済者である本田技研社長の一言で評価会は差し戻しになった。2代目「ホンダプレリュード」の企画評価会も5回目を数える。「今度は大丈夫」と勢い込んで臨んだが、ものの見事に落っこちてしまった。
初代プレリュードは、国内での、ベルノ系列店を立ち上げるための中心機種として期待されたが、市場からはあまり良い評価を得られなかった。自動車評論家から「川越ベンツ」と冷やかされ、お客さんからは「ホンダらしくない」と言われていた。今回のモデルチェンジに対する期待は高い。
世の中はと言えば、まさにスーパーカー時代。そして、テレビでは毎日のように、「ハッとしてグー」と、刺激的なコマーシャルが流れている。一瞬にして価値の分かる商品が期待されていた。そんな中で、2代目プレリュードの企画作業が研究所が一丸となって進められた。
今回のモデルチェンジに課せられた役割は、初代プレリュードを中心に据えて設立したベルノ系列店の建て直しと、ここのところ言われている「ホンダらしさ」の再構築である。この二つを達成するには、相当インパクトのある企画が期待されるのは当然であった。
そこでチームが最初に考えたのが、「強力な心臓」の必要性である。が、厳しい排ガス規制にはいち早く対応したとは言え、初代プレリュードのCVCCエンジンは、残念ながら、どうみてもスポーツイメージを打ち出すに相応しいものではなかった。
という訳で、2代目のエンジンをどうするかが、この企画の重要課題となっていて、裏では密かに、新しいエンジンの検討も複数案進めていると聞いていた。そんな中、ここはひとつデザインで頑張るしかないと、選りすぐりの若手デザイナーを数名、HRAに送り込むことになる。
カリフォルニアのまぶしい太陽のもと、新しいデザインイメージが出てくればとの期待からだ。アメリカでの初代プレリュードの評価は日本市場とは違って、シビック、アコードの成功に続くホンダからのニューカマー(新型車)として、若いセクレタリーの心を捉え、新しい市場を開拓しつつあった。
若手デザイナーの持ち帰ったスケッチにも、その辺が色濃く出ていた。アメリカ勢が大喜びしたというそのデザインは、初代をより優雅に洗練させたもので、早速、モデル作業とともにエンジンの改良も詰められてゆく。そのスケッチと改良エンジンで、果たしてインパクトのある商品が出来るのだろうか。

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