見出し画像

第112話. パイプ・インパネ

1983年

インテリアデザインの方も、エクステリア同様に人手がなかった。一番手間ひまのかかるのがインパネ(インストルメント・パネル)のデザイン。そこで考えたのが、ならば、インパネのデザインをやめてしまおうと。
これにはみんな驚いたが、背に腹は代えられない。どうしたかと言うと、室内のドア前方の両壁に直径50mmぐらいのパイプを渡し、強度メンバーとした上で、必要最低限のメーターを載せることにした。これなら、せいぜい小さなメーターバイザーの工数くらいで済むだろうと踏んだのである。
お陰で、ずいぶんユニークなインパネが誕生した。が、機能的とは言え、これではいくら何でもあんまりだと言うので、パイプ部分には薄く粘土をかぶせ、デザインはでき上がる。
しかし、それからが大変。私が、1/5のクレーモデルから、いきなり1/1のモックアップモデルをつくってしまおうとのアイデアを出し、さらに、室内も一緒の内外一体モデルをと欲張った。
気の遠くなるような手作業である。内と外の寸法合わせに悪戦苦闘の毎日。すべてが初めてのことばかりであったが、ようやく、「内外装一体モックアップモデル」なるものは完成した。
「エンジンはどこに?」と聞かれた主席研究員に、「どうぞ」と、モックアップモデルのドアを開けてみせた。これには相当びっくりされた様子。室内は思いのほか広いと思われたようだ。「エンジンは?」と、また聞かれる。
「ここです」と言って、こんどは前のボンネットを開けた。その中には、エンジンとボディ設計担当の苦心作である、折り畳んだエンジンとミッションがきちんと収まっている。さすがに「わっ!」と驚かれ、「参った、参った」を繰り返された。してやったり、である。
早速、営業に見てもらおうと言うことになり、真っ先に、大阪支店のM部長に声をかけた。直ぐに跳んできてくれ、もちろん、大喜びであったのは言うまでもない。
その後、この車は「トディ」となり、同時に進めていたローバーとの共同開発車は「レジェンド」となり、アメリカ要望の新機種は「インテグラ」となった。この時期、国内は3チャンネル体制となり、これら3機種は「トディ」はプリモ店、「インテグラ」はベルノ店、「レジェンド」はクリオ店に投入される。 
こうしてホンダは、「ピン」と「キリ」と「真ん中」の、まったくコンセプトの違う3つの車を、同時に手に入れることが出来た。アイデアは苦しい時にこそ出る。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?