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第107話.「島国根性」と「海賊魂」

1983年

こんな事例もあった。ボンネットの高さは、エンジンのレイアウトや運転者の視界の設定のため早くに定めておく必要がある。この車のエンジンは、ホンダのV6とローバー社のL4(直列4気筒)の混載が決まっていた。
ホンダがV6エンジンを低いボンネットに納まるようレイアウトしたのに対し、ローバー社の方は、L4エンジンのヘッド(頭)の位置が50mmほど高い。これをホンダ並に下げて欲しいと要求するのだが、「その必要はない」との一点張り。
こちらがあまりしつこく頼むものだから、彼らも「何故そんなに下げたいのか」と不思議がった。そこで我々の考え方を説明したが、「前方視界のためにボンネットを下げると言うが、それは、何を、どこを見るためなのか」とおよそ噛み合わない。
また、「開放感と言うが、前方の地面が見え過ぎると不安である。むしろ、ボンネットは高い方が安心感がある」と。さらに、「高い方が、外観デザインの見え方に威厳が出る上に安全にも見える」と全く引く気配はない。埒の開かないまま週末を迎えた。
気晴らしに、車でイギリスの田舎道を走ってみようと北へ向かう。グラスゴーの北、ヘレンズボローという小さな町はずれの丘の上に石造りの家を見つけた。立派な英国風の建物で、周囲の風景によくなじんでいた。
同行する英国通の仲間の解説によると、これは「ヒル・ハウス」と呼ばれている建物で、有名な建築家、チャールズ・マッキントッシュのデザインであると言う。石造りだから家の中と外は完全に遮断され、あたかも、厳しい英国の自然環境から住人を守っているようだ。
日本の木造の家は、蒸し暑い夏を快適に過すため開放的で風通しがよい。こうしてみると、木と紙の家に住む人と石造りの家に住む人との間では、物の見方、考え方に、違いがあって当たり前だなと感じてきた。どちらが正しいかではなく、「違っているんだ」と思った途端、すっかり気が楽に。
週明け、ローバー社の連中にそんな話しをしたら、彼らは笑いながら「じゃあ、半分の25mm下げようか」と。敵も中々やるわい。局面は打開されたが、損をしたのか得をしたのか。 その後も、この手の議論が果てしなく続いた。  
東と西の同じような島国が、一方は、ひたすら閉じこもって独特な文化を育て、片方は、大航海時代の覇者として世界を駆け巡った。悔しいがやはり、こちらの「島国根性」とあちらの「海賊魂」とでは、違いも差もあった。

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