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第221話.「粋」で「いなせ」

1998年

初代「ホンダオデッセイ」の、ユーザー調査レポートを見ていて分かったことがある。オデッセイのお客さんの多くが、この車のデザインを「エレガント」だと感じてくれているようだ。大ヒットした理由は、多分そんなところにあるのではないかと。
そして思い出すのは20年近く前、2代目プレリュードを開発していた頃、エンジン担当所付のSさんから、「あなたのデザインは、エレガントですね」と言われたことだ。エンジン屋さんが、デザインについて何か意見を言ってくれるというのは珍しいこと。その上「エレガント」と評されたことに、少なからず戸惑ったのを覚えている。
当時、私は40代に入ったばかり。まだまだ「突っ張って」いたし、ホンダ車のデザインには、「インパクト」とか「スポーティさ」が必要であると強く思っていた。また私自身、それまで「エレガント」という言葉を「優しい」とか「女々しい」というイメージで捉えていたこともあり、誉められたとは思わなかったのである。
「優しくて、強さがないのはダメでしょうか」と尋ねたら、「いや、良いと思って言っているのですよ。品があって」と言ってくれた。そして、初代アコードサルーンを眺めながら「僕は、このデザインが大好きでね」と。
その後の勉強で知ったことだが、「エレガント」の本来の意味には弱々しさなど微塵もなく、鍛え抜かれた身体のような、「しなやかさ」を指して言うのだそうだ。
同様に誤解されやすい言葉として、日本特有の「粋(いき)」がある。九鬼周造が「いきの構造」という著書の中で、「粋」を貫くには、生死(「いき」は「生き」と「逝き」からきている )を賭けるほどの覚悟が必要で、その緊張感が「艶」や「色気」を生み出すと言っている。
「粋」は「エレガント」に比べ俗っぽいところもある。が、決して下品ではない。むしろ、その潔さに品格さえ感じる。また、「粋」には「やせ我慢」がつきものだが、「我慢」のできる強さをもたない「粋」は存在しない。
「エレガント」も同様で、根底に「強さ」がないと成り立たないもの。それに、「エレガント」は 「優雅」と訳されることが多いが、どうしたら人の目に優雅に映るかの背景を抜きに、安易に日本語に訳せないと私は思っている。
江戸っ子の「粋」に「若さ」が加わると「いなせ(鯔背と書く)」になるらしい。日本流に言うと私の目指したデザインは、「粋」で「いなせ」いうところだろうか。

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